第24話:計画が上手くいったのなら───

霊園を後にして向かった先は、大原小学校の真ん前にある駄菓子屋。


そこは俺が小学生の頃に良く通っていた駄菓子屋で、俺はインスタントのべペロンチーノをよく買って食べていた。


久しぶりに地元へ来たのなら、ここは必ず行っておきたかった。


駄菓子屋には今じゃ歳を大分重ねたお婆さんが店の店主で、去年も何回か来ていた。

俺が子供の頃は当時の母親位の若々しさだったが、時間が経った故老け込んでいた。


俺が店に入り、ペペロンチーノを手に取るのを見た店主のお婆さんが声を掛けてきた。



〔久しぶりだねぇ〜....元気にしてたかねぇ?〕


【.....えぇ、多少は。】


〔そうかい〜それは良かったねぇ〜.....〕



この人とは本当に昔から知ってるし、結構この人も長生きしてる。

70をとうに過ぎ、一時期病気を患い休業していた。



【.....身体の方はお元気ですか?】


〔もうばぁちゃんだからねぇ〜.....大丈夫とも言えないねぇ〜.......

あたしなんかより、鳴ちゃんはどうなの?

東京で何してんだい?〕



俺は口を閉ざした。

このお婆さんは、俺が東京でしてる事を知らない。

知られたくもない。だからずっと黙っている。


そのまま黙ってると、お婆さんがこう呟いた。



〔まぁねぇ〜......あたしは鳴ちゃんが何をしてようが構わないけどねぇ......ただただ無理しないで欲しいなぁって........身体にはもちろん気をつけて欲しいし、何よりねぇ........前を見ていて欲しいんだ......〕


【っ.....お婆さん.....】


〔あたしの夫は何年も前に亡くなってねぇ.......

無理をする人だったんだよ.....あたしの為と言ってねぇ......

無理をしてでもあたしに苦労させまいと、仕事をしていたんだけどね......仕事で大きな失敗をしてしまって....仕事を解雇されちゃったんだよねぇ........


その時夫はかなり落ち込んでしまって、あたしに謝ったんだ.......


ごめん!!ごめん!!申し訳無い!!許してくれ!!!


そう言いながら涙を流す夫の姿を見た時、あたしも涙を流しちゃったんだ.....ポロりポロりと出てきてねぇ.......あたしが夫に声をもっと掛けていたら...夫にあんなにも深い罪悪感を与えずに済んだのにねぇ........〕



そう語りながら、お婆さんの目から涙が一滴ポロッと流れ落ちる。

目の涙を拭い、俺の顔を見て言った。



〔鳴ちゃん...?誰かの為に尽くす事は素晴らしいけれど.....何より...何よりも自分の事を考えなくちゃあダメよ...?

他人や誰かに言われた事は聞かないで、自分の天命だけを全うするんだよ...?〕



そう告げられた時、俺は話聞いて感じた事をそのままお婆さんに伝えた。



【お婆さんの夫さんは立派だと思いますよ。

愛する妻に苦労させまいとするその漢の姿勢に、俺は尊敬しました。


今お婆さんに言って頂いた言葉を胸に、俺の前に立ちはだかる壁を破り前へ突き進みたいと思います。

俺はお婆さんとこうやって今も付き合えていることが幸福です。これからも仲良くしてください。】


〔......そうかい...鳴ちゃんはもうすっかりちゃんとした大人だねぇ〜....婆ちゃんも嬉しいよぉ.....〕



少し照れくさいながらも最後にペペロンチーノを買って、お湯を入れてもらい店を出た。


俺には俺の正義があり、俺には俺の悪がある。

運命はそれぞれ違い変えられない。

変える者がもしいるのなら、俺は真っ先にソイツの首を討ち取ってやる。


悪の美学、そして正義のストーリー。


──────────


コツ───コツ──と間隔をあけて聞こえてくる足音に、私達は耳を澄ませながら待ち構える。



〚絶対あの女だよ...!ここで───〛


〘ちょっと黙ってて...!!静かに.......〙



徐々に近付いてくる足音と共に、話し声も聞こえてきた。



〖鳴利は居るのかな?アイツらが戦ってんのかねぇ?〗


[でも騒がしい音も無いし....戦っては無さそう....声も聞こえないよ......]


〖......出待ちの可能性あるかもよ。

確実にあいつらは既にあの部屋の中に居る.....

流石のアイツらでも私らが来ない事は想定してないはず......油断しないで。〗


〘そりゃバレるわな......来るよ...!〙


{(っ...?2人の話し声に、2人分の足音なのに.....呼吸音が3人分聞こえる......)}



足音が止まった瞬間部屋のドアが開けられた。

その瞬間ドアから見えた鳴忌達に真尋が奇襲を掛け始めた。



〘"動くな!"

仇はとる!!瑠衣───!!!〙


{真尋!出てはダメっ!1人正体不明の女がいる───!!!}



徠鳴の叫びに応じること無く、持っているナイフで鳴忌に切り掛る。

その瞬間後ろの影に隠れていた女がこう言った。



‹───効果抹消。›


〖っ.....笑〗


〘なっ!?なんで───!?〙



切りかかる真尋を華麗に避けて、逆に鳴忌は真尋を返り討ちにする。


英里奈達の方へ吹っ飛ばされた真尋は困惑していた。



〘なんで...!?私の能力効果が....消された...?!〙


『大丈夫!?真尋!』


〖"Step one, step two, do my danc1歩、二歩、ここで私のダンスをe in this bitch♪

Got a hunnid some' drums like a banここにドラムマガジンが100個、バンドみたいでしょd in this bitch♪"〗


〘あの女...なんて銃を.....〙


『二人物陰に隠れて───!!!』



鳴忌が手にしている銃はトンプソン。


気分良さげに踊りながら、片手でトンプソンを

周りに乱射する。


物陰に身を隠して頭を手で抑える。

10秒程だった頃、音が止むと私達は物陰から出る。

周りを見ると天井や床壁に弾痕がびっしりとついていた。



〘イカれてるね、アメリカの少年にでもなったつもり?〙


『それより.....あの二人の後ろにいる女......

真尋が能力を使った時、何か言っていたような....』


〚私も見た.....その瞬間真尋の能力効果が消えた......もしかしてね....〛



鳴忌の後ろに佇む女は、私達の方を見て不敵な笑みを浮かべた。

おそらく私達に対して余裕な態度をとってんだろう。



〘能力を消す...?いよいよ他人頼りになってきたみたいだね。〙


〖仲間は多くいた方がいいでしょ?

それに私は頼ってんじゃない、利用してるんだよ。〗


[........]‹..........›


〘利用か....それは良い考えだね。

今はその考えでもいいけど、後になって仲間を利用した事をきっと後悔することになるよ。


仲間を利用する事は、後の自分に多大な影響を及ぼす。因果応報ってやつだよ。

それを今から分からせてあげる───〙


〖へぇ..........やってみろよ笑〗



真尋は女を睨みつけ、女は微笑みながらも鋭い目付きで真尋を睨む。

空気がバチバチになり静寂が辺りを包んだ。


真尋は鳴霾達を女達から距離を離し、真尋だけが前へ出る。


鳴忌は替えのマガジンを持っていないのか、銃を床に捨ててファイティングポーズをとる。

真尋もそれに応じるように、銃を床に捨てて同じ様にポーズをとる。


ジリジリと互いに近づき、お互いに顔を見合わせる。



〘喧嘩は始めて?〙


〖.....路上でヤクザの男を殴り殺した事がある。

しかも相手は刃物を持っていた。〗


〘ふ〜ん、そのナイフ100均のだったから勝てたんだね笑 その時のようにいくかなぁ?〙


〖いくよ。だって明らかにレベルの低いアンタなら、何で来られても勝てる自信があるんだから。

あ、私の銃使う???笑〗



喧嘩自慢の番組等でよくある煽り合いをしてる間に、互いに先手を打つタイミングを伺っている。



〖アンタらはいつだって逃げ回る事だけ。

どうせここで鳴利にも逃げられたんでしょ?

能力に固執し過ぎたから、今私の後ろにいるソラにビビって何も出来ない。


こんな茶番、すぐに終わらせてやる。〗



鳴忌の言葉は私達の核心をついていた。


能力を駆使して戦ってきた私達にとって、能力が効かないというのは....スマホがこの世からある日突然消えてしまうくらい痛いことだ。



〖敵ながら教えてあげるよ。

戦いはいかに傷を負わないかではなく、いかに勝つかだよ。


傷なんて戦いにおいちゃ呼吸と同じ事で、当たり前な事。

前までは鳴霾を私達の仲間にしたかったけど、断られたし時間も予想以上に伸びすぎてる。

だからここでいい加減決着つけよ?〗


〘えぇ.....もちろんそのつもり....だよっ───!!!〙



その時、真尋は手に隠し持っていた一発の銃弾と床に落ちているドラムガンを位置交換で入れ替える。


そしてそのドラムガンの銃口部を持ち、ストック部で鳴忌の顔目掛けてフルスイングでぶん殴る。

鳴忌は1秒早くしゃがみ躱す。

隙の出来た真尋のボディに、鳴忌は右拳を叩き込む。



〘ぐふっ!!〙


〖派手に動いたから、隙がありまくりだぞ!!!〗



真尋は後方へ吹っ飛ばされる。

英里奈と鳴霾が真尋に近寄り、心配そうに言った。



『真尋!!』


〘っ...!.....大丈夫....離して、私は大丈夫だから。〙


『真尋.....』


〚鳴忌.....体術のセンスもあるとはね......私には手に負えない.....何かすることがあれば───〛


〘いや、2人は何もしなくていい。私が死ぬまでそこで見ていて。

作戦を考えて伝えてる時間なんて、私には無いんだから───〙



そう言うと、真尋は立ち上がってまた鳴忌の方へ歩き出す。



〘これはただの戦いじゃない。

妹を殺され、1人になってしまった私が....妹の死に意味を持たせる為でもある。


偽善だろうとなんでもいい、妹の死が無意味なものにしない為に.....ここで勝たなくてはならないんだ。〙


〖ヒュー、かっこいいねそれは。

口ではなんでも言えるってことを、その頭と体に教えてあげるよ.....〗



その時、真尋が私の顔を見た。

私を見る真尋の顔を見て、私は嫌な予感がした。



『真尋....ダメだよ......真尋が今何を考えてるのか......嫌だけど分かっちゃうよ......

お願いだからそんな事はしないで......』


〘.......私さ、昔から人が死ぬ様に興味があったの。

殺すのが好きで好きに殺し回ったから今の私があって、その好奇心は今も収まってない。〙


『やめて.....』


〘鳴忌の言葉は、私達の核心をついてた。

能力任せだったのかもしれないし.....能力を宿してからずっと、能力に頼ることが快適だったから....本来の人の戦い方をしなくなっていた。


甘えは命取り.....能力が効かなきゃ負けるって考えが、正しく命取り。

戦いは死ななきゃ負けじゃないし、能力任せではなくどう使うかだから。〙



真尋のここまで真剣な顔は初めて見た。

すると真尋は最後に強ばった笑みを浮かべて言った。



〘人を殺してく時に思ってたんだけどね......

自分がもし死にゆく時....どんな感覚で、何を見て何を思うのか.....ってね....ははっ.......〙


『お願い.....』


〘別にこの状況を見て精神がおかしくなったんじゃないんだ.......これは常人に理解出来ない感性なだけ.......

殺す事に躊躇がなけりゃ、死ぬ事なんて怖くもない。人はいつか死ぬ。私はそれが早いだけ。〙



そう言い終えると、真尋は遮蔽から体を出して鳴忌達の前に立ちはだかった。



『真尋!!!やめて───!!!』



私はよく自分の気持ちに嘘をついていた。


この部屋に入る以前、私は真尋を"信用出来ない"と言い放った。

それは結局真尋は私達の敵なんだと、そう思っていたから......いや、そう思うようにしていたんだ。


でも......



『真尋1人で行かないで!!私も戦う!!』


〘"遮蔽から出ないで".....アンタらに能力を使ってる間は鳴忌達に使えない。

これで能力任せにならない戦いになるね。〙


〖一対三でどう勝つつもり?

まぁ.....せいぜいやってみなよ───〗

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