第26話:ケセラセラ
【───お久しぶりです。ご無沙汰してます。】
連絡したらすぐに会えると来たので、その辺の公園で会うことになった。
そして顔を合わせる。
?«こちらこそ。お元気そうで....はなさそうですね。»
このお爺さんの名は浄龍。
東京医療研究所のトップであるお偉いさん。
俺がこんな人にする話は、DLCについてだ。
【早速ですが......連絡した通りの物は、持っておられますでしょうか?】
«えぇ、確かにここに───»
そう言い渡された白い紙袋の中を開けると、何本かの注射針と、試験管に入った薬品が数本。
薬品のそれぞれにナンバーと名前が書かれている。
«DLC-004の身体強化。DLC-005の視覚聴覚失調。DLC-006の???»
【っ.....006のハテナと言うのは、何の能力が?】
«それはですねぇ......打ってみれば分かりますよ.....ふふっ....»
【.......まぁいいです、買いますよ。幾らでしたっけ?】
«5000万円でございます。ご用意はされておりますか?»
そう言われ、俺は持っていたアタッシュケースを浄龍さんの前で開けて見せた。
【ここに5000万ございます。お確認お願いします。一束100───】
«いえ、確認はいいですよ。姿勢が大事ですから。払う姿勢がね。
ここに仮に100万足りなくても、変わりませんから。»
この人の金銭感覚に少し驚いたが、気にせず俺は持ち金と引き換えにDLCの薬品と注射針を貰い受ける。
そして足早にその場を去ろうとした時、ポロッと浄龍さんが俺に言った。
«鳴利さん.....貴方に最後渡したい物が───»
そう言って持っていたもう1つのアタッシュケースを俺に渡してきた。
【浄龍さん、これは?】
«これは......貴方のよく知る人物のものであり、よく知る物です。開けてみてください....きっと気に入ると思いますよ。»
そう言われ俺は言葉のままにアタッシュケースを開けた.......するとその中には───
【っ...!?こ、これは.....浄龍さん、これを一体どうして...!?】
────────
《10年前|新宿区組織本部内》
〚ねーねー英里奈、私達って来年、再来年から何年後とか、どうなってるんだろう?〛
『ふぅん......さぁ....どうなってんだろうねぇ』
〚私達は生きてるのかなぁ......仲間は増えたりしても、やっぱり死んじゃうのかなぁ.......〛
少し落ち込んで俯く鳴霾。
私はそれを見て少々元気づける様に言葉をかけた。
『私達の世界は明日生きてるか分からないけど、生きるって心に決めて生き抜く。
私達は覚悟しておかなくちゃいけない。どんなに仲間を失っても涙だけは流さないってね。
残酷な事だけど、涙を流した時が最大のスキでもあるから......』
〚......英里奈は泣いた事無いの...?〛
『あるよ。鳴霾が入ってくる3年前に死んだ私の相棒がいたんだ。
徠鳴っていう、少し気性の荒い女がね。
出身の話もしないし、自分の話もしないけど私とは息がよく合う人だった。
だから.....死んじゃったのが悔しいよ......私のことを父親抜きにして、唯一泣かせたんだし.......』
〚そうなんだ......〛
『......でも、そう言う大切な存在が簡単に死んでしまうこの世界では...日常的だろうけどね。
だからそれに順応していかないとこの世界では生き残れない。
この世界で骨を埋めるってのは、涙を捨てるしかない。』
私は英里奈のその話を聞いて、この世界がどれだけ命に対する認識が軽いのかを思い知った。
〚順応.....かぁ........〛
───────────
中央には真尋と鳴忌の死体。
それらに向かい合うように私と鳴忌の妹達が対峙する。
お互い一言も喋らず、ただただ睨み合っていた。
その中で、最初に口を開いたのは私だった。
『.......貴女....自分の姉が死んだけど、私達に復讐心とか抱いたりしないの?』
そう問いかけると、鳴忌の妹はこう話し出す。
[復讐心.......そんなのはくだらなくて抱かないかな.......
鳴忌は私のお姉ちゃんだけど.......今はもう違う。]
『っ?もう違うって.....どういうこと?』
[血縁関係で姉妹の関係がある訳じゃない.......関係を作るのは心だよ.......]
『.......鳴忌の言葉で気が変わったってこと?』
[さぁ.......私のお姉ちゃんは自分で窮地を抜け出す人で、自分の言った言葉に責任を持つ。
でも鳴忌は結局私に助けを求めたり、ソラの能力に頼りっぱなしだった........そんなのは私のお姉ちゃんじゃない。]
そんな薄情な発言を、妹の鳴奈は淡々と言って見せた。
『へぇ......いかにもこの世界に染まった様な考えだね。
私もそう思った時があったよ.......でも今分かった。
仲間や家族の命や関係を軽んじるヤツを見ると、こんなにもゲロを吐きたくなるような気持ちになるんだね。』
[.......アンタも時期に分かり合えるよ......ソラ、行くよ。]
そう言い残し2人は後ろの出入口から出ていった。
死体と共に取り残された私達は、力無く横たわる真尋の傍によった。
『真尋.....カッコつけるとか言ってて....ホントは私達の事を......仲間として守ってくれたんだよね。
初めて会った時、本気でイカれた敵だと思ったし印象は今も消えないけど....拉致された私を連れ去った時、心のどっかで少し安心してた所もあった......
生きてる内に感謝しておきたかったな.........』
〚英里奈........話変わっちゃうけどさ....私の中にいる徠鳴って、英里奈の元相方だったの...?
過去にその名前の相方が居たって話してくれたよね。〛
『っ.......実際のところ徠鳴本人の人格かは判別出来ないけど、喋り方が大方似ているところがあってね......だから徠鳴って名前を付けたの。
でも私の事を知らない素振りだったから、忘れちゃったのか端から違う人なのか........』
〚か、仮に本人だとしてさ.....覚えられてないのって結構ショックじゃない....?戦場を共にした仲間なのに......〛
『まぁ......鳴霾の中に新たな人格が生まれて、私を知らないような素振りを見た時...少し心が苦しかったってのはある.......でも表には出さないように我慢してた。
長年の経験でそうしなくてはって思ったから.......』
そう話し終え、英里奈は真尋の死体を持ち上げて部屋を出た。
そして車を調達し向かった先は、真尋の地元である奈良県海原市。
そこへ向かい部屋を出る途中で発見した瑠衣の死体と一緒に墓に埋める為に向かった。
─────────
《数時間後|奈良県海原市北妙宮寺町|百鬼家》
『久しぶりに来たね......何年ぶりだろう......』
〚ここで2人と戦ったよね.....怖すぎるお化け屋敷にいるような感覚だった.......〛
過去戦ったことを思い出したりしながら、相変わらず開いている家の柵から中に入り、そこから庭に出た。
庭に穴を掘り、2人を穴の中に隣同士で寝かせる。
その上に土を被せ埋めていく。
『2人のした事は許されない事でいっぱいだけど、日本人全体が許さなくても......私達には分かり合えるものがある......敵だらけじゃないんだよ。』
〚イカれた姉妹だと思ってたけど、仲間と思って助けてくれた姿勢には....素直に嬉しいと思えたよ。ありがとう。
安らかにね......〛
もとは敵同士だった私達。
でも今じゃ仲間だと言えるほどに言葉が溢れてくる。
偽善じゃあない。心からの言葉がそこにある。
土に被って顔が次第に見えなくなる。その度にお別れが直に伝わってくる。
たった数十秒後には体全体が土に被り、姿は見えなくなった。
私達は埋められた2人を見ながら、こう呟いた。
『2人の死は....決して英雄の死じゃなくても、道を残してくれた......』
〚ねっ.....逃げ道じゃない....次に進む道が.......〛
そう言い残し私達は東京へ戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます