第36話:目に映る嘘と隠された真実

鳴霾には前々から密かに思っていた事がある。


それは、自分が心の底から信頼し大事にしたいと思う仲間や友達が、目の前で死んでいくのを見るのが自身が一番恐れている、という事だ。


真尋が死に、知らない間に瑠衣も死に、真尋と相打ちで死んだ鳴忌達を思うと....見ているだけだった自分に、その順番が回ってくるのかなって思ってしまう。


自分が死ぬ訳でなくとも、私の前で英里奈が死に、月詠も同じように......そう考えてしまう度に私はこの世界で生きてる事に後悔してしまいそうになる。


いつだって私はそうだ。


この世界に生きていながら、人の死を目にしたり人を殺したりする事に度々吐き気がする......

その度に湧き出る自殺衝動を抑え込み、皆の前で笑顔を向ける。


私は昔から、本当の自分を見せるのが苦手だった。

何が本当の私なのか、分からなかった。


人殺しに否定的で、反社に対しても絶対近づかないし関わりたくない....そう思う私が本当なのか、今の私が本当なのか。


今私の心にある焦りと恐怖のせいか、私の精神はおかしくなりそうだ。

呼吸も段々と薄くなってくる。



〚はぁ...はぁ...はぁっ....はぁ......〛



今にも気を失ってしまいそうなくらいに追い詰められている。

しかしその時、玄関の方から誰かが入ってくる音がした。


私は本能的に敵が来たのではと思い、たまらず

立ち上がりリビングの扉の方を見た。

するとそこから、全身が真っ黒の見た目の人物がリビングに入ってきた。



〚だっ...誰...!?〛



震える身体を無理やり抑え、銃を取り出してソイツに構える。

しかしその某犯人の様な見た目は、何も言わずにリビングに入っては英里奈達の方へと向かう。


私はそれを察知して銃弾をそいつの足目掛けて撃った。

しかし銃弾は足をすり抜けた。



〚銃弾でも触れれないの...?〛



どうせコイツにも触れないんだろう。

そう思った私はソイツが何をするのか、恐る恐る見つめていた。


するとソイツはまずボスの後ろに立ち、手から出てきた明らか死神の鎌のようなものを出し両手でそれを握る。


何をこれからするのか予想は出来ていた。

だとしたら見たくない。そう思いながら。


しかし現実は非常だ。

嫌な事に限って予想が当たる。


大鎌を上に掲げ、ボスの頭上から一気に大鎌を振り下ろす。

あっという間にボスは一刀両断され、椅子から崩れるように倒れ死んだ。


それを見た瞬間、ボスの死体を見るよりも2人の方を見た。

これだけは本当に耐えられない。心に強くそう思ったからだ。


私はどうにかコイツの動きを止めれないかと思考を巡らせた。

何個かいい案を思いついても、その案の前に立ちはだかる"触れられない"という事実にどうしても躓いてしまう。


完全に手詰まりだ。

そう思っている間にソイツは、既に英里奈の後ろに立っていた。



〚や...やめて.....お願いやめて......〛



そんな私のお願いを切り裂くように、大鎌は英里奈の頭上より振り下ろされる。



〚やめて───!!!〛



涙が一気に溢れた。

まだ泣き始めてほんの数秒でも、人生で今までにないくらい泣いたと感じた。


英里奈の死体が、私の方を見ている。

いや英里奈だけじゃない、ボスの死体も私の方を見ていると気付いた。


耐えられない。完全に精神がおかしくなりそうだ。

そう思った時、ソイツは私の耳元でこう囁いてきた。



?「この3人も、お前が原因で死ぬ。

お前のせいで死ぬんだ。永遠に仲間の死に対する自責の念に苦しめられるがいい。」


〚っ...!........違う...そんなわけない.......

そんなわけない......はず........〛


「.......お前は自分がこの世界の生き方に相応しくないと思ってる。

考え過ぎるがあまり、それが戦いなどに影響して足でまといになる。」


〚そんなっ....ハズない.....!〛


「考えに気を取られて、その結果足を引っ張ってこの3人を死に追いやるんだ。

最初に死んだコイツだって、お前がもっと英里奈の事を考えていれば...貴様のボスを殺さずに済んだかもしれないのにな。」


〚っ.......〛


「貴様は所詮足でまといなんだよ。

あの二人だってきっとそう思ってるはずだ。


ここへ来た時だって、お前が誰のかも分からない家に入ったら....危うく死ぬかもしれなかった状況に2人を招き入れた。


危機感も無い、戦闘能力も無い........

極めつけはこの世界に相応しくないと思ってる、そんなお前に何が出来る???


人の足しか引っ張れない貴様が、2人をサポートし守る立場を....担えるのか???

その足でまといさで、2人を殺すのに???」



鋭く精神に刺さる言葉達で、私はぐうの音も出ず黙り込んでいた。

何とか反論しようにも、大した言葉は出ずしどろもどろになる。



「貴様は.....所詮仲間の死をそうやって呆然と見ているがいい───」



そう言って月詠の首を横一線に吹き飛ばす。

その瞬間私は耐えられなくなり、その場でバタりと倒れ気を失った。


──────────


《英里奈視点》


鳴霾に続き、次は月詠が消えた。

ヤバいとは思うけど、逆にイライラしてきた。



『チッ...!なんで居なくなるんだよクソ!!

周りは暗くてなんにも見えないし...!全くなんなんだよもう!!』



そう言いながら前へ進んでいくと、私の前に誰かが居るのを発見した。

とはいえ距離が遠く、私は近づく為小走りで前へと走る。


段々と距離が近くなってくる。

霞みがかって見えなかった顔が、少し鮮明に見えてくる。

そしてだいぶ近づいた頃、足を止めて私は声を掛けた。



『ねぇ!アナタは誰?ここがどこか知ってる?

周りが真っ暗でなんにも分かんなくてさ。』


{..........}


『ん?その顔.......徠那???

え、徠那だよね??どういうこと?なんでここに居るの??』



徠那。

10年以上前に、私と共に活動していた相棒。

彼女はその年に活動最中に死んでしまった。


彼女は私の中で誰よりも息の合ったパートナーだった。

彼女以外に相棒ができるなんてきっと有り得ないと思う程だ。


そんな彼女が今目の前に居ることに、私は物凄く困惑している。



『なにこれウソ幻覚??だってアンタは随分前に死んだはず......』


{久しぶりだね、会えて嬉しいよ。}


『えっあっ、う、うん.....久しぶり......

元気、してた?』



驚きを隠せず、久しぶりの再会だと言うのに会話がぎこちなくなってしまっている。

それでも気にしない様子で徠那は返す。



{うん、ぼちぼち上手くやってる。まぁ何もしてないから元気なんだけどね笑}


『.....そうなんだ......良かった───』


{ていうかさ、あの鳴霾って女...誰???}



話を突如変えた徠那。

内容は鳴霾についてで、誰?と聞く徠那の目は少し不気味に見えた。


少しびっくりしながらも、言われた質問に答える。



『鳴霾は、徠那が死んじゃってからの次のパートナー。結構仲良くやってるよ。』


{へー、そうなんだ......}


『.....徠那?どうしたの?』


{.......その女とは、どこまでやったの??}


『....え?どういうこ───』


{だから、どこまでやったのって!

まさか私が死んだからって、他に女作ってるなんてそんな事無いよね???}



まず...徠那の目はマジだった。

私は彼女といつも一緒にいたし、何年も一緒だったから分かる。


徠那は怒るといつも瞳孔が怖いくらい開き、両手で肩を掴んで顔を近付かせる。

この徠那の癖を私は昔から怖がっていた。


徠那は冗談で言ってるんじゃない。

かなりマジにイラついて、私にこうやって追求してるんだ。



『ら、徠那....か、肩....痛いっ...!!離してっ...!!』


{質問に答えろよボケが!!どうなんだよ!?

ホントは私が死んだから、どうでも良くなってその女とよろしくやってたんだろーが!!?}


『ち、違うっ...!鳴霾とはっ....そんなんじゃないって...!!』


{嘘ついてんじゃねぇぞ尻軽女が!!!

アンタを守る為に私は銃弾を浴びた!!!

あんたの為に私は死んだのに!!!

そのくせアンタは、女なんか作って毎晩ヤってたんだろどうせ!!!ふざけやがって!!}


『な、何を言って...!?っああぁ!!』



徠那は私を投げ飛ばし、投げ飛ばされた私は地面に伏して咳き込んだ。



『ケホッケホッ...!!くっ.....徠那....どうしちゃったの.....』



徠那は怒り心頭の状態で私の方へジリジリと距離を縮める。



{アンタがそんなやつだったとは思わなかった。

あの時、死ぬのは私じゃなくて...アンタだったら良かったんだ。


私がアンタに抱いた下らない恋心で行動なんかしなければよかった。


いつだって私がアンタをサポートして、守って、時には助けられてた。

でも戦いの腕もセンスもずっと私の方が上だった......なのに私はアンタを庇って死んだ。


才能のある人間が死んでいくのは、大切な人の為とか何とか言ってるから。善人ヅラなんかするからだ。}


『徠那...?さっきから何を言って───』


{お前とコンビを組んだのが間違いだった。

全く....ボスも見る目がなかったね.......


こんな出来損ないのヘタレをこの私とコンビを組ませるなんてね。}



徠那の事を好きだったのは私もそうだ。


初めは息が上手く合わず私が足でまといの様になってしまっていたのに、それでも徠那は私に着いてきてくれた。


段々と息が合うようになってきた私達は、互いに心を通わせていくようにもなった。


そんな、大事な人だと思っていた人に言われたその言葉で私は涙が止まらなくなった。


言葉にならない程涙を流し、泣きすぎて目も痛くなってきた。

そろそろ涙も枯れてきた頃、私はこう言った。



『違う.....徠那違うんだよ........


貴女を愛してる。それは今も変わらないし、次会ったらその事を伝えたいと思っていた。


貴女の事はいつだって忘れた事が無いし、愛が尽きたことだって1度もない。

私は貴女をどうでもよくなったりしたことなんか無いよ.....むしろ毎日会いたいと思ってる。


私は貴女のおかげで強くなれた。


私が足でまといになってしまったから、貴女は私を庇って死んだけれど....その死に意味が無い訳じゃない。


むしろ私に対して大いなる意味と価値を成した。

強くなる方法を教えてもらった。


そして今......また新しく教えてもらった事がある───』


{.....なに?}


『それは、言葉に惑わされない事───!!!』



私は銃を取り出して即座に徠那の心臓部目掛けて発砲した。

避けられるはずも無く、徠那の心臓に銃弾が命中し徠那は倒れ込む。


私は徠那の方へ駆け寄り、徠那に言った。



『.....ごめんなさい....寂しい思いをさせてしまって.......本当にごめんなさい......』


{グフッ......なーに謝ってんのよ........

貴女は立派に成長してるんだよ......人に謝ってないで.....前を....向いて.....仲間を助けて...ね..........}


『......うん...!!』



すると、徠那の魂が空へ舞い上がっていくように上へと飛んでいく。

そして瞬きをした時、私の前に月詠の姿が現れた。


私の名前と鳴霾の名前を呼んでる....きっとずっと私の事を探していたんだと思う。



『徠那......私はずっと貴女の事を心の中で思ってるよ...........っ月詠ー!!!ここだよここー!!』

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