第38話:恋する銃

───鳴霾、これを見てどう思う?



10年前、組織に入って少し経った頃にボスが私を東京の夜景が良く見えるところに連れて来てくれた。


時刻は0時を回ってるというのに、街の輝きで不思議な気持ちだ。



〚......なんだか不思議な気持ちですね。言葉に表せないです。〛


「綺麗だろ?」


〚はい〛


「今感じる事はそれだけでいい。

この先何年生きるか分からなくても、いつかまたここに戻って来て...同じ事を言うんだ。


俺達が変わっても、景色は変わらないから。」


〚.......そうですね。またこの景色、ボスと一緒に見たいです。〛


「ははっ、そうだな。

....ところで鳴霾は組織に入ってどう生きる気だ?」


〚そうですね........すみません...何も考えてませんでした...〛


「ハッハッハッ笑 良いんだ謝る事は無いさ。


なぁ鳴霾.....鳴霾には教えておきたい事があるんだ。何か分かるか?」


〚.....分かりません....何をですか...?〛


「それは英里奈の事だ。もう名前は覚えたろ?」


〚はい、しかしボス....どうして英里奈の事なのですか...?〛


「....アイツには少し心の弱い部分がある。

だから鳴霾にはアイツのサポートをして欲しい。

優しく、厳しくだ。」


〚ボスの言うことには従います。

でもボス、それは"教え"ではなく"お願い"だと思います。〛


「フッ笑 そうだな。」


〚私、英里奈の事がまだよく分かりません。

かける言葉はどういう言葉がいいんでしょうか〛


「なんだっていい、アイツの為になる言葉を掛けてやるんだ。厳しくても優しくてもいい。


必要なのは心を響かせる事だ。

お前ならきっと、エリーと仲良くやれる筈だ。

頼むぞ」


〚はい〛



そう会話をした次の日、ボスは英里奈の手によって殺された。


────────────


『鳴霾!!やめて!!』


〚...さようなら───〛



破片を手に取って自身の首に突き刺そうとした時、英里奈が鳴霾に向かって銃を投げ飛ばす。


手に当たり、堪らず鳴霾は破片を手から離した。

そしてすぐに英里奈は、鳴霾の元へ行き胸ぐらを掴んで言った。



『バカ!!どうしちゃったのよ鳴霾!!?

誰が貴女をそこまで追い詰めてしまったの!?

私!?月詠!?誰!?言って!!言え!!!』



そう激しく問いただすと、鳴霾はゆっくりと話し始める。



〚.....あの日ボスと見た夜景は綺麗だった......


今でも不思議に思うんだ....夜景を見た時のあの気持ち.......ホントに不思議だ......〛


『....どういう意味?』


〚今まで私は....皆の役に立ててると思ってた。


最初こそそう確信していたのに....次第にその確信は自身に言い聞かせ、思い込ませる様になってきた.......


しかしアイツが私に言ったんだ....."お前は足でまといだ"って。


自分でもそんなの分かってるのに.....それなのに.......アイツは私に対して攻撃を辞めなかった。〛


『アイツ...?誰の事?』


〚分からないよ....顔も見えなかったし声も加工されてるみたいで誰か分からなかった......


アイツは持っていた凶器で、英里奈と月詠...そしてボスを一人一人惨殺していった。

私はそれをただただ呆然と見ていた......何も出来ぬまま......


3人に触れる事が出来ない....この事実が私の無力さをより際立たせるように感じた.......〛



そう言い終えると、鳴霾は口を閉じ再度うずくまってしまった。

私は、そっと鳴霾の横に座りこう話し出す。



『.....鳴霾は、私なんかよりも背負い込んでいたんだね......ずっとずっと.......


私は鳴霾にあの時言われた事を今でも覚えてる。忘れた事なんて無いよ。


あの時、私は目が覚めたんだ。

ボスをこの手で殺して、それから起こる物事から逃げ出そうと思っていたから.......自身の責任から....逃れようと思っていたから........


鳴霾が抱え込んでる問題が、どれ程のモノかなんて本人でない以上理解は出来ないけど....これだけは言える───



───鳴霾は私の大切な人だよ。』


〚っ........〛


《英里奈さん...!》


『私はもう28歳になった。18だった時はまだ精神的にも弱かった。

気にしなくていい事も気にしてしまうし、事実でも無いことを事実かのように錯覚して落ち込んでしまう事もあった。


そのせいで精神的にも中々安定しなかったの。

だから鳴霾から離れていったんだ。


あの10年間は、己との戦いだったよ。

実に長い年月だったけど、私には短く今でも感じてる。


でも鳴霾にとっては長い日々だったと思う。

それを私は知らないフリをして過ごしてた。

鳴霾1人にだけ辛い思いをさせて、それに気付く素振りも見せなくて、嫌な事から逃げてた.....』



───英里奈はそう言うと、自然と英里奈の目からは涙が流れてきていた。


鼻を啜り、涙を拭っても涙は止まらない。

その理由は...罪悪感からなのか、それとも───



《英里奈さん....涙っ......》


〚英里奈......なんで泣いてるの...?〛


『.......なんでだろうっ.....枯れたはずの涙が......


........鳴霾....私は貴女を足でまといと思った事なんて無い......むしろずっとずっと助かってる......

だから.....そんなこと言わないで......鳴霾は私の...なんだから........』


〚っ.........〛



英里奈は心の内全てをさらけ出した。


今まで感じていた罪悪感と、鳴霾に抱いていた特別な感情......照れくさいだとかそう言った感情は感じなかっただろう。


静かに涙を流す英里奈の横で、鳴霾はこう返した。



〚.....ありがとう......そう言ってくれると、私はひとりじゃないんだって.....そう思えるよ......


月詠も、英里奈も、死んじゃった今までの戦友も、私と一緒に居てくれる大事な仲間......


そんな中でも一番一緒に居る英里奈は.....私にとっても特別な人だって.....思ってる.....

戦いも、心も、全部英里奈が支えてくれる...だから.....本当にありがとう...!〛


『.....ううん、こちらこそ。

っ.....じゃあ...行こっか!』


〚うん!〛


《........これが、綾子さんの言っていた人の信頼と愛ってことなのでしょうか...?》

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