第2話

海斗だって、その中の1人だった。



「そんなの、俺と健だけじゃどうにもならないよ」



本当はどうにかしたい気持ちでいっぱいだ。



交通事故なんて命に関わるようなこと、引き起こさせるわけにはいかないから。



「もちろん、なにかあれば手伝う。だけど今日はお嬢様を病院へ連れて行く予定も入っているんだ」



「そっか……」



梓の病院が長引けば、男に手伝ってもらうことはできないかもしれない。



どっちにしろ、自分と健の2人だけで頑張らないといけない。



「でも、どうやったら交通事故が防げるんだろう? 事前に運転手に知らせるとか?」



男は左右に首をふる。



「残念ながら、交通事故を起こすのがどんな人間なのかまではわからなかったらしい。だから運転手と事前に話をすることは無理だ」



「じゃあ、どうすれば」



海斗が途方にくれそうになったとき、車がゆっくりと停車した。



見ればすでに学校の校門前に到着している。



「これを使えばいい」



男はそう言い、ポケットの中からなにかを取り出したのだった。


☆☆☆


男に学校まで送ってもらったことで、登校班よりも早く教室にたどり着くことができてしまった。



まだ人数の少ない教室の席につき、男が差し出して来たものを手のひらで弄ぶ。



男から聞いた計画を何度も頭の中で思い出すけれど、そう簡単にいくものかどうかあやしかった。



けれど、今の自分にできることといえばこれくらいのことだった。



今回の任務の重大さに思わずため息が漏れてしまう。



「今日は一段と悩んだ顔してるな」



後ろから声をかけられて振り向くと、そこには友人の西村健が立っていた。



梓が見た悪い予知夢を一緒に解消している仲間だ。



ちなみに、予知夢が書かれた手紙が黒い箱に入れられて届くことから、健が『暗黒ギフト』と名付けたのだ。



「今回はちょっとヤバイかもしれないんだ」



海斗の言葉ですべてを察したように健が頷く。



そして2人は場所を変えて人の少ない廊下へと移動した。



窓から差し込む太陽光が眩しくて思わず目を細める。



「やばいってなにが」



「交通事故が起こるって。それであの黒スーツの男が直接俺に話しをしに来たんだ」



「直接って、家まで来たのか?」



海斗は頷いた。



健は驚いて目を丸くしているが、これで事態の重要さに気が付いてくれただろう。



それから詳しい説明を健にすると、その表情はみるみる険しくなっていく。



「そんなにうまくいくと思うか?」



「やるしかないだろ」



海斗の手の上には男が用意してくれたものがある。



計画も健に説明したところだった。



「もし失敗したら、その3人は……」



そこまで言って健は口を閉じた。



自分たちの目の前で人が死ぬかも知れないという事態に、急に怖くなったのだ。



「もしそうなったとしても、知っていてなにもしないのはないだろ」



「……まぁ、そうだよな」



海斗の言葉に健は頷く。



失敗しれば目の前で誰かが死ぬかも知れない。



しかし、今ならまだそれを止めることができるかもしれないのだ。



そしてそれを信じて梓は自分たちに願いを託してきている。



梓のためにもやるだけのことはやらないといけない。



そんな気持ちになっていた。



寝たきりの梓はこんなヒドイ予知夢を見て、毎日のように苦しんでいるに違いないのだから。



「よし、やろう」



健と海斗は拳をぶつけ合ったのだった。



何度も健と計画を確認してみたけれど、やっぱり本番になると緊張感が全く違う。



放課後が来るのが怖いと感じたのはこれが初めての経験かもしれない。



先生からの挨拶が終わり、みんなが開放感であふれる放課後。



健と海斗は険しい表情で教室を出た。



廊下を歩けばなにも知らない生徒たちが遊びに行く約束を交わしている。



「事故に会うのって誰だと思う?」



小さな声で健にそう聞かれて海斗は左右に首を振った。



「わからない」



梓の予知夢はいつも被害者や加害者のことについては曖昧だ。



相手の背丈や服装くらいならボンヤリとわかるらしいけれど、顔は完全にモヤがかけられていて見ることができないそうだ。



だから今回も女子生徒3人組という情報と、おそらく5、6年生くらいだということしかわからなかった。



被害者の名前がわかっていれば、駄菓子屋へ行くのを引き止めることができるのだけれど、それは難しそうだった。



「5、6年の女子って全部で200人はいるもんな」



廊下に溢れ出している生徒たちへ視線を向けて健は呟く。



きゃあきゃあと冗談を言い合いながら楽しげに女子生徒が通り過ぎていく。



「あぁ。さすがにこの中から目星をつけるのは無理がある。早く駄菓子屋に行こう」



2人が被害者を見つけるためには、被害者よりも先に現場へ向かって観察するしかない。



2人は人波をかき分けて昇降口へと急いだのだった。


☆☆☆


放課後の駄菓子屋はひっきりなしに小学生たちが出入りしているようだった。



今日は特に繁盛しているようで、狭い店内は小学生でいっぱいだ。



「あの中に女子生徒はいないみたいだ」



入り口からチラリと店内を確認して海斗が言う。



店の中にいたのはみんな男子生徒たちで、3年生くらいに見えた。



「そっか。じゃあこの辺で待ってようか」



健と海斗は駄菓子屋から少し離れて行き交う生徒たちを見つめた。



駄菓子屋の前には自販機やガチャガチャもあって、それを目的として集まってくる生徒も多かった。



「こんなところで事故が起きたら、女子生徒3人だじゃ済まないかもな」



時間が経つにつれて生徒の姿が増えていき、海斗はついそんなことを呟く。



健は顔をしかめて「でも、駄菓子屋に突っ込むってわけじゃないんだろ?」と言った。



確かに、あの男から聞いた話では駄菓子屋の近くで起こる事故だったはずだ。



それでも下級生たちが騒ぐ店内を見た海斗は気をもまずには居られなかった。



その状況で待つこと15分。

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