最終章: future at DLC

第39話:迎えた最後の朝

鳴霾の精神が安定して再起した。


私達は家のドアを開けて外へ出た.....すると外は明るく、街中には人が歩いたり犬の散歩をしたりいつも通りの風景が広がっていた。


まるで、あの状態が無かったかのように。



『っ...!外が...明るい...?』


《人々も沢山居ます.......あの状態は終わったのでしょうか...?》


〚.........っ?〛



3人が住宅街の変わり様に辺りを見回している時、鳴霾も同じように周りを見ていた時に...見間違いなのか、遠くの家の窓から.......浄龍がこっちを見ていた(様に見えた)



〚っ英里奈...月詠...!今あの家の窓からっ...浄龍がっ!こっちを見てた!〛



英里奈の服を指で掴み、遠くの家の窓を指差す。

その方向を見ると、ほんのちょっとだけ人影が見えてはすぐに姿が消えた。



『確かに、今人影が見えたね。』


〚でももう見えなくなっちゃった......〛


『......あれはいいよ、簡単に本物の姿を見せる程

危機感が無いわけじゃないし。

それより、二人共これを見て───』



そう言って2人に見せたのはスマホの画面。

メッセージの画面を見せ、その相手はあの鳴利だった。



『2時間位前に連絡が来た、当然もう来ないと思ってたのにね。』


〚"大阪府大阪市生野区○○丁目○番○○号"

大阪...?住所なんて送ってきて何がしたいの?〛


《大阪市生野区...?さっき確か.....》


『ん、月詠これについて何か知ってるの?』



月詠はそれを聞いて説明し始めた。


私達が見て話していた浄龍は、月詠にとって鳴利の姿として見えていた様だ。

姿を消す前に、あの住所を月詠に伝えた。


実に夢のような話だ。



『なるほどね、では早速向かうとしよう。

鳴利が生きてるか死んでるか、結果を見るのが楽しみだよ。』


〚どーでもいいよ、さっさと行こ。〛


《行きましょう、お2人。》


──────────


人は忘れられてからが死の始まりだ。


人の想いというのは凄まじい。

好きも嫌いも同じで、ソイツに別々の意味で気がある。


もしも、人の記憶からソイツに関連した記録や記憶が完全に消えてしまったのなら......


ソイツが残していったモノは、どうなる?


──────────


《大阪府大阪市内》


英里奈の言う目的地へと向かう途中、鳴霾がふと英里奈にこう聞いた。



〚ね、ねぇ英里奈...?〛


『ん、どしたの?』


〚あのね...?英里奈があの時....言ってくれた言葉ね....嬉しかった......ホント、私には英里奈しか居ないって...そう再確認したんだ......〛


『っ....そう、良かったよそれなら。

私だって鳴霾には......元気でいて欲しいから.....

あの言葉はただの慰めとは違うしね。』


〚それでね...?その.....昔ボスがさ...?英里奈の事...違う呼び方してたの...覚えてる?〛


『あー.....うん、ボスは私の事をエリーと呼んでいたね。

私にもそう呼んでいい理由があったんだ。』


〚理由?教えて欲しいな....〛


『......私をそう呼んでいいのは、尊敬と愛を感じる人に対して。そう易々と呼ばせない。』



しかし英里奈は言う。



『でも後悔もしてる.......私が尊敬と愛を感じていた人に....私は憎しみと殺意を向けてしまった。


尊敬を損なわされたのかもしれない.....でも愛はあったんだと思う。

しかしその愛も一度憎しみへと変わり、その結果殺してしまった。


だから私は、尊敬を無くし愛のみを条件にしようと思ったの。


今貴女に対する愛は...........』


〚...............っ、言わないのかよ!〛


『はははははっ!まだ教えてあげませーん笑』


〚ケッ!英里奈大っ嫌い!〛


《(........結婚式場ってどうやって予約するんでしょうか...?)》


─────────────


《大阪府大阪市生野区某所》


鳴利から送られてきた住所に着いた私達。


しかし着いたとこには瓦礫の山で、尚且つ焦げ臭い臭いがして異様だった。



『ここ...?』


〚なんか焦げ臭くない?〛


《爆発でもしたんですかね.....》



中へ進んでいくと、その家の状態が奥へ進むと更に酷い状態だった。

確実に爆発した後の状態だった。



『何があったんだこの家で.....』


《でも不思議ですね、戦いの形跡が無い.....》


『鳴利もここへ来たのかな......んっ、待ってもしかして......』


〚エリー?何かわかったの?〛


『鳴利もここに来てたんだけど、仕掛けられた爆弾を食らって咄嗟に瞬間移動でここを去った。


爆発の規模が小さいのは、近距離で爆発したら十分に殺傷能力のある小規模爆弾を使ったんだ。


鳴利は何らかの目的でこの家へ訪れ、爆破から逃れる為瞬間移動で逃れた。』



鳴利がこんなボロ屋に来るのには、必ず何か理由があるに違いない。

家の規模的に戦った訳でも無い、確実に鳴利が求める何かがそこにあって、それを求めて鳴利はここへ来たはずだ。


どこへ行ったのか、それを知れるのは徠鳴だけだ。



『徠鳴、鳴利がどこに行ったか分かる?』


{.......埼玉県秩父市。とんでもない距離だね。

ここは大阪だよ?どうやってそんな長距離を....}


〚エリー行くの?〛


『.....もちろん。私達に明日を待つ時間はもう無い。

ダラダラこの一件に関わるのは終わり。

すぐにそこへ行くよ。』


〚うん!〛《はい!》


───────────


‹鳴利さんは組織の為によく頑張って下さいました。


前任者が死んでしまったのは残念でしたが、貴方は前任者からの推薦の重圧に屈することなく組織の為に尽力して下さいましたね。


貴方が密かに気に入っていたあの二人も、初期と比べかなり勇猛になりました。


最期に言わなくて良かったんですか?

鳴利、貴方が鳴霾や鳴忌、鳴奈の父親だと言う事を........›


【..........】


‹話させてあげます。一時的に。›


【───それは、お前もだろう?......"鳴々"】


─────────


台湾には昔有名なマフィアの夫婦が居た。


子供の頃から人を殺す経験をしていて、成長してマフィアのボスになった。

ボスになってからもその残忍さはより際立つものとなり、台湾全土で恐れられていた。


その男の名は魈鳴。


マフィアのボスで、金もある。

彼が何かを求めればその為に行動する手下も何十万といた。


そんな何でも手に入る男を、1人の女が惚れ、その女に魈鳴も惚れた。

その女の名前こそが───


───鳴々だ。


その二人はやがて結ばれ、魈鳴(鳴利)が死んだとされた2039年正月.....鳴々の方はと言うと、密かに日本へ渡り浄龍の元でDLCの研究をしていた。


ただ日本で働いているだけではなく、魈鳴の事をここ日本で探しつつ研究に勤しんでいた様だ。

それを尻目に魈鳴(鳴利)は、英里奈鳴霾のいる組織に所属しボスの地位に上り詰めた。


何故自身を死んだ事にしたのか、それはこれから本人の口より語られる。


──────────


【俺はあっちであらゆる権力を手に入れてた。

政治・経済・司法、この俺より上に立つ権力者は存在しなかった。


そんな自分が好きだったよ。お前は違ったがな。


付き合いやがて結婚したお前は、俺にずっと今の地位を降りる様説得してきていたな。

無論当時の俺は降りるわけなく、今でもお前の言葉に応じるつもりは無い。


それはもう俺にとってお前が愛する対象では無いからだ。


俺には新しい恋人を見つけたんだ。

俺を敵か味方か分からない、そんな迷ってる姿に愛おしさを感じる。


しかし俺は日本に来て、女を作るつもりで来た訳では無い。

俺の地位をやがて揺るがすことになるお前から離れる為だったのだ。


あのままあっちで逃げ回っても、妻であったお前は俺の手下を使い俺を探し回ると分かっていた。

だから俺は1人の手下にこう伝える様言ったんだ───


───俺を死んだ事にしろ。死体の写真は俺が用意する。】


‹.........なんて可哀想な人なんでしょうか.....私が一時でも愛した人は、本当に何でもする人なんですね。


自身の情けなさを露呈させる行為だと、分かっていながら。

魈鳴、貴方に恥という感情はないのですか?›


【鳴々、お前は何も分かっていないな。


自分の走る道に、いかなる障壁や障害を残してはならない。

恥なんてのは、自分の足を引っ張り選択を誤らせる一番の要因だ。


逃げるという行為は、自身の誇りのみで立ち向かう虚勢よりかは賢明な判断だと思うぞ?】



俺はマフィアのボスだ。

自身の身を守るのは自分だ。能力も持たない手下に俺の護衛が務まるはずがない。


誇りは死ぬまで失われることがない。

俺はこうして今も尚生きて、英里奈や鳴霾と出会い組織のボスとして返り咲いた。


俺に必要なのは組織における地位だ。

雑魚の上に立つその感覚が好きなんだ。



【前妻である貴様が、俺の優位に立ってるつもりだが....それは所詮虎の威を借る狐だ。


お前は俺が居るから、今があるのだ。】


‹いえ、何も分かっていないのは貴方の方です。


見て分かりませんか?自身が拘束されてるのを。

隣の綾子さんを、助けることも出来ぬまま。


虚勢を張ったって貴方の置かれている状況は何も変わらないんです。

いい加減目を覚ますべきです、貴方の作り上げた栄華は過去の夢物語で終わったんですから。›



鳴々(ソラ)がそう言うと、魈鳴(鳴利)はため息をつき5秒。

不敵な笑みを浮かべこう言った。



【これからの状況は、チェスで言うところのendgameだ。

それは時期に分かるさ───】



すると、家の外で車が家の前で停車する音が聞こえてきた。


──────────


《家の前》



『徠鳴、ここじゃなかったらどうするって話だったっけ?』


{鳴利の血液を1L飲む、逆にここだったらなんて話だった?}


『......鳴利と共に浄龍を殺して、私が浄龍の血を2L飲む。』


{そうそう、それでいいんだよ。

今から入るから、心の準備しなよ......}



そしてドアをこじ開ける音が、家の中に響き渡る。

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DLC カオさん @KAO_SAN

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