第25話:笑える笑えない
俺は子供の頃から思い続けた事があった。
俺にとっての幸せはなんなのか?と。
楽しいことが何個あっても、それが長く続く幸せとは言えない。
なら何が俺にとって幸せなのか......分からない。
そう思う中で、過去一度だけ幸せを感じたのが......心から死にそうと感じた時だった。
生きてる実感が湧き、死にそうになると身体が震えてアドレナリンが出る。
"生きてやる"
そう奮い立つ。
自分でも分かってる。その感性が人から理解されないことを。
でも他人からの理解は要らない。俺が俺を理解していればいいんだ。否定は蚊帳の外だ。
騒がしい世界を生きている俺でも、現代の若い子達は否定されるのを恐れていると知っていた。
しかし俺は思う.....否定されたからどうだという?
お前が死ぬのか?嫌な思いはするだろうが、死なないのに何故落ち込む?
全ては死ななけりゃ何も無い。
否定の言葉も、死ななけりゃ何も無い。
批判や差別...全てを跳ね除けるエネルギーは、内に秘められているその前に進み成し遂げようとする心だ。
俺はそれを内に秘め今進んできている。
全てを覚悟し、死の恐怖すら許容した上でだ。
【東京に戻る前に、あの人に連絡をして会ってからだ───】
─────────
戦いの火蓋が切られ、真っ先に真尋が鳴忌の懐まで一気に差を縮める!
『体がっ...!!真尋っ!!』
〖っ!!速いじゃん!〗
〘っ!!!〙
鳴忌は即座に躱し、鳴忌もナイフを取り出して切り返す!
鳴忌の押しは凄まじく、ナイフで受け止めるのに必死だった。
鳴忌の凄まじい斬撃をナイフで受止めた時、楽しそうに笑みを浮かべた鳴忌が言う。
〖結局ナイフ使うのか!
良い攻撃だね!!だからと言ってお前がここで死ぬのは、運命で決まっている!!
お前が背負う瑠衣の気持ちも、その攻撃も、全てが無駄なんだよ!!!〗
〘っ絶対にここで殺す!!!〙
鳴忌を後方へ押し返し、また距離を縮め切り込む!
腹を捉えたと思った時、鳴忌はナイフを手で抑えて軌道をズラした!
〘なっ!?〙
〖ぐっ...!傷なんて当たり前っていったでしょ?
このくらい.....それより、よそ見しちゃダメじゃない?〗
〘っまずい───!〙
鳴忌の方を見ようと視線を変えようとしたその瞬間、鳴忌のナイフが私の右目に突き刺さる!
〘うぐあああぁぁ!!!〙
〖ははっ!!!まずは右目!〗
『真尋ーーー!!!』
痛みに怯みながらも私は鳴忌から距離を離す。
目から血の涙を流し、目の部位からとめどない痛みが広がる。
〖ふっ、大丈夫?〗
〘くっ......〙
〖.......これ以上長くなっても仕方ないから、そろそろ私からも攻めようかな───〗
その瞬間鳴忌は真尋の懐に潜り込み、ナイフを真尋の胸に突き刺していた。
〘うっ.........〙
〖.......私の勝ちだ。運命に変わりはない。〗
〘..........〙
〖ふぅ........っ?あれナイフ....ほんとに刺さってる?〗
その時、鳴忌は完全に油断していた。
勝利を確信していたせいで、隙が生じていた。
〖あれあれあれ〜?おっかしいなぁ───〗
〘刺さってねぇよ.....このアバズレがぁ!!!〙
真尋は懐にいる鳴忌の肩を掴んで、首に勢いよくナイフを突き刺す!!
〖え───がああああ!!!〗
〘英里奈........〙
後ろを見ると、英里奈が私にグットサインを送っていた。
私は同じようにグットサインで返す。
〘危なかった......英里奈....仲間じゃないんじゃなかった...?〙
『っ......』
〖ぐぐっ...がはっ.....か...勝った気になるなよ真尋っ───ごぼぁ!!〗
〘もう付き合ってる時間は無い。トドメを今刺してあげる。〙
真尋は鳴忌の首に突き刺さるナイフを引き抜き、首を後ろから掴んで背中から心臓を突き刺そうとする。
〘この光景を夢に見たよ。実現出来て良かった。
さようなら鳴忌───〙
心臓へナイフを突き刺した───と思ったら突然鳴忌の姿が風で飛ばされる砂のように消えてしまう。
すると私の首に、誰かが触れる感覚が走った。
もしやと嫌な予感がしたと思ったら───
〘っ!!?一体どういう....!?〙
〖がはっ!!っ...鳴奈...良いタイミングだよ.....こんなのはっ....運命とは違ったけどね.....〗
鳴忌が私の首を掴み後ろに立っていた!
私と鳴忌の位置と体制が、まるっきり入れ替わっている!
〘うそっ...!鳴忌の妹の仕業...?!〙
〖んーん?これはアンタのよく知る能力だと思うけど?.....なに動揺してんだよ...笑〗
〘よく知る能力......っ!!鳴忌...なんて事を...!!〙
〖もうなんでもいいよ、アンタはもう死ぬしかないんだから......じゃあね───〗
その瞬間───
〘"動くな"〙
〖.....ほう?〗
動きが止まった鳴忌の手に握られていたナイフを奪い、再度心臓へ突き刺そうとした瞬間...."邪魔"が入り鳴忌は身体の自由を取り戻し真尋の攻撃を躱した。
二刀流vs体術。互いに一歩も引かない。
2人は激しくぶつかり合う。武力と感情の押し合い。
〖アンタは一体何のためにあの二人に変わって戦うわけ!?
元は敵だったのに情が映っちゃったの!?意志の弱い人間は軽く見られるというのに!!〗
〘っ!!お前なんかにっ!!何言ったって意味が無いでしょうがっ!!
それに私は情が移ったわけじゃない!!
ただ殺し屋として格好つけたいだけっ!!〙
〖へぇ〜言い訳しちゃってさぁ!!!
本当は格好つけたいとか言ってても、心ではもうどーでもいいとか思ってんじゃないのぉ!!?
アンタは元々あの女と一緒に居たんでしょ!?
あっ、私達が殺したからもう居ないか!!
あはははっ!!!〗
〘鳴忌ィ───!!!〙
怒りと気迫でどんどん鳴忌を追い込んでいく。
しかし鳴忌も負けじと追い返してくる。
〖私を殺したって、あの女は戻ってきやしないんだよ!無駄な希望はやめろよ!〗
〘うるさい!!!瑠衣は私の心の中で今も生きてる!!!私の妹を侮辱するな!!!〙
〖はっ!!夢見がちな女の子はこれだから哀れだよ!!
あの女は死んだ!私がソラにそうさせた!死んだんだよ!死体に情を抱くなんて馬鹿らしい!〗
鳴忌の勢いが増し、ナイフを持つ真尋がどんどん押されていく。
〖姉のアンタならわかるでしょ!?
妹って存在はいつだって私達姉の引き立て役なんだって!
私達の踏み台として生きてんの!!分かるよねぇ!?〗
〘ぐっ!がっ!がはっ!!
っ...!違う!!妹の存在は姉にとっての安心だ!!踏み台でも引き立て役でもない!!!〙
〖へぇ!安心の無いアンタが、今何を糧に生きていくって訳!?言ってみろよ!!〗
鳴忌にみぞおちを殴られ、それもいい所に入り私は腹を押えてナイフを落とししゃがみ込んだ。
〖......ナイフを落としたらダメ....じゃん!!〗
〘がああっ!!!〙
拾われたナイフを私の床に着いていた手の甲目掛けて突き刺してきた。
〖結局言えないのに.....妹が大切とか言うんじゃねーよ。ペラペラな綺麗事を聞くと吐き気がする。〗
〘ぐっ....ゴホッゴホッ......〙
私は今追い詰められている。
みぞおちに攻撃が入りしばらく立てそうにない......手にも負傷を負い....身体中ボロボロ......。
一か八かだけど、タイミングが良ければ.......
〘.....くふっ....くくくっ....くはははっ......〙
〖....何笑ってんの?頭おかしくなった?〗
〘くふふっ...違うよ....ふふふっ.....死ぬ時人ってこんな気持ちなんだって分かって.....笑っちゃってるだけ.......〙
〖.....どういう意味?〗
〘えぇ...?くくくっ.....惨めだからだよ...はははっ...!
こんなにも惨めな気持ちで死んでったのかと思うと笑えてきてっ....あははははっ!!!〙
その空間に真尋の狂気にも似た笑い声が辺りに響き渡る。
鳴忌は虫を見るような目で真尋を睨み、トドメを刺そうとナイフを掲げる。
そしてしゃがみ込む真尋の上からナイフを振り下ろす───
〖───っ!!!〗
〘がっ........〙
真尋は避けようとする素振りも見せず、受け入れるように鳴忌の攻撃を受けた。
心臓にナイフが突き刺さり、口から血を吐き出す。
〖......気味の悪い女っ.....これで終わりだね───っ?〗
〘ハァ....ハァ.....ハァ........私は....諦めの悪い女だから.......最後に.....一矢報いてから死んでやる...!!〙
〖っ───!〗
真尋は最後に目を瞑り動かなくなった。
死んだのではなく、生きている状態で目を瞑りピクリとも動かなくなった。
するとそれから数秒、鳴忌が自分の手に握られたナイフを自身の首元へ向けた。
〖っ!ちょっとソラ!?何ぼーっと突っ立ってんの!?早く解いてよこれ!!〗
‹(口をパクパク動かす)›
〖ソラ...?何...口をパクパク動かしてるの...?
もしかして.....これ解けないの...!?〗
真尋を見ると、うずくまった体勢から変わっていて床に倒れ込んでいた。
おそらく.....真尋は死んでしまった......
でも真尋は最後に1つ、残してくれた......
〖おおおおぉ!?真尋!!クソ!!
腕がっ...勝手にぃ!!っ抗えない!!〗
『真尋......』
〚真尋の顔....笑ってる......〛
床に横たわった真尋の顔は、余裕そうに微笑んでいた。
それを他所に鳴忌は自身の首にナイフを突き刺そうとしている。
〖体を操って......いや違う!能力で命令されてるんだ!!
クソ!先に殺しておくべきだった!!こんな訳わかんない能力のアンタを!!
所詮百鬼姉妹のアンタらは、私達の足元にも及ばないってのに!!!〗
[ダメだ......私の能力を使っても....流れは変わらない.......鳴忌........]
〖やめて....止まれ.....刃先がもう首に───
あがぁぁぁああああ!!!〗
ナイフの刃がゆっくりと鳴忌の首に入っていく。
刃が深く入っていくと同時に、鳴忌は血を吐き出しながら苦悶の叫びをあげる。
〖あっ...あぐっ!!ごぼぁ!!!
し...死ぬっ....やばいっ...!!!〗
『これで......前に進む...私達が......今まで逃げ続けてきたこの状況から...!!』
〖鳴奈っ...!!〗
鳴忌は凄惨な状況の中、自身の妹である鳴奈の方を振り向き手を伸ばした。
鳴忌の顔は助けを求めてる、そんな表情だった。
〖お姉ちゃんがこんななのに.....どうして突っ立って助けないの.......助けて...!!〗
[鳴忌..........お姉ちゃん......]
〖早く助けて....ってば...!!!
私がどれだけ鳴奈と一緒にいて、助けてやったか忘れたの...!?
恩知らずがっ...!!〗
どれだけ鳴奈に助けを求めても、鳴奈は立ち尽くして姉の無様な姿を見ているだけ。
鳴忌は意識が消える前に鳴奈に叫ぶ。
〖妹は影の中でしか生きれない癖に!!
私がどんだけ養ってきたと思ってるんだこの恩知らずのクソ女が!!
ふざけんなよ鳴奈!!!お前が妹で......心底......悔やまれる......よ....クソっ───〗
言葉を連ねていた時、言葉が突然途切れ.....鳴忌は出血多量による失血死で死亡した。
『........死んだ.......真尋.....』
〚壮絶だった......気迫で気を失いそうだった......
真尋は死んじゃったけど.......無意味な死ではなかった.....私達に道を残してくれた...!〛
静寂にたち込められた空間で、私達は勝利を噛み締めた。
死んでしまった真尋の思いを継ぎ、私達は目の前に現れる次の問題に対処する。
問題は、まだ終わってはいないのだから。
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