第28話:DLC-OG 月詠②
組織事務所には今誰も近付けない様になっている。
混乱が起こっているとはいえ、構成員達に危害が及ばぬよう立ち入りを禁じている。
この混乱は、俺や英里奈等が起こしたもので構成員に罪は無い。
構成員には活動を休止させ、一定の生活保護で構成員を守っている。そう、この俺がだ。
ボスの在り方は仲間に対する思いと、状況を正し前へ進む事だ。
【そこに眠ってるんだろ?血はまだ、あるよな?】
────────
『はぁ........腕、痛いです浄龍さん。』
«我慢したまえ。腕より痛い思いをしてきただろう?»
{んぅ!!!離せっ!!私達に何をする気なんだジジイ!!!}
ガシャガシャと暴れ拘束を解こうと藻掻く徠鳴に、浄龍さんは言った。
«女性だと言うのに....実に乱暴な性格だ。
口も悪いときた.....これはダメだな。»
{はっ!ジジイに振られるとか、どんだけ嬉しいのか分かんないね。
そのまま私を嫌ってくれたら、私としても嬉しいよ。クソジジイ。}
『えぇ........ってか、私達を拘束して...何が狙いなんですか?申し訳無いですけど、渡せるものなんて何も無いですよ。』
«.......話したい事と言うのはな...鳴利と言う男についての話だ。端から何か奪い取るつもりは無い.......拘束を解け───»
片手を肩まで浄龍が上げると、武装部隊の何人かが英里奈と徠鳴の拘束を解いていく。
『.......なぜ拘束を解く...?』
{んああ!!ジジイ殺してやる!!お前敵なんだろ───!!?}
拘束が解けるやいなや浄龍の元へ迫り殺意をむき出しにして襲いかかる徠鳴。
しかし浄龍が接近した徠鳴の鼻の先に指を触れた瞬間、徠鳴の動きがピタリと止まった。
{っ!?こ、これは...!?}
«君の時間を止めた。時そのものを止めることは出来ないが、物や空気の動き、水等の流体物の動きを止められる。っ──»
そう言って指を鳴らす浄龍。
すると体の硬直が無くなり徠鳴の体は自由になった。
«私がただの老いぼれと思ったら大間違いだ。
私はここの代表だぞ?»
『なるほど.....
{そんなのありかよ......}
«私に逆らわない方がいいと、わかっただろう?
だから大人しく私の話を聞くんだ。»
そう言うと、浄龍はスマホを取り出して画面に映る写真を見せて話し出す。
«この男、鳴利の事だ。君達もよく知ってる人物だろう?»
『えぇ、今最も殺したい人ですね。』
«私は鳴利の望むものをくれてやった。
それが何かは、彼に会ったら分かるはずだ。
それに、私は君達が何故ここへやってきたのかが分かる。
DLC-006番、澄みゆく世界。これを求めて来たのだろう?»
そう言いながら服の中から英里奈達が求めていたDLCの試験管を取り出し見せびらかした。
『っ...!』
«これを.....渡してやっても、いいが.......タダでは渡さない。取引だ。»
{あぁ?取引?}
«実験段階にあったDLC-OGと言う女の子、その子をここへ連れて来てもらいたい。
その子にも当然能力が備わっているが、少々厄介な事に能力の制御が出来ない未熟な子でな。
その子には気をつけた方がいい。いいな?
最後に、彼女の話は信じるなよ─────»
『いきなり何を言って───っ....?』
そう言いかけた時、英里奈と徠鳴は研究所では無く新宿の街に瞬間移動していた。
{あれっ....新宿...?いつの間に?}
『.......っこれ誰から...?知らない連絡先から連絡が来てる───』
ふと送られてきたのを開いてみると、1枚の画像が送られてきていた。
恐らくこの1人で写った写真の人物は、浄龍が言っていた"DLC-OG"と言う女の子なのだろう。
{DLC-OGって......呼ばれる名前がそれって、まるで囚人みたい。
人の手で作られた人間、人造人間か何かなんかな?}
『さぁ、それはともかくそんなどこ誰かも分からない人を...写真1枚でどう見つけるっての......』
そう思っていた時、私達の前に立ち止まった1人の女の子が話しかけてきた。
?《あの、少し尋ねたい事が───》
『....っ?なに?』
《人を探していて......》
{......悪いけど助けにはなれない。なんなら私達も今....そうそうアンタみたい....な...女を....??}
その女の子は、黒髪のショートヘアに丸メガネを掛けた見た目だった。
それによく見ると、彼女の瞳には三日月の模様が浮かんでいる。
『その.....その瞳は...?』
《これは、生まれつきです。》
『そう.....名前は?』
《月詠です。初めまして。》
月詠と名乗った女の子は、普通の女の子って雰囲気があるのに...どこか機械的というか......何かが不自然に感じる。
それがどこに対してなのかも分からないが、とにかく人間と話してる気がしない。
{英里奈.....見てよこの写真とその子.....}
徠鳴はそう言って写真を英里奈と月詠に見せた。
『え、ほんとじゃん。写真ちゃんと見てなかったから分かんなかったわ。』
《........私の事を探してたんですか...?まさかあの人の仲間...!?》
突如月詠は後退りしながら眉をひそめた表情でそう聞き出す。
警戒しているように、体を身構えている。
{え、なになに?どうしたのよねぇ。}
《私を見つけてどうするつもりなんですか...?》
{どーするったってそんな───}
『徠鳴、っ......急にごめんね?私達も少し人探しの仕事があってさ。
偶然にも月詠ちゃんに似た人を探してたんだ。』
そう言って警戒心を解こうと試みるが、全然警戒心を解こうとしてくれない。
《私を見つけて.....誰かに私の事を売る気ですよね...?》
『誰かに売る...?誰かって、心当たりとかある訳?』
《研究所の代表が.....私の事を探してるのを知ってる......私の能力で、私に会うことが出来ないから人を頼るとも..........》
低血圧のような、物静かそうに続けて月詠はこう語る。
《私には生まれた時からの能力があって、研究所の皆はその能力の事を"天使の囁き"と呼んでる。
声に出さずとも相手に特定の行動をさせるの。
効果時間はする行動によって変わる。でも解除方法はある、今試しに能力をかけてみましょうか?》
『特定の行動?なにそれ───』
月詠の言葉にピンと来ない英里奈。
頭をポリポリとかく。その時月詠が言った。
《───ほら、今まさに......頭をかいたのも今私がそうさせたんです....気付かないでしょう?》
『っ...どうして自分の能力をそこまでして私らに教えるの?能力はいつだって隠すもの───』
《───あの、私と"取り引き"しませんか?
私は貴女達と行動を共にします。どこへだって着いてくし、味方になります。
しかしその代わり、私のお願いも聞いて貰いたいんです......》
〚お願い.......なに?〛
鳴霾が優しくそう問うと、月詠はとある男の名を口に出した。
《鳴利を私に会わせて欲しいんです。》
『っ........鳴利に...?何か関係があるの...??』
《はい。私の大切な人を殺した男の名前ですから。》
〚大切な人......どんな人だったの?〛
《どんな人........私から見ればあの人は母親同然でしたね。色々な事を教えてくれた───》
そう言うと、月詠は英里奈の前に歩み寄り最後にこう言った。
《───貴女達の事もね。》
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