第20話:掲げる反旗

鳴霾.....いや、徠鳴には色んなことを教えてあげた。

今の私達に置かれた状況や、それまでの経緯。

徠鳴はそれを聞いて色んな疑問を持っていた。



{ねぇあのさぁ.....そのぉーなんだっけ?

鳴...忌...?って人は.....僕の宿主の事を狙ってる理由ってなんなわけ?}


『それが分かったら早い話だよ......私にも理解不能......何か繋がりが分かったりしない?』


{.......台湾の家系にね、不思議なルールを持つ家があるんだ。

今から話す事は、宿主の奥深い記憶...忘却した記憶の話なんだけど───}



徠鳴の話を要約するとこうだ。


台湾の家族に"徠"という姓の家族があり、そこの生まれである鳴忌とその妹、そして鳴霾。


鳴忌とその妹と、鳴霾は生き別れており、その再会をするためなのではないか...と言う。

再開に加え姉妹で恐怖の元、裏社会を支配するという企みがあるのではないか、そう話した。


今こうやって抵抗して逃げ回るのも、鳴霾がそういった戦いや恐怖による支配を望んでないからではないかとも話している。


仮にそうであるならばそうとも言える。

鳴霾自身組織をとして意識しているため、人を殺してお金を得る様な考えでは無い。


ただ生きる為。その為の居場所。



『.........徠家....初めて聞いた.....』


{台湾じゃ知らない人は居ないくらい有名だよ。

日本で言う住○会とか山○組くらい。}


『そうなんだ........鳴霾の親から受けた因果がここまで苦しめるとは......』


{僕としてはそんな戦いに関わりたくないけど、英里奈を無下にしたら宿主が黙っちゃいないだろうし.....めんどいけど力を貸すよ。}


『....それ言っちゃう?』



そう言うと、続けて徠鳴は自身に備わった能力を教えてくれた。



{僕には必中ヒットマークっていう能力がある。名前は自分で付けた。

弾丸も必ず狙った場所に命中させる。物を手で投げても当たるし、足でボールを蹴っても命中させる。

サブ能力みたいなものとして、壁越しからでも人がいるか見える。最強じゃん。}


『必中.......良い能力だね。

徠鳴とは、上手くやれそうだね....』


{っ笑....よろしく───〚ちょっといつまで仲良く話してんのよ!!私がいるの忘れないでよ!!!〛


『うわっ...な、鳴霾...?力づくで戻って来れるんだ......』


〚もー!仲良く話すぎ!!ふんっ!!〛



ヤキモチを妬いて戻ってきた鳴霾をなだめるのに、話した時間より倍の時間を要した。


なだめ終えてから私達は、そろそろ反撃を決意して組織へと戻って行った。



《組織本部前》



『───んじゃ、準備はいい?』


〚うん.....準備は出来てる───{さっさと入れよ───!!}うるっさい!!〛


『っ.......それじゃあ、行くよ───』



何度戻ってきたか分からないくらいだが、この見なれたドアを開けて中へ入った。


するとそこには部下達が沢山いて、侵入してきた私達に襲いかかってくる───かと思って構えてたのに───



〚───あれ?〛


『誰も居ない.....不思議だな......』


〚なんかやな予感{左危ない!!!}



そう叫んだ徠鳴が私を外へ引っ張り出す。

何が起きたのか分からず再度中に入り周りを見る....すると左の方に、誰かの人影が見えた。



『な、何が起きて...?それに誰か....居る...!?

誰!?誰なの!?』


{顔を出すな英里奈。とにかく外に出て。

ドアは開けたままで、絶対に中を覗いてでも入っちゃダメ。

ここは僕に任せて───}



そう言って徠鳴は力強い眼力をしながら銃を入口の方向に構えた。

そして一息ついた時、銃を何発も連射する。


その瞬間、弾丸は軌道を変えて左方向へと飛んでいく。

すると弾丸の飛んでった方向から聞こえたのは、

弾丸が壁か何かに当たった音だった。



『.......何が...起きてるのかさっぱりなんだけど......』


{....おかしいな.....入口のすぐ真左に人が見えたんだけどな......弾が当たらないなんて........}


『ねぇ徠鳴?さっき私が中に入ろうとした時に引き止めたのは...なんで?』


{あーそれはね......もう中見てもいいかな......

ドアから右側の方、覗き込んで見てご覧?}


『右側...?何が───』



そう言われドアから右側の方を覗き込んで見てみると.......そこにはナイフが何本も落ちていた。

そこにナイフが落ちてるのも不可解だが、誰がこんなところにナイフを落としたんだろう?



『ナイフ...?』


{英里奈には見えてなかっただろうけど、英里奈の真反対の影に人が潜んでたんだよ。

2人居たから連射して仕留めようとしたけど、いずれかの能力で外れた。気に食わないね。}


『能力......能力者が2人いるって事か.......』


{英里奈が組織に入る瞬間にナイフが左から飛んでくるのが見えた。だから1人は物を動かし飛ばす能力だと思う。

でももう一人は───〚もう一人は多分能力の効果無効とかじゃない?徠鳴?が必中効果の射撃を外すのって、ただ外したって訳でも無さそうだし。〛



話の途中で割り込む鳴霾がそう話す。

いきなりの事で結構混乱してるが、話だけを聞くとそうなのかもしれない。


必中効果は必ず目標に当てられる。そうな筈。

ならば外すわけが無いのに、外した。

という事はその必中効果を打ち消す又は無効化する何かによって弾丸は外れたんだと思う。


敵は2人居た(徠鳴がそう言っていたから)

1人は物を飛ばす能力(と仮定)

もう1人が、相手の能力に干渉出来る能力(と仮定)


そう考えておくのがいいかもしれない。



〚もう入っても大丈夫そうだね。行こっか。〛


『気を付けてよ。部下達が居ないこの状態そのものが不可解なんだから。』



互いに周りを警戒し合いながら中へと潜入。

電気は付いており、何も変わらない風景が広がっている。

しかしやはり人はおらず静寂のみ。

その静けさが身体の緊張を際立たせる。


軍隊のようにゆっくりと周りをクリアリングして、ボスのみが基本出入り出来る部屋の前に来た時....部屋の奥側から足音が聞こえた。


すぐさま私達は部屋の前の壁に張り付き、耳を澄まして音を聞く。



『足音が.....微かに遠ざかってくのが聞こえる.....』


〚....部屋の中に他へ通じる通路みたいなのあったっけ?〛


『.........あの部屋には屏風の虎の絵が置いてあるの知ってるでしょ?

屏風って元来部屋の仕切りとして使われる。


仕切りの奥は壁なのに、あんな位置に置くなんて何か隠してんじゃないかって....今ならそう思う。』


〚よしじゃあ....その仕切りとやらの奥に何があるのか確かめに行こうよ。開けるよ?〛


『いいよ、警戒は怠らないで。』



鳴霾が襖をゆっくり開ける。

開けた襖の隙間から中へ入り、中を見渡す。

人の気配も無く、中に人は居ないと思った私達は早速部屋の左奥にあるはずの屏風の方へと向かう。


屏風は確かにあり、部屋の仕切りとして置かれていた。

しかしそれが誰かの手によって、どかされた様にズレていた。



〚こんなズレた置き方してたっけ?これでどう仕切ってるの?〛


『いやこんな置き方はしてない.....だってほら見てごらん鳴霾───』



そう言って英里奈が指を指した方向を見ると、鳴霾は目を大きく見開く。



〚んー!?なにこれー!?〛



どかされた屏風を更にどかすと見えたのは、扉状にポッカリと空いた穴だった。

穴?通路?その奥には確実に整備された通路が見えた。



『さっきこの部屋に居た誰かは、ここから奥へ行ったんだろうね。』


〚こんなの知らなかったなぁ...!〛


『関心してる場合じゃない...さっさと行くよ!』



私達は早速通路の中へと足を踏み入れていった。


─────────


《一方閉じ込められた真尋》


あれから1時間?か2時間が経った。


焦りと怒りも一時的に無くなり、ボケーッと何もせず部屋の天井を眺めるようになってしまった。


脱出する為に色々試した。試せるものは全て試した。

ドアを殴ってみたり、蹴ってみたり、鍵をロックしてる配線を探し出して断線させてみたり、あらゆる手を尽くしたが全てが無駄に終わった。


断線させて開かなかった時はホントに絶望しかけた。


とにかく尽くせる手も無くなった以上足掻いても無駄だと悟り私はこうやって部屋の天井の汚れを1つ1つ数えるようになってしまった。



〘89...90......はァ.....瑠衣...お姉ちゃんがこんなんで情けない.......ごめんね......あの時アンタを外に出さなければ......〙



ふと我に返って妹の死を後悔して、自分を責める。

すると、ドアの外から足音が聞こえた。

そしてドアの前で足音が止まったと思ったら、そこから耳を疑う声が聞こえてきた。



[お姉ちゃん...!お姉ちゃん...!]


〘.....幻聴だ....声なんてホントは聞こえないし部屋の外に人なんか居ない.....精神に限界が来てるんだきっと.......〙


[お姉ちゃん...!!お姉ちゃんったら...!!]


〘なんだろう.....死ぬ前の状態ってこんなんなのかな...幻聴が聞こえるとか、まるでアニメみたい......〙



声に続いて外からドアを叩く音まで聞こえてきた。

幻聴もかなり酷くなってきた......精神的にもそろそろ限界かもしれない.......


今になって短時間で起きたことの重荷が更に重圧なものになってきた。



[お姉ちゃん...!!!大丈夫なの...!!?]


〘あー.....少し疲れたのか眠くなってきたなぁ......いつ起きるか分かんないけど、寝ちゃおっかな───〙



徐に目を閉じていく.....その時───



[お姉ちゃん返事してよ...!!!ねぇ...!!

ねぇっ........っ真尋お姉ちゃん!!!!]


〘っ......瑠衣...その呼び方懐かしいな───〙


────────


[真尋お姉ちゃん!!]


〘どうしたの瑠衣。学校でなんかあった?〙


[んーん!真尋お姉ちゃんが大好きだから呼んだだけー!!笑]


〘もー、ホント良い子で可愛い瑠衣だねぇ〜

ずっと一緒だよ.....〙


[うん!───!]

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