第32話:どこからか見えてる景色

皆が見てるあの王座には、数々の人間の記録と記憶が刻まれている。


王座には王冠が置かれ、それを手に取り頭に被る。

そして王座に座り足を組み、肘掛けに肘を置き、王座を見上げるカスの死体を見下す。


王座には微かながらに血の匂いが漂う。

そして感じる....王座にしがみつく怨霊の様な存在を.......


おぉ神よ.....神は何故この俺に........


────────


【......鳴奈...お前は俺と手を組んでいたんじゃ無いのか?】


[んー.....手を組んだのは鳴忌であって、私は手を組んだつもりはないですよ

勘違いするなんて、貴方らしくないですね。]



綾子は張り詰めた空気に身体が動かず、その横を悠々と鳴奈が通り過ぎる。


そして鳴利のいるベッドの前で足を止める。



【鳴忌はどうした?いつも一緒にいるだろ?

若くして独り立ちか?】


[ふふっ....私は最初から独り立ちしてますよ。

してなかったのは鳴忌の方。私がいなけりゃいけなかったのだから。


彼女は1人で計画・実行するけど、窮地に立たされればたちまち私に助けを求める。

独り立ちと言うのは全てを自分で対処する事です。]


【あぁ、そうだな。お前がそうやってイキがれてんのも姉である鳴忌のおかげだな。

でもお前はまだ独り立ち出来てない、ドアの外で誰かが待機してるのに...俺が気付かないと思ったのか?】



それを聞いて綾子がドアの方を見る。

するとドアの外で何者かの影が見えるのを確認した。



〈人影が見える....誰かが待ってる.......〉


[........]


【お前は姉を超えたつもりだろうが、俺から言わせりゃ.......所詮お前は姉の歩いた道をなぞってるに過ぎない。発端から結末まで、お前は同じ道を歩いてるんだよ。】


[........今私がここに来たのはただ1つ───]



その瞬間、鳴奈が手の中からナニかを取り出す。

それは手を広げると、ミクロサイズだったものが段々と大きくなっていく。


手に収まるサイズまでに大きくなると、正方形の箱の様なものが現れる。


鳴奈は鳴利を見てニヤッと笑うと、箱を開けて綾子の方へと走り出す。



【───っ!!鳴奈っ!!】


[この箱はっ!物や人を保管するだけの能力じゃないっ!中に閉じ込めた人間を洗脳し!そして操る事の出来る代物!]


【綾子ォーーー!!!】


[綾子は私達が貰っていきます───!!]



箱を綾子の頭上から振り下ろそうとした時、鳴奈の持っていた箱がナニかによって弾かれた。

箱が床に落ち、鳴奈は困惑する。



[っ...?]


〈そんなピーチ姫みたいに為す術なく誘拐される程、私は弱くない。〉



周囲を飛び回っているのは小さい正方形の立方体。

飛び回る立方体を創り出し、その立方体によって鳴奈の手から箱が弾き飛ばされた。



[飛行し盾にも剣にもなる立方体........無から物体を創造する能力か........実に面白い能力ですね。]


〈関心してていいの?この箱を持ってるのは、私だけど?〉


[......今の貴女なら、どうするんですか?]



そう鳴奈が問いかける。

すると突如出現したロープが、鳴奈の身体中に巻き付いて拘束された。



[っ.......さぁ...向かってくる...?]



綾子は気付いていない、私の能力の術中にハマっている事に。


私は今綾子の視点からすれば拘束されてる様に見える。しかし実際は違う。

拘束なんてされてないし、最初から能力を発動していない...私を拘束しているその考え自体が捏造された事実だ。



〈動けないでしょ?最後に見る人間の顔、よーく見ておきなさいな?〉


[っ........]



綾子はゆっくりと鳴奈の前へと足を進め、目の前で足を止めて箱を逆さにする。

そして逆さにした箱を、ゆっくりと鳴奈の頭上から下へと降ろしていく。



【......っドアの外にいるヤツ......鳴姉妹以外に誰かいたか...?

.........ん、待てよ........っまずい!!綾子!!何かまずい!!油断するな───】


[チッ...気付いたか......だがもう遅いです───!]



その瞬間、私が拘束したはずの鳴奈のロープが突如消え去り拘束が破られた。


そして更に、私の前に居たはずの鳴奈の姿が消え...持っていた箱も一緒にどこかへ消えてしまった。



〈っ!?箱がっ!?あの女もっ.....どこに...!?

な、鳴利っ───!.......え?〉



何が何だか分からなくなり、ベッドの方にいる鳴利の方へ行くが.....鳴利の姿も消えていた。



〈え?!鳴利!?どこ!?嘘なんで...?

どこに行ったの!?鳴利!?どこにいるの───!?〉


【鳴奈...!!記録及び記憶の捏造.......なんて気味の悪い能力だ.......オマケに綾子だけじゃない.....能力を使えない...!

ドアの外にいるヤツの仕業だろ...!?くそっ...!!】


[彼女は勘がにぶい様ですね。ドアの外にいる人に注意を惹かないとは。

今回は私の勝ちとさせて頂きます。能力は私達が去った後に解除してあげますよ。


それじゃあ.......鳴利、また会いましょうね♡]



箱を拾い上げ、錯乱している綾子を箱の中へ飲み込み箱の蓋を閉める。

その瞬間、鳴奈は姿を消した。



【クソっ!!.........綾子........ごめんな───】


──────────


《一方英里奈トリオ》


別行動。

昔っからあまりにも不安な気持ちが拭い切れず、絶対にしなかったけれど今日は違う。


今日は弱い自分から一歩また成長する日だ。

だって今日はなんて象徴的なんだろう、天気は晴れ、コンディションだって悪くない。


私達は国技館より、徠鳴の能力で本体の位置情報を探ってみた。



『.....どう?居場所、分かった?』


{..........うん、分かったよ。いっぱいね。}


『いっぱい?どういう事?』


{居場所を記すシグナルが、東京都の全体から発信されてる。

つまり、浄龍は今東京都市区村に滞在してるってこと。


さ、どうする?}


『もっと頑張って、偽物と本物の区別くらいつけられるでしょ?』


{無茶言う姫だね〜....はいはい、やりますよ


..........分かったよ。}


『ホント?どこにいるの?』


{───東京都世田谷区田園調布}

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