第21話
とにかく、頭で色々と考えているよりも実際にその時間になって川へ向かうのが一番だ。
「これで放課後の予定は決まったな」
健の言葉に海斗は力強く頷いたのだった。
☆☆☆
放課後に起こることばかりを考えていると、あっという間に放課後が訪れてしまった。
今日1日どんな授業を受けてきたのか思い出そうとしても難しい。
2人の頭の中には放課後のことしか入っていなかった。
「お前ら2人共、今日はどうしたんだ?」
放課後になって教室から飛び出したところで、担任教師に呼び止められた。
担任は呆れ顔をしていて、今日1日2人共勉强に身が入っていなかったことに気が付いていた。
どんなことでもよく気がつく、先生としてはとても優秀な人だと思う。
けれど今は担任に引き止められている暇はなかった。
2人は「先生さようなら!」と大きく手をふり、その横を駆け抜けた。
「あ、お前ら!」
担任が後方から引き止めて来ようとするけれど、それを無視して一気に階段を駆け下りる。
廊下を走るな! と、どこからか声が聞こえてきたけれど、それも無視した。
一目散に昇降口までやってきて、靴を履き替えるのももどかしい気持ちで外へ飛び出した。
「川の流れが早いな」
橋まで止まらずに走ってきた2人は、ようやく足を止めた。
橋の中央から川を見下ろしてみると、海斗が言ったとおりいつもよりも川の流れが早いように見える。
雨が振った様子はなかったけれど、川の水位は日によって全然違うみたいだ。
これなら生徒1人が流されても不思議ではないかもしれない。
そう思い、海斗は周辺へ視線を走らせた。
ここは小学校の通学路にもなっているので、今の時間帯行き交う生徒たちが多い。
「低学年の姿がないな」
ふと気が付いて健が呟く。
「1年生と2年生は1時間早く帰るだろ」
今日は授業の本数自体が1本少ないのだ。
「そういやそうだっけ」
となると、川に流されてしまうのは3年生以降ということになる。
しかし、見ている範囲では手すりによじ登ったり、危険なことをしている生徒の姿は見えない。
この橋を渡る時には気をつけるよう、日頃から先生たちに言われていて、生徒たちもそれを守っている雰囲気だ。
「河川敷に降りてみるか」
「そうだな」
2人は頷きあい、階段を降りて河川敷へと向かった。
河川敷はコンクリートで舗装されている場所と、芝生が植えられていてちょっとし
た広場になってる場所がある。
けれど、河川敷のすべてがそんなふうにキレイにサれているわけじゃない。
向かい側へ視線を向けると草木が生い茂って、小さな子どもくらいならすっぽりと覆い隠してしまいそうだ。
「特になにもないなぁ」
河川敷で遊んでいる生徒でもいるのかと思ったが、そんな姿も見えない。
一体被害者になる子はどこにいるんだろう?
そう思って海斗が首をかしげたとき、水面を見つめていた健が少し視線をずらした。
そして「あっ!」と、大きな声を上げる。
「どうした?」
駆け寄ってみると健は向かい側の河川敷を指差した。
その先へ視線を向けると、1人の少女がくさきヲかき分けて歩いているのが見えた。
なにか探しているのか、キョロキョロと周囲を見回している。
橋の上からなにかを落としてしまったのかもしれない。
ふざけ合いながら歩いていると、よくあることだった。
「あれって亮子じゃないか?」
目をこらして確認してみると、その少女は亮子のようなのだ。
2人は驚いて目を見交わせた。
橘亮子と予言関係の場所で会うのはこれで3度目だ。
1度目は駄菓子屋の近くでの交通事故。
2度めは家庭科室での火事。
そして3度目。
今度は川に落ちるという予言をされている。
それらを思い出して海斗は背筋が寒くなるのを感じた。
ここまで危険なことが亮子につきまとっているなんて、まるで死神に狙われているのではないかと感じたのだ。
「まさか、今回も亮子じゃないよな?」
健も不安そうな表情を浮かべている。
海斗はなにも言えなかった。
今のところ亮子以外に河川敷へ降りてきている生徒はいないし、橋の上から落ちてきそうな生徒の気配もない。
となると、やはり亮子一番が危険な場所にいるんじゃないだろうか。
「おーい! そこは危ないぞ!」
とにかく亮子に危険を知らせるために海斗は大きな声を上げた。
「おーい!」
健も同じように声を上げて両手を振る。
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