第23話:まだ話したい事が───

〘───大切な人ってのは...死んだだけじゃ消えないものがあるんだよ───!!〙


【っ───!!!】



俺は瞬間移動で英里奈の横にいる女の射撃を横にズレて避けた。


死んだだけじゃ消えないもの.........俺にもあったっけ....そんなもの.......。

無いから今があるのか?あったら違ってたか?

バカバカしい......なのに...不思議と頭から離れない...その言葉が.........



【っ........】


{チィ...!避けられたっ.....}


〘気ぃ抜かない!!こっちも仕掛ける!〙



真尋は素早く立ち上がり、隠し持ってたバタフライナイフで鳴利に切り掛る。

すると鳴利は能力を使い避けることはせず、それどころか切り掛るナイフを手で掴んだ。



〘え"っ!?〙


【.......俺にも大事な人が居た。母親の事だ。

ケチで金なんかほとんどくれやしなかったが、最低限の事はしてくれた。


暴力も振るわないし暴言だって言わない優しい人だった。

母親が死んだ時俺は泣いた。一晩中泣いた。

でも今に至るまで俺の中には誰も居ない。俺の中には俺しかいない。


大事な人は命を落とせばそれまでだ。

特別扱いなんか無い。死んだら消えて無くなる。


非現実的な能力を持つ我々でも、見るのはいつだって現実だ。夢は見れない。この世界じゃ特にな。】



鳴利はナイフを握ったまま真尋の手から引き抜き、柄の方持って部屋の遠くへ放り投げた。


そして鳴利はこう言って姿を消す。



【俺を殺せば死んだ人が蘇ったり、俺を殺せば復讐が完遂するとか、俺を殺せばお前らの何かが達成されると思うんなら......俺を殺してみなよ。

俺はお前らと次会った時、本気で殺すつもりだからよ───】


〘ま、待てっ!!.......っ消えやがった......〙


{うーわ、最悪。何逃がしてんの?}


『鳴利......』



彼の去り際に見えた表情は....とても───



『悲しげだったな......今、鳴利は何を思っていたんだろう......』


〘敵の感情なんてどーだっていいでしょ?

私の大切な人を殺し、アンタらの命も狙ってる。

そんなヤツの感情なんてどうだっていい。〙


『ん...まぁ.....そうだけどぉ.........』


〚.......っ待って?聞こえる...?足音が......近付いてくる.......〛



徠鳴から鳴霾に代わり、足音がすると警告してくる。

そう言われ耳を澄ましてみると、わすがに聞こえてくる確かな足音が。



〘ホントだ.....あの女達が来たのかな?〙


〚どーするの?ここで打つの?〛


『いや、流石に私達の体力もかなり消耗してる。

能力を使えるかどうか.......』


〘.........英里奈、私達は能力が無いと戦えないの?〙


『え?』


〘私達は能力が無いと戦えないの?

能力頼りの私達って、能力が無いと強くないの?

何のために我々は人を殺す技術を持ってるの?

私はナイフ、2人は銃。充分戦えるじゃん。〙


『で、でも.......』


〘私達には能力とは別の才能がある。

それは私達に限らず、この世の全ての人間に才能がある。

その気になればその才能を遺憾無く発揮出来るはず。

その生まれ持った才能を発揮するのが、今なんだよ英里奈。〙



真尋が私にそう説く。

柄にもなくそんな真面目な事を言う姿につい言い負かされた様な気分になった。



『真尋.......』


〘恐れなんて、いじめっ子を殺したあの日から捨てた。

私に怖いものは無い。これはマジでね。

戦場に恐怖は無意味。必要なのは決意。そして前に進む勇気だよ。〙



真尋にそう言われ、若干迷いのあった心に決心がついた。

私はその気持ちのまま真尋の言葉に応える。



『うん...!私も今...心に決心がついた。

戦う...あの女を今...ここで打つ!』


〚....わ、私も...!力になる!〛


〘っ.....そんじゃ、待ち構えよう。〙


─────────


《同時刻|神奈川県鶴和市》


俺の瞬間移動能力には、距離の制限は無い。

なので東京から神奈川だってすぐに行ける。


そこで俺が移動地点として選んだのが、俺が生まれ育ったこの鶴和市内。

心を安らがせる時は、いつもここへ戻ってくる。


ここには見慣れた風景と、東京には無い和やかさがここにある。

ここにいると心が安心するんだ。地元愛が強いと俺は思っている。


俺は鶴和霊園という墓場に行き、そこにある1つの墓の前で俺は足を止めた。

墓には"九条家"と書かれた苗字がでかでかとあり、俺がそこへ来たのには理由がある。



【....栄ノ助さん......俺は貴方の仇をとる。

あの女を殺したら、俺もすぐそこへ行きますよ。】



俺が英里奈達の命を狙っていたのは、俺の恩師であり人生の救済者でもあった栄ノ助さんを殺したからだったんだ。


最初は栄ノ助さんの事を憎んでいた。母親を殺したから。

でも、結果主義の俺は栄ノ助さんがそうしてくれたから今の俺が居ると思っている。


だからすごく感謝している。



【俺の前には敵が多い。トップだった頃の貴方より。

正直かなり精神的に辛いところがありますが、どんなにボロボロになっても...栄ノ助さんに良い報告が出来たらと思います。

俺が下っ端だった頃のように。】



英里奈が栄ノ助さんを殺すよりも前から、2人が知らないだけで昔から組織に入っていた。

そしてあの事件が起き、俺は即座にその座を継いだ。

同じ仲間のヤツからも、お前なら信頼出来ると言ってもらいボスになった。


俺はずっと機会を伺ってた。

英里奈と鳴霾を殺す時を.......その時に英里奈が栄ノ助さんを殺して組織から姿を消した時、俺は流れが変わる良いタイミングだと思った。


英里奈の居場所を見つけ、鳴霾に向かわせ、そこで起こる事と、組織に戻った時のタイミングで始末する計画を立てて。


運良く計画が上手く行き、追い詰めたが今の状況は平行線。

それどころか俺の前に立ちはだかってしまっている始末だ。


最初は上手く行ったが、戦況を押し戻されてしまっている。



【っ.......まだ話したいことがありました.......

貴方がまだ生きていたのなら、組織の方針や、これからの繁栄の話がしたかったです。


本当に、貴方のような恩師が亡くなってしまった事が心底悔やまれます。

必ず、この俺が貴方の後継者としての行いをして参ります。】



最後に俺は墓に白いアケボノスミレを添えて、その場を後にした。

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