第3話

先程まで騒がしかった下級生たちはお目当ての商品を購入して店内からいなくなっていた。



今お店の中には6年生の男子が1人いるだけで、店先にも生徒の姿はない。



これなら安心か……。



海斗がそう思ったときだった。



「おい!」



健に腕を掴まれて振り向いた。



「なんだよ」



と、文句を言いながら健の視線の先を追いかける。



そこにいたのは5年生の女子3人組だったのだ。



隣のクラスにいる3人組だから、顔をみればすぐにわかった。



海斗と健は目配せをする。



きっと梓はこの3人組のことを夢に見たに違いない!



咄嗟に海斗の足が動いていた。



続いて健も歩き出す。



なにげなく3人組と通り過ぎて、海斗と健は立ち止まった。



2人は駄菓子屋へ近づいていく3人組の背中を見て、頷きあった。



海斗はポケットの中に入れておいて、男から預かったものを取り出す。



そして3人組へ話しかけた。



「あのさぁ!」



少し大きな声を上げたので3人が同時に立ち止まった。



海斗はその場に立ったまま、持っているソレを3人に見えるように手に持った。



「これ、落としたけど誰の?」



その質問に3人は同時に近づいてきた。



駄菓子屋との距離が開く。



そして海斗の持っているものを見つめて、自分のポケットを探り始めた。



「私はちゃんと持ってるよ」



1人がピンク色のハンカチを取り出して答えた。



他の2人も同じようにハンカチを取り出す。



「そっか、お前らの落としものじゃなかったのか」



海斗が白いハンカチをヒラヒラさせて言うと、1人が「海斗くんが落とし物を拾ってくれるなんて珍しいね」と言い出した。



「え!? 落とし物くらい拾うだろ普通」



「え~? 海斗くんと健くんにはそんなイメージないなぁ」



「わかる」



クスクスと頷きあって笑い始める3人組に海斗と健は目を見交わせた。



自分たちがそんなに悪いイメージを持たれているなんて、少しショックだ。



だけどこんなところでショックを受けている場合ではない。



男が用意してくれたハンカチのお陰で3人を引き止めることに成功したが、事故の大きさによってはここにいても危険だ。



「なんだよそれ。っていうか、靴紐解けてないか?」



健が仏頂面になってそう言い、1人の運動靴を指差した。



「あ、本当だ!」



「危ないから、こっちで結び直せば?」



健が上手に誘導して歩道の脇へと移動する。



さっき3人組がハンカチを取り出して見せている間に、健がこっそりしゃがみこんで靴紐を解いていたのだ。



こんなにうまく行くとは思わなかったけれど。



他愛のない会話をしながら靴紐を結び直していると、1台の軽自動車が近づいてくるのが見えた。



その車は左右に蛇行しながらこちらへ近づいてくる。



あれだ!



海斗がそう思った次の瞬間、急にスピードを上げた自動車がこちらへ向かって突進してきたのだ。



車はあっという間に歩道に乗り上げて、先程まで自分たちがいた場所で停車した。



大きな音に驚いて振り向き、悲鳴を上げる女子生徒たち。



駄菓子屋に居た6年生やお店の人も出てきてあっという間にその場は大騒ぎになってしまった。



しかし、けが人は誰もいない。



運転手はどうかわからないけれど、きっと死んだりはしていないだろう。



どんどん騒がしくなってくる周囲に海斗と健はそっとその場を後にしたのだった。





交通事故のことは夕方のローカルニュースで放送された。



学校から違い場所で起こった事故ということで重々しく伝えられたニュースだったが、けが人も死人もゼロ。



事故を起こした運転手は当時居眠り運転をしていたということがわかった。



「ひどいわねぇ居眠りなんて」



なにも知らない母親はコロッケを口に入れながら左右に首をふる。



俺と健が女子生徒3人を助けたんだ。



と、喉元まで出かかったけれど黙っていた。



どうせ両親は何を言っても信じてくれない。



暗黒ギフトのことを説明したときも、くだらないことを言うなと怒られてしまった。



「学校の近くだし、怖いな」



父親も深刻そうな表情をしている。



けれどテレビニュースでは運転手の居眠り運転は度重なる深夜までの残業が原因ではないかという話しに進んで行っていた。



加害者が努めていた会社では深夜2時くらいまで残業することは毎日で、家に帰れない日も多々あったと言う。



そんな中で起こった事故ということで、世間は加害者に同情的な意見が多いようだ。



事故を起こす側も、色々と事情があるんだな……。



海斗はコロッケを口に放り込んでそんなことを考えていたのだった。


☆☆☆


今回は黒スーツの男のお陰で無事に事故を回避することができて本当によかった。



子供だけではなく大人の力も加わるとこんなにも簡単に事故を防ぐことができるのかと、驚いてもいた。



「海斗くん!」



5年3組の教室に入ろうとしたとき、廊下で呼び止められた。



立ち止まって振り向くとそこには昨日助けた3人組がいた。



「あ、昨日の」



小さく呟く。



昨晩も遅くまでゲームをしていたため、まだ頭が起きていないのだ。



ぼーっとした頭で3人に向き直ると、突然紙袋を渡された。



「はい、これ昨日のお礼ね!」



1人にそう言われて海斗は目をパチクリさせる。



「お礼って?」



予知夢のことは知らないはずだ。

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