第34話:忘却の街
鳴利には癖があった。
物を小さな頃からよく忘れる事があった。
それに悩んだ鳴利は親に小型GPSを頼み込んで買ってもらい、自身の大事な物全てにGPSを取り付けていた。
スマホと繋いで物の位置が1つ残らず分かるようにして物を無くさないようにしていた。
歳を重ねるとその癖が加速して、今や綾子の身体にも小型チップタイプのGPSを内蔵させている。
だから鳴利は綾子を救出する為、綾子のシグナルにある位置情報の元へ向かっている。
.....実に不気味な癖である。
───────────
«───殺した女の正体、覚えてるかい?»
そう言って浄龍はうすら笑いを浮かべる。
しかし浄龍がそう言って思い出そうとしてみるが、ぽっかり穴が空いたように思い出せない。
『っ...?正体....思い出せない......どうして....』
«クックックッ......そう、覚えてたハズなんだ。
覚えてないのは、どうしてだと思う?»
『っ....なにをした...!』
«ここは忘却の街。そこにある人や物は全て君達の人生に関わる物等が存在している。
人も、物も、失ってしまえばそれに関連する記憶も消えていく......»
〚忘却の街...?〛
«あぁそうだ、これは私の能力では無い。
能力者のみに適応される天然の能力.....つまりは地域一帯を囲む結界の様なものだ。
これに関しては私達も興味を引くものだよ»
一方鳴利に見えている月詠には、こう聞こえている。
【───月詠か?】
《鳴利...!遂に見つけましたよ...!!》
【何故俺にそんな目を向けるんだ?俺がお前に何かしたのか?】
鳴利が何気なく聞いたその問いかけに、月詠は初めて感情を顕にした。
《何をしたか.....ですって...!?
自分のした事を忘れるなんて.......殺した人間の数は数えないって事ですか...!?
私の大切な人を殺しておいて......よくそんな平気な顔していられますね......》
【......まぁ人殺しといて罪悪感に苛まれるヤツなんていないし、何より俺は人を殺す事になんの感情だって抱きやしないんだ───】
そう言って鳴利はポッケに手を突っ込んで顔をしかめる。
しかし続けてこう話し出す。
【───でも、俺にだって大切な人はいる。
時としてそんな大事な人を殺す事にもなる......
だから嫌なんだ.........いとも容易く人を殺せてしまう自分がな.......】
《......っそんな言葉には騙されない...!
お前はっ...!私の大切な人を殺した...綾子さんのことを...!!
自分が嫌だなんて....思ってもないくせに!!》
鳴利は光の無い瞳で月詠を見つめる。
そして鳴利は落ち着いた様子でこう言った。
【じゃあ自分はどう思う?
俺が綾子を本当に殺したとして、それを守れなかった自分が嫌だとは思わないか?
自分が無力だったとか、気付いた時には遅かったとか、全ては自分の力不足だったと.....】
《っ何を...!?》
【お前にも感情があるのなら、分かるはずだ。
復讐は目の前の色を一色に塗りつぶす、だろ?
怒りを抱き、ふと目の前を見てみればそこには復讐心だったり、殺意だったり、それだけでは収まらない感情の色でほかの色が見えなくなる。
嫌いだからと言って相手の良いところでさえ悪いように見えるのは、つまりそういう事だ。
俺は確かに綾子を殺した。だが綾子は生きている、それは俺の意思でだ。】
鳴利の突然の告白に、月詠は目が点になる。
一瞬の喜びとそれを覆い尽くす疑問。
月詠は鳴利に問いかける。
《え...?今、なんて言ったんですか....?
今綾子さんは...生きてると...?何を言ってるんですか......
殺したと自分で言っておきながら...生きてるなんてどういう意味なんですか...?》
【運命は綾子を利用した、だが俺はそれに抗ったんだ。
操作された運命に抗うのは、回避した運命のツケを払わなくてはならない。
綾子は今、いつ払うか分からないツケに追われてる。
しかもそれを本人は知らないし、決して知る事は無い。
だが綾子は今誘拐された。
場所は───】
鳴利がそう言いかけた時、英里奈が月詠の腕を引っ張った。
体制が崩れよろめいた時に英里奈が言う。
『月詠、行くよ』
《ちょっと待って下さい....鳴利に今場所を.......》
『月詠違うって!もう日が落ちる!真っ暗じゃ確実にここから出られないよ、早く行かないと。』
〚何話してたのな知らないけど、立ち止まってる暇なんか無いよ。〛
そう言われ話を聞くか考える。
すると鳴利が耳元で囁くように言った。
【大阪府大阪市生野区....そこで待ってる。】
そう言うと鳴利(浄龍)の姿は消えてしまった。
───────────
《同時刻|大阪市生野区某所》
【───んっ...?......ここは.......ぁああ大阪だ......
今....どこか別の場所にいた様な........】
─────────
《同時刻|日本国内某所》
«───っ.....来たのだな。あの街に。»
─────────
《なっ....!?消えたっ....!?》
『月詠ってば早く!!日が落ちてく!!』
〚陽がっ!物凄いスピードで落ちていく!!〛
空を見ると、太陽がいつもより何倍もの速度で落ちていく。
みるみる辺りが暗くなり、周りが見えにくくなっていく。
《えっ、早っ...!?》
『くそっ!!早すぎだろ!!』
〚暗くなった!2人とも!?〛
──────────
《同時刻|大阪市生野区内》
鳴利はコリアンタウンの空き家に、綾子のシグナルがあるのを確認し中に入る。
【こんなボロ屋に...綾子が居る.......】
暗い空き家の中を進むと、狭いボロ屋のせいかすぐに行き止まりになった。
しかしシグナルはここを指してる。ここじゃない訳は無い。
【どこだ....?もしや壁や床天井に隠れてる能力使いでもいるのか...?
でも気配がまるでしないな.......っ?】
壁に天井、次に床を見た時...床に血の垂れた形跡があるのを発見した。
【っ...!?っやはりここに....!!】
血の垂れた形跡を辿っていくと、部屋の奥、行き止まりの壁まで続いていた。
壁のところで血は止まっていて、前を向いた時壁に何かヒビが入ってるのを発見した。
鳴利はスマホのライトで壁を照らしてみた。
すると、ヒビの間に何か点滅する光を見つける。
気になりそれを鳴利は手に取ってみる。
手に取ったものを見た時、鳴利はそれがなんなのか理解した上で背筋が凍った。
【っ........おい...おいおいおい...!!?これは俺が綾子に埋め込んだGPSじゃねぇか!!
何故ここにそれが........っ?】
GPSがある事に驚愕していた時、小さくピーピー音が鳴っていることに気がついた。
このGPSは音が鳴るよう設計はされていないはずなので、どこから鳴っているのかが分からない。
そう思っていると、その音がどんどん早くなっていった。
音の正体を察した俺は、すぐにその場を瞬間移動で去ろうとした。
しかし能力を発動するほんの数秒早く、壁の方から爆発が起きた。
爆破を避けきれずモロに喰らいかけ、俺は瞬間移動でその場を逃れた。
────────────
《大阪市北区|大阪駅西口》
【ぐあっ...!!.......クソっ.....!!】
駅の構内は突如現れたボロボロの俺を見て、駅の客達は俺をジロジロ見ていた。
俺は立ち上がり、ダッシュで駅を出てはその辺の車をかっさらって運転する。
誰がやったのかは分かっている。
鳴奈だ。こんな舐めた真似をするのはヤツだけだ。
【クソっ!!ふざけた真似しやがって!!!
この俺を騙しといてタダで済むと思うなよ!!
残酷に死ぬ事よりの恐怖を味合わせてやる!!!】
俺は強い怒りを心に秘め、関西研究所へと車を走らせた。
《東大阪市|関西研究所前》
車で実に1時間の時を経て着いた。
研究所には電気が着いている。職員がまだいる時間だ。
俺は高い柵を瞬間移動で乗り越え、中へと侵入した。
【綾子の職員データは全研究所に登録されてる。
もし、綾子の居場所が分かる手掛かりがあれば.....】
そう思いながら施設内をウロウロしてた時、前から一人の研究員が歩いてきた。
俺はソイツの前に立ってこう聞いた。
【すまないが、研究員達の情報が登録されてる部屋はどこにあるか分かるか?
......あぁすまない、白衣を家に忘れてしまってな。
俺もここの研究員だ。何も警戒する事は無い。】
研究員「だ、誰ですか...?貴方みたいな研究員は、見た事が───」
俺はその瞬間、研究員の首を掴み口の中に銃口を突っ込んだ。
そして耳元で囁くように言った。
【どこだよ......教えてくれるだけでお前は生きていられるんだ.......命と義務、取る方は分かってるだろ...?】
「あ、あがっ....こ、殺さないで.....」
【じゃあ教えろよ....容量悪いのか?お前は.......
そんなんで研究員務まるのか?】
「わわ、分かった教えますぅ!!
この施設の地下1階の、顔認証で開く通路の奥にあります!!」
それを聞いた瞬間、引き金を押すと同時に瞬間移動で地下一階へ向かった。
《関西研究所|地下一階》
瞬間移動を使った時、俺は顔認証で開くと聞いた通路の奥の方へと向かおうとした。
しかし何故か弾かれたように顔認証で開く扉の前へと瞬間移動した。
【むぅ....浄龍がまた変な事したのか.......顔認証ったってそんなのどうしたら.......っ待てよ...?】
1つ思いついた俺は、さっき居た通路へ戻りそしてまた戻ってきた。
それは何故か───
【そうだコイツの(死体の)顔を使えばいいんだ。俺はやはり頭が冴えているなぁ。】
死体を持ち上げ、弄ぶように顔を認証機の前にやり、目を開けさせて認証させる。
馬鹿な機械は死体と人間の区別も付けられず、馬鹿正直に扉を開けてしまった。
【ケッ、結局は機械を欺くなんて簡単なんだよ。
機械なんてくだらねぇ。】
死体を扉の前に捨てて、俺は一人奥へと進んでいく。
その時、俺を見ていたセンサーが作動して警報が鳴り響く。
【.....お情け程度か?蚊帳の外で騒ぐ野次馬の声が届かない様に、警報なぞ俺には聞こえないのと同然だ。】
そのまま警報を無視し続け、俺は通路の奥にある扉の前へとダッシュで向かった。
扉の前に着くと、やはりここも指紋や顔認証で開く扉の様だ。
しかし俺は分かっていた、だから持ってきておいたんだ───
【さっきの死体の頭だ。さっさと捨てたいがここを解除しなくては───】
そう思い認証機に顔を近づける。
楽勝だ。これで綾子の手掛かりが掴める....そう思っていた。
しかし認証機はその期待を打ち砕くかのように、色を赤くさせスクリーンに"ERROR"の文字を表示させた。
俺はその瞬間持っていた頭をその辺に投げ捨て頭を抱える。
【普通の研究員じゃダメなのか...?そうなると幹部とか役職の顔じゃないとダメっぽいな.......
一度、引き返すしかないか───って.....随分と早いご登場だな.....】
通路の方を振り返った時、俺の前にはもはや壁かと思う程にシールドを構えてそこから銃を構える警備隊がいた。ざっと20人以上は。
【.....久しぶりに相手でもしてやるか......ほっ!!】
俺はガンマンよりも早い速度で銃を抜き、警備隊目掛けて撃ちまくる。
しかし流石は警備隊。シールドによって弾丸が全て弾かれてしまう。
だが俺もこの事は分かっていた。
俺は直ぐに警備隊目掛けて走り出す。
警備隊とぶつかる瞬間、能力を使い警備隊の壁を抜けていく。
【っ....やはり大したことないな....このまま役職の首をまたここに持ってこよう───っ!!?っぐあぁっ!!】
«っ.........»
前を向いて走り出した時、俺の前に居た誰かが俺に....スタンガンかっ...!?とにかく電流が身体に流れた様な感覚と共に筋肉が硬直し床に伏した。
【うぐ...ぐぅ....!!なん...だぁ....!?】
«さぁ、彼を連れて行きなさい。場所はいつもの場所へ。»
【テ...テメェその声は...!!】
«鳴利さん、暴れないで大人しくしていて下さいよ?»
【じっ...浄龍っ...!!!】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます