第33話:ここをどこから?

《PM15時|東京都世田谷区田園調布》



{───田園調布へ到着。成金の街。高級住宅地。}


〚ふわぁ〜....もうちょっと寝たかったなぁ.....〛


『田園調布......ここまで閑静だとゴーストタウンなのかと疑いたくなるね。』



タクシーで田園調布へ到着し、住宅街の入口の様なところから私達は街の中へと入っていく。


しかし入ってほんの数十秒で、皆はここの雰囲気に気付いていた。



《この街は、こんなに人が居ない街なんですか?》


『いや...人はいるけど....何か変だね.......』


〚静かどころじゃない、生活音や環境音が何一つ聞こえない...!〛



風が吹いてるのに、風が吹く音が聞こえない。

しかもそういえばタクシーのエンジン音も聞こえてなかったかも.......


鳥の鳴き声と飛び立つ音、虫の羽音、風の音、

極めつけは人が異常なまでに居ない。



『ちょっと.....ここ、出た方がいいかも.......

なんかマジに嫌な予感がするから......早く来た道を戻ろ───あれっ?』



先に進む事を一度中止し後ろを振り返る。

すると、それまで一本道をただ歩いて来たハズなのに......後ろには家が立ち並んで端から後ろに道なんか無かったことになっていた。



〚ん...?私達どっか曲がったっけ...?〛


《曲がって...無いですね......》


『.........まさか.......まずいね......』



もし、もし人間に宿った能力が......物や土地に宿ったら...

.....それは我々の脅威となるのか?


能力と言ったって全てが危険なものだけでは無い。

危害性の無い能力であれば、土地や物に宿ったって問題は無いはずだ。


でも、この地田園調布一帯の能力は.....問題アリだ。



《この土地、最初から雰囲気が変でした......住民や通行人が見えず、風の吹く音が聞こえない。》


『軽率に踏み入ったけど、予想を遥かに超える程面倒な場所だったね......まさかここが迷路だったとは........』



今の状況に頭を抱え、次の動きを考えてみる。

考えてるその最中に少し先の方で鳴霾が私達を呼んできた。



〚2人ともー!来て来てー!〛


『っ?なに───?』



鳴霾の元へ向かうと、他人の家のドアを開けて待っている鳴霾の姿が。

ドアを開け、どうぞお入りくださいと言わんばかりにドヤ顔を向けてくる。



〚家のドア空いてたんだ!この中で一旦休憩しよう?〛


『あんたね.....ここ一応他人の家........っ?』


〚多分あっちがリビングだと思う!部屋の電気つけてくるよ───!〛



そう言って鳴霾は土足のままリビングの方へと走って行った。



〚スイッチどこかな〜♩.........っ!?〛


『鳴霾そんな人の家にヅカヅカ入ったら───』



そう呟きながら鳴霾のいる部屋へ入ろうとした時、鳴霾が部屋から出てきて言った。



〚うわあああ!!〛


『っ!?......え、どした?』


〚え、英里奈っ見て見て!!〛


─────────────


リビングに入ると、部屋の窓はシャッター+カーテンで完全に光が無い。


しかし段々と暗闇に目が慣れてきて、リビングを見渡した時......。



『っ...!!』


〚これってさ.....ここの......〛


《住人....ですよね...?》



リビングの中央に、首を包丁で貫かれてる女の死体が。

はたして、いつからあるのか分からないが........


死体が部屋の中央部に置かれた異様な光景に、安心が家にすら無いのかと思いながらリビングの椅子に腰掛ける。



〚......っ血...固まってなくない...?首から血がまだ流れてる.......〛


『まさか、私達が入る直前とかにこーなったって?』


〚分からないよ.....でも血がまだ流れてるなら、こうなってまだ大して時間が経ってないってことじゃない?〛


《......他殺なのか、自殺なのか.....》



死体の事で頭を抱えていると、英里奈がハッキリとこう言った。



『いやこれは自殺でしょ』


〚...なんで??〛



そう聞くと英里奈はテーブルの上に置かれたものを指さした。



『だってこれ、何社から借りたのか知らないけど大量の催促状。

どうしてこんな住宅地に家持ってんのか知らないけど、なにか下手を打って支払えなくなったんでしょうね。

借金も、支払いも、この家の家賃も。』


《莫大な支払いに手が回らなくなり、限界が来てやがて自殺したと...?》


『そう。じゃなきゃこんなところで自殺なんかしないよ。

私だったらぁ....ここに家を買ったら銃なんか捨ててお姫様みたいにお淑やかな生活を送るよ。』



椅子に座り、足を机の上に乗っけてくつろぎながらそんな平和ボケた言葉を吐き捨てる。



〚何言って......それより、今の状況整理しようよ。

ここら一帯が謎の能力によって迷路化して出られなくなってる.....でしょ?〛


『うん、誰がそうしたかじゃなくて....ここら一帯が能力を宿してる。初めてだよこんなの。』


《出る方法、何かないんでしょうか...?》


『アンタ人造人間でしょ?出る方法ってGoogleみたいに頭で考えたらすぐ分かんじゃないの?』


〚それが出来たらやってるでしょって話じゃん!

全く何寝ぼけたこと言ってんだか......あと出る方法とは言っても、私達がここに来た意味を忘れちゃダメ。

いい?だから───〛



リーダーばりに話している鳴霾を眺めていた月詠。

その時ふと死体の方をチラリと見る、すると見間違いなのか死体の指が動いた様に見えた。



《っ!?.......死体って動くの...?今指が動いた様な.......》


〚ちょ月詠話聞いてる??今結構真面目に話してんだけど?〛


《ご、ごめんなさい.....今、死体が........》



そう言って死体の方をゆっくり見る。



〚まだ死体なんか見てんの?趣味悪いからやめときなって〛


《いや....さっき死体の指が......ピクりと動いたように見えて.......》


『死体を知らないお嬢ちゃん?死体は何が起きるかわかんないんだよ、死体が一年経っても動き続けた話もある。』


〚まぁなんだっていいけど.....とにかくここから───〛



今鳴霾は2人のことを見てる。

その中に焦点が合ってなくても視界には死体が入ってる。

だから見逃さなかった。包丁を掴んでいた手がゆっくりと包丁を抜いてる所を。



『.......鳴霾?とにかくここからぁ〜?』


《鳴霾さん?》


〚───っ.......包丁を....抜いてる.......動くはずのない手で.........え、英里奈ぁ〜.....〛


『はぁ......また死体かよ───』



恐怖した表情をゆっくりと英里奈の方へ向ける鳴霾。


英里奈はもうコリゴリだと言いたいげなため息をつき、銃を取りだしては死体に向かって撃ちまくった。

包丁を握っていた手の指が撃ち落とされ床に散らばる。



『死体は動かないのが仕事でしょ?死体も死体の仕事を.........って....あえぇ...?』



撃ち落とされ床に散乱する指達が、指の断面から何か繊維の様なのを手の方まで伸ばしていた。

すると指達が元いた位置に戻る。指が再生してしまった。



『指が再生した...?冗談じゃないよ.....』


〚嘘でしょ.......この家入らなきゃ良かった〜.......〛


《死体が.....立ち上がろうとしてる....!》



そうこうしてる間にも、死体は動き始める。

体を起こし、再生した手で首に突き刺さる包丁を抜く。



『髪が顔にかかってよく顔が見えない.......まぁ、誰だろうと私からしたらどうだって───』



窓が開いていた。

この家の窓がいつからか開いていて、そこから部屋の中へと風が吹き、風に髪が靡いて顔が見えた。


その顔を見て私は体の動きを止めた。



『───えっ.......』



風になびく髪の隙間から見えた顔は、私が父と暮らしていた時に部屋で飾られていた......母の写真とそっくりだった。



『っ.....か、母さん...?』


《英里奈さん....どうかしましたか...?》



心の中じゃ、起き上がった死体が母だと確信していた。

久しぶりの動揺で、足も手も動かず身体が硬直してしまっている。



〚英里奈っ!!!〛


『───っは!!!っ!!』



まるでゾンビの様なスローで力のある包丁の斬撃を、鳴霾の言葉で体が動き間一髪回避した。



〚何ボケっとしてんの!!〛


『いや...だってあれは私の───』


〚私の何!?知ってる人!?でもそんなの関係無いよ!!

集中して!!〛


《鳴霾さん...!!後ろっ!!》



後ろを向いて英里奈を叱る中、後ろから死体の女が鳴霾の背中を包丁で刺そうと振り下ろす。



〚っ!!やばっ───!!!........っ....?〛


《───仲間の2人に、危害は加えさせない!》


〚っ........〛



そう言って月詠は能力で女の動きをギリギリで止めた。

女は能力に抗おうと力を振り絞り、包丁を振り下ろそうとする。


その隙に、後ろへ回っていた英里奈が女のこめかみに銃口を突きつけ即座に引き金を引いた。


女は倒れ込むと、姿が段々と砂のようになって消えていった。



〚っ...!..........〛


『ふぅ....っ......』


《女の死体、消えてしまいました。》


『.....いいよ、消えるのが普通で...本来死体があるのがおかしいからね.....』


《.....どうかしましたか...?英里奈さん...?》


『っ......ん、なんでもない───』



英里奈がそう言ってる間に死体が消えると、ドアの鍵が開いた音がした。



『ん、ドタの鍵が開いた?どっちか鍵閉めた?』


《い、いえ》


〚閉めてない....勝手にドアが閉まって鍵掛けられたんだと思う。どうしてか分かんないけど。〛


『とにかく出よ、ここから出たら街中の家には入らないように。行くよ!』



私らは一斉にリビングから玄関へ行き家から脱出した。

そして再び街へ出ると、今までいなかった歩道に人が奥から歩いて来るのを発見した。



〚みんな見て!人人!奥から歩いて来るよ!〛


『気を付けてよ、ここの地域に来るのは変だよ。さっきまで1人も居なかったのに。』


《.......顔が中々見えませんね.......》



そこで月詠はロボットの様に目を長距離でも見える様にして、歩いて来る人の顔を見た。



《───っ!?あの顔は!?》



月詠が見たその顔は、鳴利の顔にそっくりだった。

若い顔で爽やかな見た目に高身長の見た目。


それを見た月詠はすぐその事を2人に伝える。



《鳴霾さん英里奈さん!!鳴利です!!》


『え?鳴利?...どうしてここに?』


〚ホントに鳴利?〛


《前の道から!歩いて来ます!!およそ200m前に!!》



真っ先に前を見る鳴霾と英里奈

しかし2人の反応を困らせた。


何故なら二人の目に見えていたのは───



『───っは?....浄龍!?』


〚えっ?浄龍???〛


《え?え?え?2人とも何言ってるんです??鳴利だって言ったじゃないですか》



私は鳴利に見えますが、それが浄龍に見えてる2人は即座に銃を構え前の浄龍(鳴利)に照準を合わせる。



『鳴霾まだ撃たないで!!近付いてきた時に呼び止める!!』


〚OKわかった!!〛


《ですからお2人......どこに浄龍が居るんです?目の前には鳴利しかいないじゃないですか...?》



それを聞いた2人は、何言ってんだってくらいに戸惑う顔を見せた。



『......何を言ってんの?鳴利なんてどこにも居ないよ、何と見間違えてるの?』


《意味が分かりません!目の前にいるのは確実に───》


〚月詠少し落ち着いて。

私達と月詠で違う人物を見てる...?

っ.....もしかして.......〛



取り乱す月詠を他所に、1人とある可能性について考える。


何者による仕業か分からないけど、なんかしらの手によって私達と月詠で見ている人物が違っている。


幻覚か現実の改変、そのどちらかの能力に私達は掛かっている...もしくは片方のみが。


その時、下ろしていた銃を再び前へ向ける英里奈。

英里奈が銃を向けながら呼び止める。



『おいジジイ!!止まれ!!』


«.......»


『何ここ、どうせお前の仕業でしょ?

アンタと私達以外に人なんかいないし、あ、死体が居たっけか。

でも家に死体があったのもたどういうこと?』


«........君はその死体の顔、見たのかい?»



英里奈は一度喉を詰まらせるが、すぐにこう返した。



『うん見たよ、赤ちゃん振りに見たよ。

あんまり愛とか無いけど、なんでこんなところにって驚いた。』


«......どう殺したのかい?»


『月詠が止めて、女の後ろにまわってこめかみに銃口を突きつけて殺した。なんでこんなこと聞く?』


«ふっ.......それはだね───»

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