第37話:足りないパズルのピース

《鳴利|現在地:埼玉県秩父市某所》


俺には1つ手掛かりがあった。

正直のところ"勘"ってとこだがな。


それは今俺がいる秩父市内にある綾子の実家だ。


ハッキリ言うと根拠は無い。

ただ俺に残された有力な手口はそこしかない。

それが潰えたからまた新しく考える事にしている。


今俺には余裕が無い。

使える手がかりは全て使わなくてはならない。


そして既に俺は家の前に着いた。

モタモタしてられない。俺は合鍵で家の鍵を開け中に入った。



【雰囲気は......大して異常も...無いか.....】



大した異常も感じず、俺はそのまま中へと足を踏み入れていく。

リビングやトイレ、洗面所に風呂場、あらゆる部屋を見尽くして最後に残された部屋は綾子の部屋のみ。


俺は部屋の前に止まり、ドアに耳を当てて音を聞く。

すると案の定、中で何か音がした。


喋り声では無いが、何かを置いたり、足音の様なのが聞こえてくる。

俺はほぼ確実にいると確信し、ポッケに忍ばせた銃を握る。


そして息を整えると、俺は一気に部屋のドアを蹴り破り中に入る。



【綾子!!!.......やはり、お前も居るか......

ソラ!!】


〈え、鳴利!?来てくれたの!?〉


‹ほう......よくここだと分かりましたね。ここまで辿り着くのにさぞ苦労したことでしょう。

お疲れ様でした。›



綾子の部屋は1人にしては結構広い部屋だ。


部屋の中央には、明らか拷問用の椅子に器具。

その椅子の横にソラが立ち、椅子に綾子が座らされている。


しかし1つ疑問なのが、綾子の状態と器具の様子だ。


綾子の様子も大して異常を感じられないし、拷問器具も使われた形跡が見た感じ無い。

拷問や痛めつけるつもりが無いなら、なぜここに綾子を監禁しているんだ?


............まさか俺...釣られた?



‹貴方がここに来るのを楽しみにしてたんです。

貴方がきっとこの家にやってくると、信じていました。


だって貴方と綾子さんには、愛という見えない信頼関係で結ばれているのだから。›


【俺を試したってことか.....見事に試されたし、その上釣られたよ。】


‹私の目的は妨害です。誰かを殺すとか、そういう目的は御座いません。

私は鳴奈様の命令である"鳴利と綾子をあの3人に会わせないで"...これを遂行する為なのです。›


【あの3人...?英里奈達にか?】


‹左様で御座います。

あの3人は今浄龍様の始末へと躍起になっています。それは私達以外に貴方達も目的にしている事です。


浄龍様は偉大です。そんな方を貴方達の様な下劣で醜い存在が、楯突いていい存在な訳がありません。


そして鳴奈様からは、殺しても殺さなくていい、自分の判断でと仰って頂きました。


ですので.....›



その時、ソラは台に置かれた拷問器具の1つを手に取ってこちらを睨む。殺る気なのだろう。



【お前を初めて見た時から思ってたんだ......

命令に忠実で、言われた事をなんでもこなすお前のことを...まるでAIな様だとな。


言われた命令を、忠実に執行し、完了する。

誰かの言いなりでしか行動出来ないお前が、この俺を殺すなんて....イカれてんのか?笑】



煽り100%のセリフでソラを煽る。

ニヤニヤ俺が笑いながらソラの方を見ると、ソラはため息をついては俺にこう言った。



‹鳴利様は私についてまだまだ知らない事が多い様に感じますね。


その一つは私の能力についてです。


勘違いしてはいけないのは、単純に.....んです。分かります?


きっと貴方は思っていたのでしょう...."能力を使わない戦いならこの女に勝てるだろう"と。


そうかもしれませんね、私はあまり戦闘経験がございませんし...武力で勝るのは紛れもない鳴利様だと思います。


ですが、今私の言った能力の概要を聞いてでも...

まだ自身に勝機があると.....まだ思います?›


【......随分強気な言い口だなぁAIさん。

勝機があるかどうかはまだ気にしなくていい、

今必要なのは....勝つ気で挑む事だよ。】


‹では...始めましょう───›


─────────


『月詠ー!!おーい!!ここ!ここ!!』


《英里奈さん!?どこにいたんですか!?》



私の方を振り向いた月詠は、驚いた表情をしつつも私の方へと走り抱きついてくる。



《ホントにどうして急にいなくなってしまったんですか!?心配したんですからっ...!》


『あははーごめんごめん笑 心配かけちゃったね。』


《ホントですよ!全くもう...!》


『ごめんって〜機嫌悪くしないでよ〜........

ってか、鳴霾は???』


《.....そう言えば...どこへ行ったんでしょう.....

皆の姿が見えなくなった時、私の前を走っていった姿しか.......》



うん、何となく分かってた。


私が月詠とはぐれるより前に鳴霾とはぐれた。

呼び掛けにも応じない、しかもあの鳴霾...きっと厄介事に遭ってる筈だ。


しかし状況が状況なので呑気に探してられない。

私は月詠に作戦を伝える。



『外を探しても地形の変わるこの街じゃ、見つけるのは中々困難を極める。

だから、まずは周辺の家を調べる。』


《了解しました。

しかし、またあの時のように家の中でなにかがあるかもしれません....それでもですか?》


『当たり前でしょ。目の前の障壁は全て取っ払う。行くよ!!』



私達は周辺のありとあらゆる家を調べ上げた。

一軒、二軒、調べていく内に1つ分かったことがある。


家の時計、全てが同じ時間で止まっている。


6時6分6秒。6軒とも全部。

6....なんの意味合いか分からないけど、実に不吉な偶然だ。


時間が止まってるのかは分からないけど、そうだとしてもそうでなくともどうでもいい。

ただ1つ、気付いたことがそれだった。


そして7軒目に入った時、私達はようやく見つけた。


それはリビング。リビングの角で鳴霾の姿を見つけた。

しかし様子が変だ.....体育座りで顔を下にして、身体が微弱に揺れている。



『鳴霾?そんなところでなにしてるの...?

一人で怖かった?

もう大丈夫、私達が来たから───』


〚───ほっといて......〛


『....え?鳴霾?なんて───』


〚だからほっといてって.....どっか行って......

今すぐ......早く...!!〛



私はこの時気付いた。

何故鳴霾が今この状態になってしまってるのかを。


きっと鳴霾は私と同じ様な事に遭ったんだと思う。

精神攻撃を受けたんだ。私なんかよりもかなりショックを受けるような事を。


心を閉ざしてしまったんだ。


鳴霾はまだ18歳で、まだ心には幼い部分も残ってるはずだ。

私も昔はそうだった....外部からの言葉や出来事で感じるショックに、耐性がなかった。


だから私は、鳴霾の前で同じように体育座りをして語り掛ける。



『.......今の鳴霾を見ると、過去の私を見てるようだよ......


鳴霾...?私さ、あの組織に入ってからこの世界を生きると誓った。それよりちょっと前から決心はしてたけどね。


でもやっぱり、私に合わない世界なのかな...なんて思った。

死ぬのは今でも怖いし、大事だった親友...いや、恋人を失った時も立ち直れないかもしれなかったくらいに泣いて絶望したし.......


けれどそれでも私には仲間がいたし、鳴霾だって今も一緒にいて、月詠も加わって、今だから言えるけど───


───逃げなくて良かった。そう思ったよ。』


《英里奈さん......》


『皆が好きだ。私は仲間が大好き。

だからここまで来れた。死んでった仲間もいるけど、それでもここまで来た。


鳴霾が何故そうなってるか分からないけど、過去の私みたいなその姿を見て、どうしても言いたかったんだ。


どうして......そうなってしまったの?』



そう聞くより前から、鳴霾はすすり泣いていた。

そして問い掛けると......鳴霾はこう話し出す。



〚....私の前で2人が殺された........ううっ....殺したのは死神のような見た目で、中身は見えなかった........ソイツは私に向かって"お前のせいで2人は死んだ" "お前は足でまとい" って...私にっ......

あっ....ああっ...!.......ああ"あああ"あ"ああ"ぁぁぁ!!!〛



鳴霾は頭を抑えて叫び出す。

相当精神がやられてしまってる....精神崩壊が起きてるんだ。


取り乱しながら鳴霾はこう続けた。



〚本当はもっと皆の役に立ちたいのに...!!

自分が弱過ぎるからっ...!強くなれないからっ...!!バカだから!!!〛


『鳴霾っ!落ち着いて!!』



感情的になり暴れ出す鳴霾の両肩を抑えて落ち着かせる英里奈。



〚もう限界なの!!!アイツの言う事は正しかった!!!

今生きてても、時期に私のせいで2人は死んでしまう!!!私が足を引っ張ってしまうから!!


2人が死んじゃうくらいなら!私が死ぬ!!

何故早くそうしなかったのかっ...笑

ハハッ...笑 だから私はバカなのか.......〛



そう言うと英里奈を突き放し、割れて床に落ちていた花瓶の破片を手に取ろうとする。



『鳴霾!!やめて!!』


〚...さようなら───〛

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