第35話:ソラノカナタ
クラッチを丸める。
ペーパーを取り出して逆アーチ状の上に、砕いた葉を入れていく。
すぐに全部入れず、一度巻いてから上の方から中へ残りの葉を流し入れる。
爪楊枝のような細いもので下の方まで葉を詰めると、上の部分を捻って火をつける準備をする。
手がタバコの葉で臭ってくる。
しかしそれも手巻きのタバコにおける風情のひとつだと思っている。
火をつけ吸う手巻きタバコ。
吸っては煙を上の方へと吐く。
それを見ていた綾子が口を挟む。
〈───アンタ名前なんだっけ?タバコ吸うの?
見た目未成年なのに??〉
‹綾子様も吸われます?もう一本、巻いてあげますよ。›
〈私は吸わない〉
‹そうですか、残念です.....もしかしたら人生最期のくつろぎかもしれないのに......›
そう言って吸ったばかりのタバコを灰皿に擦り付ける。
火が消えるのを確認した後、その女は私に言った。
‹私のことは存じ上げておりますか?
一応名乗りますと、私の名はソラと申します。
貴女をここでしばらく監禁して、その様子を見に来るのが私です。良かったですね。›
〈.......今更監禁して私をどうする気なわけ?〉
‹貴女には何もしませんよ。私は貴女を木に付く樹脂に集るカブトムシの様に、鳴利をおびき出す為に利用するだけです。›
〈へぇ.....悪党のセリフって感じでかっこいいね、どの映画を見て覚えたのかな?〉
‹フンっ.....この世界は皮肉屋でいっぱいですね、だから嫌いなんです貴女の様な人間がね....›
─────────
田園調布は夜の暗闇に包まれた。
前も後ろも左右も黒一点。
通常の夜の暗闇より暗く、3m先までしか見えない。
そんな中、頼れるスマホの光を3人で照らしながら街中を徘徊する。
〚く、暗い......何も見えないよ......〛
ライトの光を頼りに前を見て進み行く。
すると、1つ変に感じる事があった。
〚.....あれ...?2人...?〛
2人の姿が消えてしまった。
私はその瞬間、今まで2人が居たから抑えられていた恐怖心がどんどん心の中で膨らんできた。
恐怖のあまり私はパニックを起こしかけ、今にも泣きそうでたまらなかった。
〚苦手だからとかじゃない...!!怖い!怖いよぉ!!
どこが前なの!?どこに行けばいいの!?〛
私はパニックになり前も左右も分からないまま走り出す。
目を瞑り、行くあても分からないまま走り続けた時ふと目を開けるとそこは───
〚───眩しっ.......っ?ここは...?〛
そこは、家だった。
私はパニックになり走り抜けた最中、知らない家の中に入ったみたいだ。
しかし前に入った家とは雰囲気が違う。
家の電気が付いており、私のいる玄関の電気も付いて明るくなってる。
鳴霾は不思議に思いながらもリビングのドアを開けると───
〚───ん...英里奈...?それにボスもいる.......
月詠もだ....なんだこれ.....〛
リビングには、テーブルの椅子に座る3人の姿があった。
英里奈の対面にボス、そして英里奈の隣に月詠が座っている。
その3人は、何かを話している訳でもなくてただ黙って座っていた。
私は少々不気味に思いながらも、3人に声を掛ける。
〚ボス...?お久しぶりです。
英里奈...?ここはどこ?
月詠...?どうして何も反応しないの...?〛
鳴霾はこの状況を見て焦りをさらに加速させた。
焦った鳴霾は必死に皆へ会話を試みようとしたり、名前を呼んでみたり、かなり取り乱していた。
〚ボス!!月詠...!!........英里奈ああ!!
私!鳴霾だよ!!〛
三人「・・・」
〚どうして何も言わないの...?何も動かないの...?聞こえてるでしょ...?ねぇ...ねぇったら...!!〛
三人「・・・」
〚....どういうことなの...これ........ここはなんなの.....〛
─────────
《一方英里奈・月詠デュオ》
『鳴霾ーっ!!鳴霾ーっ!!』
《真っ暗で何も見えません......しかしどうして私達は互いに見失わなくて、鳴霾さんだけがいなくなってしまったのでしょうか───》
『ったく....犬みたいにすぐどっか行っちゃうんだから........月詠、すぐに手掛かりを───
あれ....月詠...?』
──────────
《関西研究所|隔離室兼実験室》
手首がキツい......強く縛られていて手が白くなってしまった.....
浄龍.....俺をこんなところに連れてきて何がしたい.....モルモットにでもする気か...?
.....っとほら、話をすれば来たじゃないか........
【権力に支配された真のモルモットが........】
«鳴利さん、貴方には失望しました。
親愛なるパートナーだと思って、数々の愚行に目を瞑り続けてきましたが.......関西研究所へ来ては荒らし行為をするなんて、もう貴方にかける情は尽きましたよ.......全く...研究員を容易く殺すなんて........»
【研究員をたかが数人亡くしたからと言って、ホントにアンタは役者がお似合いだな。嘘と虚勢で傲慢な忌々しいジジイめ。】
«.........»
【今になってこの俺を拘束?俺がこんなチンケな拘束解けないとでも??】
«えぇ、その通りですよ。そのチンケな拘束を貴方は解くことが出来ない。
能力を使ったって、私がそれを阻止するし、物理的攻撃でその拘束具は破壊出来ない様になっている。諦めなさい。»
鳴利は重度の精神病患者を拘束する為に使われる、全身を縛り付ける拘束具を着せられ、その挙句手術台の上で身動きが取れぬようになっている。
【なるほど、俺には打つ手が無いってことか。】
«私は念には念を入れるタイプなのでね、逃げられては困ります。
今から貴方を殺す方法としては、私が新しく開発した新薬の実験台になることです。»
そう言って服のポッケより出てきたものは、注射器と中に入った新薬とやら。
注射器を浄龍が出したタイミングで、周りにいた護衛が俺の腕を捲り腕を抑える。
【お、おい...!】
«どうしたんです?今更怖気付いてしまいましたか?
しかしもう手遅れです。今こそ貴方の背負うツケを払う時なのですから。»
【い、いや.....お前の後ろ...あれは誰だ...?!
何してんだアイツは...!?】
«何を───?»
浄龍が後ろを向くと、そこには───
«───っ...?誰も...居ないですけど───»
【っ!!!】
次の瞬間、浄龍は鳴利と位置が入れ替わった。
浄龍はほんのコンマ数秒の間、入れ替わったことに気が付かなかった。
そしてその事に気がついた浄龍は焦る。
«鳴利さん...!?一体この能力をいつから...?!»
【お前に教える義理なんぞ無い。お前はそこで死ね───】
鳴利は持っていた隠しナイフで、浄龍の喉元をかっさばいた。
血が飛び散り、鳴利の服を赤く染める。
«鳴利さ.....鳴利...!!貴様.....!この私に...こんな真似して......タダで済むと思うな...よ...!?
必ず...貴様を殺し.....て............»
【.....死んだか。これで後は綾子の救出か。
って言うか、この護衛達よく見れば人っぽいロボットのようだ。だからなんにも動かないのか。】
少々あっさりだったが、浄龍を始末し後のタスクは綾子だけになった。
俺はここで手がかりを掴むのは無理そうだと思い、研究所を脱出し次の手がかりを掴む。
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