第10話:九条家との繋がり
人には話せない秘密がある。
それがどれだけ重く、怒りを買いかねない事でも。いつまでも我慢は出来ない。
時には覚悟しなくてはならない。
相手が怒り、殴られるかも知れなくても.......
自分に及ぶあらゆる危害に、覚悟を決めなくてはいけないんだ。
「英里奈、俺の近くへ来い。」
ボスの部屋に呼ばれ何も話さず正座していると、ボスに近くへ来るよう言われる。
私はそれに従いボスの近くまで行き再び正座した。
『なんでしょう...ボス』
「.....英里奈、お前は自分の家族の歴史を知ってるか?九条家のルーツ、それまでの歴史を。」
『自分の家族の歴史......母からはそのような話はされたことはありませんね......』
「そのな......お前の親の事はよく知ってるんだ......俺が若い頃、結構仲良くしてたんだ.......
当然、裏社会で生きてることを隠しながらな。」
初めてボスから昔の話をされた。
私の親と面識があった事にも驚いたけど、そのまま話を聞いていく。
「お前は忘れてしまっただろう....なんせお前が2.3歳の頃の話だからな......
お前の父とは面識があったし、俺が金の無いお前の父に飯を奢ったりなんかもした。
しかしアイツは良い奴で、遠慮して飯に中々手をつけなかった。
それで俺が無理やり食わして、それでも何だかんだ美味しそうにアイツは食ったよ。
その姿を見て俺は嬉しかったんだ。
たまに家にも行って幼いお前と遊んでやってた。
それで俺が帰る時なんかは、あのボロッボロのワゴン車で送ってくれたりなんかもしてくれる。
覚えてるだろ?あのワゴン。
お前の父にはホントお世話になったんだ。
だからホントに申し訳なかった.....ずっとそう思ってた......」
『......ん?申し訳なかったって.....どういうことですか?』
「エリー.....俺はお前を愛してる。
それがアイツの残した言葉だ......」
私の父は殺された。私の目の前で。
私は父の最期の言葉を知らない。ボスが何故知ってるのか....私はそれをすぐに理解出来た。
『ボス.....その呼び方....父から聞いてますよね?
その呼び方は父しか呼んでない...父だけが私に呼んでいい呼び方...!
ボス、父をなぜ殺した...!?』
「........お前の父がどんな仕事をしてたか、覚えてるだろ?」
『......銃の取引、それと覚せい剤や大麻の売買。
私はそれを何回も父に辞めるよう───』
「けれど辞める前、当時のボスがお前の父の始末を俺達に命令した。
覚せい剤や大麻を広めるのは許されない行為。
俺はそれに従い、言われた住所に向かうとそこはお前の実家だった。
まさかと思い玄関のドアを開けると、そこにはお前の父が居た───」
─────────
《2023年|東京都東区》
「───っ!?おまっ....なにやってんだ...!?」
エリー父{っ!?え、栄ノ助さん...!どうしたんですか───}
「お前....覚せい剤とか売買してんのか...?
俺達の組織から聞いたぞ.....本当か...?」
{っ.......}
「おい何やってんだよ!!お前英里奈が居るのになんでそんな事やってんだ!!?
必要なら俺を頼ればいいじゃねぇかよ!!」
{そ、それは......}
「英里奈からも絶対言われてるはずだぞ!?
お父さん危ない仕事は辞めてってよぉ!!」
{でも今の仕事辞めてしまったら...!
英里奈に...飯を食わせられないんですって...!
アイツには...腹一杯飯食わせてやりたいんです....苦しい思いさせたくなかったんだ...!!}
「っ.......でもな、英里奈がお前の仕事に消極的なのはな.....お前が大事だからだよ、親父さん。
分かるだろ?子は親が大事、居なくなったらどうすればいいか分からない....それも13の代にとってなら尚更だ。
親父さんの言う事もよく分かる、確かに自分の子に苦しい思いはさせたくはないだろうな。
でも、だからと言って親である自分が子の踏み台になるのは違う。
子は親と成長するんだ。親が踏み台になるもんじゃねぇんだ。
そんな子供をお前が1人にさせてどうする?
逆に苦しい思いにさせてんじゃねぇかよ...!」
{.......っ...確かに......}
「俺は命令されてる以上これは仕事だ。親父さんを殺さなくちゃならねぇ.....心が痛いなんて言葉を吐くと嘘っぽくなっちまうが本当だ.....
俺だって付き合いのある親父さんを殺したくないし、英里奈が悲しむ事はしたくねぇ......」
{.......いえ...俺の人生はドン底から始まった。
家は貧乏でろくに飯も食わして貰えなかったけど、それでも頑張って金稼いで、女と結婚した。
離婚したけど親権を貰って英里奈と2人でここに住んで、俺は幸せでしたよ。
今こんな状況になってしまったのも、俺が今まで溜めてきた罰なんです。
英里奈には謝り切れないほど辛い思いさせたかもしれないし、これから俺が居なくなってもっと辛くなると思う。
最後に1つ───
"ごめん英里奈、今日の帰りは出迎えれない。
今までありがとう、ごめん。"}
俺はその言葉の後、柄にもなく涙を流した。
そして悲しむで震える俺の手に握られる銃の弾丸は、親父さんの胸を貫いた。
そして同席していた仲間が親父さんの身体をバラバラに解体してブルーシートに包んで家から車に運ぶ。
作業の最中、英里奈が学校から帰って来た。
家からブルーシートに包んだ胴体を持って出てくる俺を見る。
俺は目を逸らし、作業を終えて車に乗り込む。
車が発進するその時、英里奈が俺達のいる車の方から叫ぶ。
『お兄さん!!!』
─────────
「───っていう......英里奈......お前には辛い思いを背負わせてしまったな.......これは俺の責任だ......すまなかった───」
『フーッ...フーッ...フーッ.....』
「っ......幸運を祈る、エリー───」
『ッ───!!!』
私は耐え切れず銃弾をボスに放った。
「ぐっ!!!っ......フッ........」
一息つく間もなく、私は速攻鳴霾の居る自分の部屋へと走り出す。
ドアを開け、自分の荷物をありったけ詰め込む。
それを見て鳴霾は戸惑って私に聞く。
〚えっえっえっ?なな何してんの???
どうしたの荷物なんかまとめて.....〛
『.......ごめんね、鳴霾───』
私は鳴霾にそう言い残して部屋を抜けて組織から飛び出す。
私には耐えられなかった。家族を殺したのが私の仕える組織のボスだった事実に。
信頼してた。尊敬してた。だからこそ耐えられなかった。
殺してしまった罪悪感が無いとは言わない。
でもしてしまった。もう後戻りは出来ない。
この先に待ち受ける全ての状況と結果を受け入れるつもりだ。
私は、いつだって1人だったから。
─────────
《2022年|東京都東区|九条家》
『お父さんー!』
{おーどうした英里奈}
『大好き!絶対にどこにも行っちゃダメだよ?
私を1人にしないでね?帰ってくる時もちゃんと出迎えてね?』
{わーったわっーたよ!お前もう中学入って思春期だってのに、ホントお父さんの事が好きなんだなぁ.........嬉しいよ。}
───────────
《現代|奈良県海原市百鬼家》
〘ふぅ.......〙
[お姉ちゃん、肺の調子どー?]
〘んー....気胸の後遺症も無くなって調子は戻ってきたかも。〙
[てことはさ、もう.....やるんでしょ?]
〘うん、そうだよ。あの女2人を殺す。顔もこの10年で忘れる程憎しみは浅くない。
逐一報告される情報からすると、今あの女達は東浜にいる。すぐに行くよ。〙
[もっちろ〜ん!レッツゴー!!]
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