第18話:個々の想い

《現代|新宿区組織内部|通路》


長く暗い道をどんどん進んでいくと、通路の壁側にポツンと1つのドアがあった。

怪しく感じるが、男がそっちに入っていったかもしれないと思いドアを開けて中に進んだ。


中に入ると、そこは部屋だった。


本棚があって、デスクがあって、1人用のベッドがあったりと1人がそこで生活するには十分の空間があった。



〘なにこれ......あの男ここでいっつも寝てんの...?

部下達も知らないような場所で、寝首を掻かれないようにここで寝てるってわけ?〙



ドアを閉め、部屋の中を散策する。

そこで私は1つデスクに置かれた日記のような物を見つけた。

その日記を手に取りパラパラとめくる。

そしてふと最初のページへ戻ると、書かれた年月というのが結構昔の年月だった。



〘1955年.....相当前の年からこの組織はあるんだ......〙



読んでいくと、その日記には当時の組織当主の直筆でその時の日記が記されていた。

しかし、1ページ1ページめくっていくと筆跡が代わり代わりと変わっていった。


年月の経過もまばらで、2ページには西暦が1969年になったり、その次には1989年、更に1999年。

オマケに毎回毎回日記の終わりに"次の当主に未来を託す"

と書いて終わっている。


この日記は組織のボスとしての任期の最後に記す伝統の様なものなのか?



〘最近は......日付だけしか書かれてない......2029年......10年前だ....前任者サボり癖でもあったのかな?〙



そう思いながらふと次のページをめくってみると、そこにも日付が書かれていた。

それも今年である2039年で......今日...?

それに......なんか......さっき、書かれた...?


そう思った時、部屋の鍵が閉まる音がした。

私は音が聞こえた瞬間ドアの方に走って、ドアを開けようとした。


でも───



〘っ!!ドアがっ...!開かない!!しまった!罠だ!!〙



力一杯にドアを開けようにもビクともせず、蹴りなどを入れても全く凹まない。

まさかオートロックだとは...!



〘まずい閉じ込められた.....どうすれば.......ここで立ち止まってる場合じゃないのに.....!!瑠衣.....〙


─────────


《一方鳴霾・英里奈デュオは。》


ハッキリ言って家は狭かった。


仕方の無い事だけど、ここまで狭いとは思っても見なかった。

居間にもボロボロのちゃぶ台が物静かに置かれていた。


私はそこに座って、そこで英里奈の話を聞いた。



『......ここに住んでたのは小学校の終わりまで。

それ以降は.....誰かの家の敷地内で雨宿りしたり、庭の隅で寝たりしていた。


飯は万引きをして食いつなぎ、バレたら隣町まで走って逃げた。幸い生まれつき体力は多い方だったおかげでね。


そう生きてく内に、孤独ってのがどんなものなのかってよく分かる。

何処へ行くにしても1人、ご飯を食べるのも1人、更に寝る時だって1人だった。


寂しかったし、毎晩寝る時もお父さんの事を思い出して泣いちゃったりしたなぁ。


中学1年の代、誕生日の日に私は家で一人ボケーッとしてた。

その時お父さんが生きてて、私が小学一年の頃に祝ってもらった時の事を思い出した。


あの時は貧乏のピークに達してて、ケーキを買うお金すらない日があって...お父さんが持っていたライターの火に息を吹きかけて消した。


その時私の歳は12歳。だから火をつけては消すのを12回繰り返した。

ケーキは無いから食べるものも無く、ただ今までの過去を振り返る会話をするだけ。


でも私にはそれが幸せでもあった。

お父さんは、私に対していつでも愛をくれた。

その形がどんなに貧乏臭くても、私には気持ちが伝わっていたし嬉しかった。


それをしたのが、このちゃぶ台だったなぁ......』



そう言って英里奈はちゃぶ台の上を指先で撫で回して懐かしんでいた。

それを見て私はふと思ったことを言った。



〚この家って.....どうしてるの?

壊されないの?この家.....だいぶボロいけど...?〛


『私が買ったんだ。土地の権利含めて買い占めた。東区ごとね。

私の家が、私の育った象徴的なこの家が、歴史の波に呑まれ消えてしまわないように.......』


〚すっ...凄っ......〛



信じ難い話を聞き、私はただただ驚いた。

更に英里奈はこう話す。



『私ね、鳴霾から離れた10年間の間に色んな人に出会ったんだ。

その中に浄龍じょうりゅうって人が居てね、その人は東京研究所の支配人をしてる人なんだ。』


〚東京研究所?〛


『新たな薬品の製作・研究を日々していて、日本の医学進歩に大きく貢献しているらしいの。

浄龍さんは、私に対してこんなのを渡してきたの───』



そう言って服の中から封筒のようなものを取り出した。

見てみると、封筒にしては盛りあがっていて中には紙やお金では無いナニかが入ってる様に思えた。


英里奈が封筒を破り開けると、その中には───



〚───注射器じゃん。何入ってるの?〛


『浄龍さんが言うには、"才能を更なる段階に押し上げる"って言ってた。

これはなんの薬品なのか...私には分からないな.....』


〚........それぇ....打ってみようよ...?笑〛


『え?急に何よ。危ないかもしれないじゃん。

私はまだ完全にあの人を信用しきってる訳じゃないし、ただの危ない薬で打ったら死ぬーみたいなヤツかもしれない、ヤダよ。』


〚えー、面白そうなのになぁ〜......〛


『......じゃあ鳴霾がやってよ....私普通に怖いよこんなの.....適当に捨てようって思ってた物だし......』


〚え!いいの!?じゃあかーして?笑〛



なんでそんなに楽しそうかつ嬉しそうなのか私には分からないけど、取り敢えず私は鳴霾にその注射器を渡した。


すると鳴霾はすぐに腕の方に針を近づける。

どんだけやる気満々なんだよ.......



『鳴霾、ホントに打つの...?マジに?』


〚う、うん!!私今....すっっごいアドレナリン出てんだ...!!こんなにハラハラしたのは生まれて初めてかも...!!

どーしよ....これで死んだりしたら.....笑い話になるかなぁ....笑〛


『えぇ.....(ドン引き)』



汗が噴き出す。

身体が小刻みに震えるのを、無理やり抑え込む。

そしてその震える指を押し子に添える。



〚フ──フ──........よし行くよ英里奈...!行くよ良い?見ててよ...?まずは針を腕に───ッ!!〛


『大丈夫?』


〚その言葉は早い........それじゃあ.....打ってくよ───〛



その声と共に鳴霾は腕に得体の知れない薬を流し入れる。

全てを入れ終えて、注射器を抜いて投げ捨てる。



『鳴霾...?大丈夫?』


〚.........大丈...夫?っぽい?〛


『大丈夫なんだ.....良かったぁ.....』


〚なーんだ!!なんだったんだろう。ビビっちゃって損した───〛



.......突然鳴霾の騒がしい声が止んだ。

ん?と思い鳴霾の方を見ると、表情や身体をピクリと動かすこと無く止まっていた。


目も虚ろで天(井)を仰いでいた。



『.......鳴霾?おーい、鳴霾ー?何してんの?』


〚...........〛


『ね、ねぇ...?ふざけてんの?だとしたらもういいって.....つまんないってもう。』



と言っても鳴霾の反応は無い。

よく見ると、鳴霾の目が白目になっているのに気が付いた。

明らかに様子は変だけど、にしても変過ぎる。



『鳴霾?ねぇ....ねぇったら───!』


鳴霾?{ちょっと.....さっきからうるせぇよ!!なんなんだよお前は!?}



突然鳴霾が私にそう言い放つ。

そう言ってる時の鳴霾の表情は、見たことないくらい攻撃的な表情かつ目を向けていた。


それによく見てみると、鳴霾の瞳の色が暗い赤色の様に見える。



『鳴霾....なの?その目の色....どうしたの?大丈夫?』


{鳴霾?誰の事言ってんの?目の色とか別にどーでもいいでしょ。てか誰なんお前。}


『え.....鳴霾じゃあ....っなさそうだね。

あの薬は.....ん?』



私は部屋に捨てられた注射器を拾い上げて、そこに貼られてるものを見る。

そこにはこう書かれていた......



『DLC-002"人格形成".......あー.....そういう事か........あの調子じゃあ...私の事も知らないよなぁ.......』


{ねぇ!ここどこだよ!?}


『......ここ東京の東区にある私の実家。貴女の身体の宿主と一緒にここに来たんだよ。』


{宿主?.....あぁなんか居たかも.....さっきの鳴霾って名前はソイツの名前だったのか。}


『ところで名前は?あるの?』


{名前?んー.......無い。付けて。}



そう無茶振りを言われた。

仕方なく私は考えた..........そして思いついた名前は───



『───徠鳴らいな。どう?』


{徠鳴......うん、悪くない名前だ。ありがとう。}

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