暗黒ギフト2

西羽咲 花月

第1話

梓は拾い部屋の大きなバッドで1人眠っていた。



白いパジャマ姿の梓は額に汗を浮かべて何度も寝返りをうつ。



時折眉間にシワを寄せてうめき声を漏らすが、なかなか夢から覚めることができない。



梓は逃れることのできない夢の世界から逃げだそうとするかのように、手を伸ばしてシーツを強く掴む。



梓に乱暴に掴まれたシーツがクシャッとシワになって、同時に梓の目が開いた。



ハッと一旦大きく息を吸い込み、目はうつろに部屋の中を見回した。



そしてここが自分の部屋であることを確認すると、ハーッと大きく息を吐き出す。



額から流れる汗を手の甲でぬぐい、未だにバクバクと高鳴っている心臓を服の上からふれる。



少し呼吸が落ち着いてきたタイミングで、梓は枕元にある内線電話を店したのだった。


☆☆☆


「海斗! いつまで寝てるの!?」



そんな声が聞こえてきて海斗は慌てて飛び起きた。



ベッドの上で上半身を起こした状態で、キョロキョロと周囲を見回す。



「あれ? ゲームセンターは?」



寝起きのかすれた声でそう呟くと、起こしに来た母親から「なに言ってるの」と、呆れ声が帰ってきた。



ついさっきまでゲームセンターで遊んでいた夢を見ていたから、まだ寝ぼけているのだ。



そうか、さっきのは夢だったのか。



せっかくいい感じでゲームが進んでたのにな。



夢の中で格闘ゲームをしていた海斗は次々と敵を倒して無敵のプレイヤー扱いを受けていた。



ゲームを観戦していたギャラリーからも大きな拍手を貰ったのだ。



そのシーンを思い出して思わずうっとりしてしまう。



が、そんなことをしている時間はもう残されていなかった。



昨晩もテレビゲームをしすぎて寝る時間が遅くなり、すでに登校班が出発している時間帯なのだ。



「やばっ!」



海斗はようやく学校へ向かう支度を始めたのだった。


☆☆☆


朝ごはんを食べられなかったのは今週だけで4回目だった。



先週新しいゲームを買って貰って、夢中になってプレイしているのが原因だ。



両親からは呆れられているけれど、ゲームを途中でやめることがどうしてもできない。



結果的に両親のどちらかに『早く寝ろ!』と怒られるまでプレイしてしまう。



このまま続けていたらゲームを取り上げられてしまうかもしれないという恐怖もあるけれど、それでもラストまでプレイしないと終われなかった。



だから海斗はせめて小学校に遅刻しないようにとだけ心がけていた。



ゲームのしすぎで寝坊して、遅刻までしたとバレたら本当にまずいことになるからだ。



この際、登校班に遅刻していることは仕方のないこととして判断することにする。



「行ってきます!」



大急ぎで玄関から飛び出したとき、目の間に黒いスーツを着た男が立っていた海斗は足に急ブレーキをかけた。



「え、あ、なんで?」



朝っぱらからこの人に会うなんて事初めてで混乱してしまう。



海斗はキョトンとした表情を背の高いその人へ向けた。



「今日は重要な話しがある」



男が深刻そうな声色で言う。



男は何度も海斗の家をおとずれているが、こんな風に待っていたことは1度もなかった。



いつも梓が予知した手紙を、黒い箱に入れて玄関先に置いておくだけだ。



海斗は男の表情から真剣さを感じて「話し?」と聞き返した。



早くしないと学校に遅刻してしまうが、そんなこともうどうでもよくなった。



これは非常事態だ。



「学校まで送っていく。車の中で話をしよう」



男に促されて、海斗は表に停めてある黒い車に乗り込んだのだった。


☆☆☆


「それで、話しって?」



助手席に乗った海斗は流れる景色に視線を向けながら聞いた。



運転している男の表情はずっと険しくて、見ているとこちらまで険しい表情になっていってしまいそうだった。



「今日、またお嬢様が予知夢を見た」



お嬢様というのは秋吉梓のことだ。



梓は海斗たちと同級生だけれど、体が弱くてほとんど学校に来ることができていない。



今も自宅で治療を続けているが、なにがきっかけになったのか、学校の内外で生徒たちに降りかかる悪いことを夢で見ることができるようになったのだ。



学校に友人がいない梓は、1度だけ優しくしてくれた海斗のことを覚えていてため、海斗を頼るようになった。



海斗自信、それを誇らしいことだと感じている。



「どんな?」



「交友事故だ」



男の言葉に心臓がドクンッと跳ねる。



以前の予言でもそれに似たことがあった。



ハトがトラックにぶつかり、そのトラックが事故を起こすというものだ。



どうにかその事故は防いだものの、海斗と友人の健だけではどうにもならないかもしれないと、不安になったものだった。



その時のことを思い出した海斗は軽くうつむいた。



「今日の放課後、女子生徒3人が帰宅中に車が突っ込んでくる」



「車が突っ込むって、その生徒たちに向かって?」



問いかけに男は頷く。



海斗はゴクリと唾を飲み込んだ。



「女子生徒たちはおそらく5年生か6年生で、場所は駄菓子屋の近くだ」



そう説明されて海斗は学校から少し離れた場所にある駄菓子屋のことを思い出していた。



おそらくはあそこのことで合っていっるはずだ。



あの駄菓子屋が子どもたちがよく集まっている場所で、学校帰りにこっそり立ち寄っている生徒たちも多い。

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