第29話:【俺だけが理解する。】

《数日前|組織の秘密空間》



【なぁ、知ってんだろ?あの箱の在処を.....

勿体ぶってないで教えろよ。】


〈っ....どうするつもりなの?あの箱を手にして.....あの箱にある"アレ"に目をつけてるっての?〉


【それは教えない。お前が知る必要は無い。

それより早く教えてくれよ、愛してるんだお前を。分かるだろ?】


〈嘘なんかついちゃって.......愛した女にこんな真似、普通する?〉


【愛してる女がどっか行かないように縛り付けておくなんて、どこの男共もしている事だろうが。

俺とお前、彼氏と彼女が互いを縛り付けてんだよ。】


〈あっそう.....でも、そんな嘘には乗らない。

箱の場所も教えないし、中身も渡さない...!〉


【っ....そうか...ならお前には実験台になってもらう。ソラ、注射器を貸せ。】


‹はっ、こちらに......›


【ありがとう。

綾子いいか?お前に愛があるのに嘘は無い。

でもお前は俺の愛に気付こうとしない、なら気付かせればいい。

俺の愛、その体で感じてくれよ───】


〈っ───!!!〉


─────────


《戦いから数日後|とあるマンションの一室》


───目を覚ますと、私は自分の部屋のベッドに寝ていた。


私は鳴利に縛り付けられ、二の腕によく分からない注射をされて....それで.......



〈うっ...!頭がっ...痛い......〉



突然頭痛を引き起こし、次第に頭の痛みが大きくなってくる。

私は頭を枕に押さえつけながら頭の痛みに悶え苦しむ。


それが一時間くらい続いた。

そんなに時間が経てば頭の痛みも和らいでくる。

頭の痛みが落ち着いてきた時、私はあそこで気を失う前の記憶を思い出した。



〈そういえば私....注射を打たれて苦しんでた時、強く思ってた事があった.......

家に帰りたい.....そう思ってた.......そういえば研究所に想像した事が実現する能力があるってあの人が.......もしかして───〉



そこで私は1つ試してみる事にした。

コップを用意し、コップを手に持って頭で念じる。



〈(空のコップにお茶がいっぱいに...!)〉



そう強く思い目を開ける。

すると驚く事に空だったコップの中に、お茶がいっぱいになって入っていた。



〈はっ.....マジかよ.......〉



部屋で1人コップに向かって念じる滑稽な私は、空いた口が塞がらない程に驚愕の現実を思い知った。



〈これを上手く使えば...!っアイツの居場所を調べないと───!〉


─────────


《数時間後|奈良県海原市内某所》


百鬼姉妹の家へ行く用が終わり、少し家の周りを歩いていた。

俺は1人で外を歩きながら1人で語る事がある。


それ故独り言を呟きながら、俺の住む東京と大違いの平和さを見て呟く。



【ここは実に平穏だ.....新宿とは大違い。

ここに住んでる人達は、毎日朝起きる時に何を思うんだろう.......

俺は朝起きる度に殺しが頭をよぎる。

人生で初めて人を殺した時の情景、殺したやつの声が........


ムショにだって行った。何も思わなかった。

俺は母の為にムショへ行ったんだ。


俺がこうなったのは母が死んだからだ。

母が目の前で殺され、俺にこの世界で生きる道だけを残していったから。

俺はもう戻れない、殺しを知らない平穏な生活には........

この住宅民達のようには........】



そう独り言を呟きながら、そのまま住宅地を離れ市街地の方に出る。

東京程栄えた所では無いが、海原駅周辺はかなり栄えたところとなっている。


俺は駅近くのホテルに泊まり、その後東京へ戻ることにした。



【1504号室を借りたい。そう15階の部屋を。

あぁどうも......っ───】



部屋の鍵をフロントにて受け取り、エレベーターで15階まで上がる。

何十秒程で15階へ着き、自身の部屋のドア前まで来た。

そしてドアを開け中に入る。



【ふぅ.....悪人にも休憩は必要だ.......

.....加湿器も置いてるのか、スイッチ入れたままとは気が利くもんだな。】



加湿器から排出される白い霧を眺めながらベッドへ横になる。

すると疲れも相まってか眠気がどんどん重くなってきた。



【っ....眠い......少し...眠りにつく...か───】



そうして鳴利はすぐに眠りに落ちた。

ちょうどその時、鳴利の部屋のドアが開く。

鍵はしたし、ドアアームだってしたのに


ドアがゆっくり開くと、そこから1人の女が部屋に入ってきた。



〈っ........寝てる.....〉



綾子だ。

綾子は部屋に忍び入り、眠りにつき寝息を漏らす鳴利を上から見下ろす。



〈気持ちよさそう......夜も寝れない人が居るのに........〉



綾子は鳴利をすぐに殺す事をせず、寝ている鳴利の元へ寄りこう語り掛ける。



〈ねぇ鳴利?貴方に今どれだけの敵がいるか、ちゃんとわかってる?

貴方は人を簡単に信用しないから、仲間だと思ってる人なんていないだろうけど......

貴方の寝首を搔くのが、貴方の愛した女と知ったら...貴方はどう思う?〉


【っ───っ───っ───】


〈っ......寝てるもんね、答えられるわけないか。

でも寝てる人って音や声は聞こえてるらしいし、私の話ちゃんと聞いてよね。


貴方は私を自分の都合で振り回してきたね。

研究所であの日会った女の子も、貴方と関わりがあったんでしょ?

あの子に会ってから人生がどんどん危ない方向に向かってった様に感じるの......


貴方の都合通りに何年と月日が流れ、その最中で貴方を愛していたあの感情が...操作された感情だったと思うと.......貴方を許すことが出来ない。


人を振り回すことより、偽りの愛を私に抱かして人の恋心を弄んだ.....私が許せないのはそこ。


ねぇ貴方はどう思うの?悲しい?それとも思い通りに動く私を見て笑っちゃったりしちゃう?

どうなのよ...!?〉



綾子が感情を混ぜた言葉を投げかけると、寝ていて答えるはずの無い鳴利がこう言った。



【───笑うはず.....ない...よ........】


〈っ....え?〉


【俺は....本当に申し訳ないと思ってる.......

今思うと....後悔してるんだ......俺という人間に愛人を......作ってしまった....ことに.......


鳴忌と俺が.....手を組んだのは.....組織から英里奈が失踪してすぐ...だった───】


─────────


《2029年|新宿組織本部内》


英里奈は、当時組織の当主であった栄ノ助さんを銃で銃殺した後組織から逃走した。


組織は騒然となり、当時ボスの側近を務めていた鳴利が臨時の当主となった。(その後正式に当主へ就任)


この騒動は裏社会全体に知れ渡り、鳴利や組織組員全員が英里奈の行方を探る中で組織に抗争を仕掛ける敵も居た。


そいつ等を片付けながらの行動で、鳴利や組員が手を焼いていた時.....2人の姉妹が組織の扉を叩いた。


鳴忌と鳴奈だ。


姉である鳴忌は余裕な表情で、腐っても怖い男共が巣食う組織内でも恐れる様子も無い。

見た目ガキのくせに、澄ました顔で鳴利の居る部屋に押し入る。


そして鳴利を見て開口一番に───



〖大変そうだね、手を貸そうか?〗


【......誰だお前ら、ここがどこだか分かってんのか?

ここはおめぇらガキの来る場所じゃねんだよ。

ガキだからって容赦しねぇぞクソガキ。】



そう言って帰らそうとする鳴利。

しかし怯む様子もなく鳴忌は鳴利にこう提案する。



〖まぁまぁ聞いてよ話くらい。

私、貴方らが探してる人の場所知ってるよ。

教えてあげるけどその代わり、私の提案に乗ってくれない?〗


【提案...?俺はガキの遊びには付き合わね───】


〖簡単だよ。

私が下準備を済ませておいたから、これからの展開に貴方は従えばいい。


全ては、組織の繁栄と名声の為だよ。

影響力を持つには、どんな事象にも対処出来尚且つ強くなければならない。


要は組織を強くする為に一芝居ここで打たないかって話。

貴方らの探してる人が失踪したなんてのは運命違いだったけど。〗



鳴利は今も変わらない信念を持っている。

組織を上のレベルへと上げる、つまり組織の繁栄だ。


傍から見てかなり間違ったやり方と思われようとも、彼自身の中に抱かれる信念。

その心は強く、そんな事では折れない。


そんな彼にとっても悪い話ではない。

鳴利は考えた。深く、慎重に考えた。


鳴忌の言う組織の繁栄に繋がる話を信じるか、断った上で鳴忌を侵入者として始末するか。


思考が入り乱れる最中、鳴忌がこう言い始める。



〖いいのかな?こんなチャンスは無いと思うのだけど。

貴方は組織の頭として繁栄を取るはず、取らない訳が無い。


このチャンスを逃せば、組織の繁栄や成長はかなり遅れてしまう。

今の時代強さだけでは上にはいけない。何事にも対処出来てしまう組織が強くなるの。


他の敵組織に、自分の組織は何にも対処出来る上に強さを兼ね備えてると誇示すれば、影響力も上がる。


鳴利?.......選択を間違えてはダメだよ。

この世界じゃ、1つのミスが全てのミスに繋がるのだから───〗


─────────


【───その末俺が...選んだ道が今って事だよ......】


〈っ......どう反応したらいいのよ........〉


【それに...俺はちっとも寝てない.......

人を殺して生きてきた悪党が、夜も寝れない遺族達を尻目にグースカ寝れると思うか...?


俺はもう何年も前から満足に寝れちゃいねぇよ......ただ今は疲れてるだけだ.......


なんでここが...わかった?】



この時、綾子の気持ちは複雑だった。


今目の前でベッドに横たわるこの男が、敵なのか味方なのか.......

今綾子の頭は混乱してしまっている。


こんな状態になったのは、間違ってようと組織の繁栄を本気で願った上の事。

しかし綾子は知らずに巻き込まれ、弄ばれ、振り回された。

普通の人なら絶対に許さないし、綾子だって同じ気持ちのはずだ。


ぐちゃぐちゃの中出した綾子の言葉は───

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