第19話

☆☆☆


「最近またギフト来なくなったな」



昼休憩時間中、健が呟いた。



2人は中庭に出てきていてベンチで横になっていた。



グラウンドからは生徒たちの遊ぶ声が聞こえてきて、中庭を駆け抜けていく下級生たちもいる。



「そうだなぁ。平和ってことだな」



海斗は目を閉じて返事をした。



ベンチに座って空を見ていると鳥が気持ちよさそうに飛んでいく。



どこへ向かっているのか知らないけれど、軽々と空を飛ぶその姿には少し憧れるものがあった。



「そうだなぁ」



健はあくびを噛み殺して目尻に涙をためている。



平和なのはいいことだけれど、やはり気になるのは梓のことだ。



ギフトの回数はどんどん減っていて、その間梓の体は弱ってきている。



2人ともその比例していく出来事に気が付いていたけれど、話題に出すことを恐れていた。



「そういえば執事の姿も見てないな」



健に言われて海斗は上半身を起こした。



太陽で熱された体が少し暑くなってきている。



「梓の執事か? そりゃギフトがなければ会わないだろ」



元々あの男とはギフトで繋がれていた関係だ。



そのギフトがなければ会うこともない。



当然のことだったけれど、少しさみしい気はする。



「お前、あいつの連絡先知っているだろ。連絡とってみたりしないの?」



聞かれて海斗はしかめっ面をシた。



確かに予知夢が子供の手に負えないときのために連絡先は交換している。



けれどなにもないのに連絡するほどの関係にはなっていなかった。



「しないよ。殴られたし」



海斗はまだあの朝のことを根に持っているようで、頬をさすった。



そこはすでに熱も持っていなかったし、痛みは少しも残っていない。



けれどあのときの衝撃だけは海斗の胸の中いつまでも残り続けている。



「そういえば殴られたんだっけな」



健が楽しげな笑い声を上げる。



「笑い事じゃねぇし」



仏頂面になってそう言う海斗に、不意に健が真面目な表情になった。



「でもさ、あいつが殴ってくれなかったら、俺が殴ってたかもな」



「まじかよ」



「だってお前自分のことしか考えてなかったじゃん」



そう言われると言い返す言葉が見つからない。



梓に会うと辛くなるからと逃げていたのは、確かに自分のためだった。



「ま、今は毎日お見舞いに行けれるからいいけどなぁ!」



立ち上がった健がバンッ! と痛いくらいに海斗の背中を叩く。



「今日も行くんだろ?」



「もちろん、行くよ」



海斗はまっすぐにそう返事をした。


☆☆☆


いつもどおり病院へ向かい、エレベーターで5階へ向かう。



病院どくとくの匂いは何度来てもなれることがない。



エレベーターがチンッと情けない音を立てて5階で止まり、扉が開いた。



目の前のナースステーションへ視線を向けると、いつも放課後の時間帯にいる女性の看護師さんと視線がぶつかった。



「今日も来たのね、おふたりさん」



ひらひらと手を振って見せる看護師さんに軽く会釈をして梓の病室へと向かった。



白いドアを軽くノックして、返事が来るのを待ってから開ける。



病室のベッドの上に梓は上体を起こして待っていた。



「運動してたのか?」



今の梓にとって上体を起こすという行為も体力を使うものだとわかっていたので、海斗はそう聞いた。



「ううん。今起こしたところなの」



ノック音が聞こえてきたからだろう。



「そっか。じゃあ今日はどんな話をしようか」



海斗が慣れた様子で丸イスをベッドに近づけて座る。



健はその少し後ろに、同じような丸イスを移動させて座った。



「今日はちょっと相談があるんだけど」



梓が言いにくそうに口を開く。



いつもならここから海斗や健が経験した面白い話をする流れになるのだけれど、相談があるなら話は別だった。



「もちろん。なんで言って?」



正直梓から予知夢以外で相談を受けることは初めてで、海斗はこころなしか嬉しくなって姿勢をただした。



海斗の後ろにいる健も興味津々で身を乗り出している。



「実は最近私の執事の姿を見かけないの」



思いも寄らない相談事に海斗と健は目を見交わせた。



そう言えば今日の昼間にあの男を見かけないという話を、健と2人でしたばかりだった。



まさか似たような話を梓からされるとは思ってもいなかった。



「でも、連絡は取れるんだろ?」



あの男は梓の付き人を仕事としている。



梓から連絡を入れれば飛んでくるはずだ。



しかし梓は落ち込んだ様子で左右に首を振った。



「何度電話そしても出てくれないの」



それは一体どういうことだろう?



付き人としての仕事をしていないということは、給料にも影響が出てきてもおかしくないはずだ。



それなのに梓からの連絡を無視するなんて、ちょっと考えられない。



「なにか心当たりは?」



海斗がそう聞くと、梓は一瞬視線をそらして下唇を噛み締めた。



なにか思い当たるところがあるみたいだ。



「ちょっと前にね、私言っちゃったの」



「言ったって、なにを?」



聞くと梓は一呼吸を置いた。



2人に話していいものかどうか悩んでいるようだけれど、相談をもちかけたからには話す必要があると判断したみたいだ。



「私なんかの世話は、もうしなくていいよって」



その言葉に海斗も健も目を見開いた。



「どうしてそんなことを?」



海斗が聞くと、梓は目に涙を浮かべて「だって、もういつ死ぬかわからないし」


と、勢いよく答えた。



その言葉に海斗も健も黙り込み、重たい沈黙が病室に立ち込めた。

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