第21話:失った者からの贈り物

《瑠衣が死ぬ1時間前|鳴忌&鳴奈》


出し抜かれた末にあの二人を取り逃してしまった。

全ては正体不明の女二人のせいだ。


計画は後回しにして、先にあの二人を始末しなくては。

殺しきれなくてもいい、とにかく私達の邪魔が出来なくなるようなるべく足止めをしておきたい。


そう思った私達は、最近知り合った女に電話を掛けた。



〖───もしもし?今いい?1個頼みたい事があるんだけど───〗


─────────


鳴忌に電話で指示をされた私ソラは、組織周辺で瑠衣と言う女性を探していた。

特徴や顔、服等の情報も教えられたのですぐ見つかった。


私は戦闘向きでは無いので、結構陰湿な手で運命のスタートを切った。


能力の使い方は簡単で、対象者瑠衣の尿意を無理やり上げてトイレに行きたくて仕方なくする。

ただこれだけ。


しかしその使い方が、鳴忌にとっての良い流れなんだとか。

そして案の定トイレに行くためコンビニへと足を運び、そして出てきて信号を待つ.....それは全て鳴忌の能力によって仕組まれた運命だ。


そして車に乗っていた私は、ハンドルを思い切り左へと切りアクセルを踏む。

そして勢い良く瑠衣へ突っ込み、近くの店ごと突っ込んだ。


私が初めてからわずか10分以内で起きた出来事。

流れは実に見事でもありました。流石は運命を───あっと...少し喋り過ぎましたね。


私達には瑠衣が即死してない事を知っていました。

あえて生かしたのです。それは何故か?

瑠衣の姉にあたる人物、真尋が組織から一時的に出ることで組織から邪魔者が居なくなるからのです。


真尋が組織に居ては本命のあの二人の計画がうまくいきません。なので邪魔者にはどこかへ行って頂かなくてはいけなかったのです。


───────────


《真尋が閉じ込められてから1時間半|組織入口》



〖.......あの二人は....あの部屋行ったかな?〗


[ナイフが落ちてる......司令したあれは...失敗したんだね........]


〖鳴奈行くよ?ナイフなんてほっといてほら!〗



少々薄暗い組織の中から、組織当主の部屋へとヅカヅカと入り込む。

そして秘密の通路の入口の前へ行き立ち止まった。



〖鳴霾達はもう先に進んだのかな?〗


[屏風の位置がズレてるし.....ここに誰か入ってったのは間違い無いよね.......]


〖んじゃ挟み撃ちみたいな感じで行こう。

この通路の奥に居るのは鳴利。その逆は私達。

迫り来る壁のように、あの二人を捕らえてやろう。〗


─────────


〘───瑠衣.....〙



瑠衣の大声が聞こえ顔を上げると、私は部屋の外に居た。

驚きはしたが、それ以上に驚いたのは...私の目の前に今、死んだはずの瑠衣の姿があるからだ。



〘瑠...瑠衣.....うそ...こんなの幻覚......っ!!〙



私は頭より先に身体が瑠衣を抱きしめようとしていた。

しかし抱きしめようとしても瑠衣の体が透けていて触れなかった。



〘瑠衣...?身体が...透けてる....?〙


[.......お姉ちゃん、私幸せだった。

生きてる内に言いたかったけど、苦しい環境の中私を連れ出して、暗い人生に光を照らしてくれて嬉しかったんだ。


私をいじめっ子から守ってくれたあの時も、私はなんて良いお姉ちゃんを持ったんだろうって思ったよ。


ごめんね...妹の私がお姉ちゃんより先に死んじゃうなんて....情けないよね......]


〘瑠衣....ないよ....そんな事無いよ....だって瑠衣は私の......〙


[今思うと私達のした事は、世間からしたら全く褒められたものじゃなかったけど.....したい事が出来て良かった!

まだまだしたいこともあるし、お姉ちゃんと何処へ行っても一緒にやりたい事もあったから...悔いがまだ残ってる。


私はお姉ちゃんに前へ進んで欲しい。

私を亡くした悲しみがもしかしたらあるかもしれないけど、それで立ち止まって欲しくない。


私だっていつかは死ぬと分かってた。

それが早かれ遅かれ、いつ死んだって同じだって思ってた。

私は今までの行いに対する報いを受けたんだよ。


私は平気。お姉ちゃんに会えないのは辛いけど、私はいつだって見守ってるし、お姉ちゃんの心にはずっと私がついてる!


お姉ちゃんが私の光になってくれた様に、私がお姉ちゃんの光になれたらいいなって....そう思うよ...!!]


〘瑠衣.....私は...本当に良いお姉ちゃんだった?〙



最後に私は瑠衣にそう語りかけた。

すると瑠衣はいつも見ていた様な子供っぽくて純粋な笑顔で答えた。



[うん!!お姉ちゃん大好き!!]



瑠衣はその言葉の後、身体がどんどん消えていく。

もうほんとに会えない.....それを見て私はそれを心で感じた。

そのせいか目からは涙が浮かぶ。



〘瑠衣..........私も......大好き.....

あの頃の約束........どこへ行っても一緒だよ.....

私達は....!!〙



涙を拭い、私は通路の奥へと足を進めた。

前へ進んで欲しいと願った妹 瑠衣の言葉を胸に────


────────


《その10分前|英里奈・鳴霾》


通路を進むと、奥の方で誰かが話す声が聞こえてきた。

おそらくそこが通路の終点なのだろう。


ドアは閉まってるが、漏れ出る声に2人して聞き耳を立てていた。



【なぁ....あの箱はどこにやったんだよ...?

おい無視すんなよォ.....怒ってんのか...?】


『誰かと話してんの...?』


〚どうだろ───{二人いる.....女と、男の二人が........}



徠鳴が真剣な顔でそう言った。



『二人...?鳴利が女と話すって....誰と?』


{さぁね.....でも不思議なのが、僕に1つ女に関して心当たりがあるんだ......}


『女...?っ.....もしかして』



徠鳴は首を縦に振って頷く。



{そのまさかだよ.....金森 綾子───〚綾子さん!?〛



綾子の名前を出した瞬間、鳴霾が驚いた様子で言った、



〚綾子さんが居るの!?嘘、突如姿を消したと思ったら....こんなところに.......〛


『っ......部屋に入るタイミングは?』


{タイミングは無い.....いつ開けたって不意を突く事なんてないんだから.....}


『........っん?』



いつドアを開けるかタイミングを伺っていると、ふと後ろから人の気配を感じた。

微かに呼吸音が聞こえ、後ろを振り向くと───



〘........英里奈〙


『真尋っ...!?っ!!』


〘待って待って待って、銃降ろして。〙


『なんでここに来たの...!?私を追って来たの...!?』


〘違ってだから待ってって......話を聞いて......〙



私は疑いながらも仕方なく銃を降ろした。

すると真尋が話し出した。



〘私の妹が殺された.....あの男や女達のせいで......だから私もここに来た。

復讐の為でもあるし.......今は快楽の為に人を殺す事はやめている....二人を攫うつもりも、殺す気は無い......味方だよ。〙


『.......信用出来ない....嘘をついてない証拠は?』


〘無い。でも嘘はついてない。

私には、妹を殺された事に対する筋を通さなくてはいけない。あの男と女に。〙



真尋は両手を上にあげながら、必死にそう訴えた。

まだ疑ってる中、横から徠鳴が言った。



{この人誰...?英里奈はこの人を知ってるの...?}


『真尋は.....私達を殺そうとした...それは今も変わらない事.......だから言ってることが信じられない...!』


〘お願い信じて...!私もあの男に妹を殺された....私はいつだって瑠衣と居るのに...居ないのに違和感を持ったりしない訳...?〙


『そんなのっ.....居ない時だってあるのは当たり前でしょ...?

嘘ついたって私の疑いは晴れな───』



そう言いかけた時、徠鳴が私達に言った。



{....っ?ドアノブが.....動いてる.......っ!!

2人!!ドアが開けられる!!離れて───}


【ったく誰だよ部屋の前で騒ぎやがってぇ.......

静かにしろよ!!!】



ドアを勢い良く開けた瞬間に、鳴利がドアに最も近くにいた徠鳴(鳴霾)の頭を掴み部屋の中へと引きずり込んだ。


動きが早過ぎて対応出来ず、ドアが閉められる瞬間にすかさず真尋が叫ぶ。



〘動くな!!!......〙



真尋の声と共に、ドアの奥で鳴利の動きは止まりドアはやや半開きの様になった。

真尋はドアを開けてそのまま中へ入った瞬間、真尋は前の方に倒れた。



〘ぐっ...!?〙


『真尋っ...!?』


【お前が俺に命令するか......身の程はわきまえた方がいい。だからお前の能力の効き目が悪いんだ。】



鳴利は瞬きする間もなく、床に倒れる真尋の上に乗り、口に銃口を突っ込み塞いだ。

私達が鳴利の方に走ろうとした時に、鳴利がポッケからもう一丁の銃を取り出し私達に向けた。



【動くな。英里奈....そして....鳴霾?にしては顔の雰囲気とかが違うな......まぁいい.....】


{コイツ誰...?}


【俺が良いと言うまで喋るな。

.......お前らはどうしてここに来た?真尋を抜いたその2人だ。】


『どうしてかってそれは───』


{いや、僕は別に理由なんか無いよ。僕には全く関係ないしね。

今この部屋を出る事だって出来るし、この事を誰かに漏らすとかもしないつもり。}


【ほう?では何故───?】


{でもね、この身体の主の記憶を見るとね......

ほっとけない状況でもある。

僕は正義を気取るつもりは無いけど、記憶と意識を共有してるとね....どうしてもアンタに向かってイライラしてくるんだ。


僕がここに来たのは、英里奈と鳴霾が僕を生かしてくれる様にする為に来た。

その為には今起きてる状況を終わらせなくちゃいけない。}



その瞬間、鳴利の構える銃が徠鳴の右手に握られていた。



{っ???え、何?}


【っ?今、何を......】



すると鳴利の下に倒れる真尋が喋り出す。



〘っ.....アンタは私が大事な人を失ったと思ってるみたいだけど、それは大間違いだよ.......

大切な人ってのは...───!!〙

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