第8話:見つからない秘密箱
この世にはかつて"パンドラの箱"と呼ばれる呪いの箱が存在した。
その箱は開けてしまうだけで世界を厄災に包み込んでしまう。
そんな忌々しい箱が、この世に姿を現す。
しかし新たに姿を現した箱は、呪いや災難は備わってはいなかった。
その代わり、箱の中に物を入れて蓋を閉め、再度また蓋を開けると入れた物の姿が消えるという能力が備わっている。
ある者は無視し、ある者はそれを利用するために持ち去る。
箱はようやく主を見つけ、持ち帰った者が現れて以降ランダムに現れることは無くなった。
———————————
《2029年|新宿区組織本部》
『鳴霾、最近妙な箱を見かけるんだけど....知ってる?』
〚知ってる知ってる!!私もよく最近見かけるんだよね~....あれなんなんだろうね.......〛
『そのね......風の噂によるとその箱は何でもかんでもしまいこんで存在を隠す事が出来るらしいよ。
ホントになんでも、概念、物、人、全部。』
〚え〜なんだそりゃ〜、そんな箱誰が持ってるんだろう?〛
『それがね、箱は主を探すために私や鳴霾、その他の人間の前に現れていたらしいけど....箱を見かけなくなった今日、もう主を見つけたらしい。
偶然にもその瞬間を見つけた私は、帰って調べると.....金森 綾子って女性の手に渡ったと分かった。』
金森 綾子とは、特筆事項の無いただの一般女性。
勤務先は東京医療研究所。年齢25歳。
『私はその箱に興味があって、金森という女性に会ってみたいとさえ思ってる。
鳴霾、着いてくる?』
〚んー....私はいいや〜.....〛
『そう、じゃあ私だけで行ってくる。なんかあったらすぐ連絡してね。』
〚そっちこそね〜......ふわぁ〜....寝よ.........〛
─────────
《東京都中央区|金森家前》
私は金森 綾子の住むマンションの入口付近で、スマホを弄り通行人に扮して帰宅するのを待っていた。
時刻は19時を少し過ぎたくらい。
そろそろめんどくなってきた頃、入口の方に歩いてくる足音が聞こえてきた。
綾子〈ふぅ.....疲れたなぁ......ご飯作るか.....〉
『っ....あれか......疲れた顔をしてるね......』
綾子がオートロックで扉を開ける。
扉が閉まった時に私は能力で扉を通り抜けてマンション内に侵入した。
綾子の部屋番号は知っている。
エレベーターが上に上がったのを見て、私はわざと遅れて9階へと上がった。
覗き穴がごく僅かに光ってるところを見るに、綾子は既に中へ入っている。
ドアに耳を当て、中の音を聞く。
ドタドタと歩く音や、何かを開ける音、物を置く音もあまりしないのを考える限り...綾子はベッドで寝ているのだと考えるのが妥当だ。
私は透過でドアをすり抜け中に侵入。
そして音を立てずに寝室を探す。するとそれっぽい部屋を見つけたと思った時、部屋の方から声が聞こえてきた。
私は足を止め、耳を澄ませる。
〈───そうだよね〜...笑 でも私は刺激が欲しいし〜───〉
『通話...?少し厄介かもだな......』
そこでリビングに居る私は、ブレイカーを探してそれを落とした。
そうすることで回線が遮断され、通話を止めざるを得なくなる。
部屋から必ず出て来るから、透過で寝室へ回っておきベッドに入って綾子が戻るのを待つ。
〈っ?友子?おーい?ってあれ、wifi切れてるじゃん!ブレイカー落ちた??〉
その声が聞こえたと共に、私はバレないよう静かに寝室へと先回りする。
〈もー電気もつかないし.....ブレイカーどこだっけー....せっかく楽しい時だったのに........
んー......あ、あった!これを...上に......よしっ!これで電気が付くはず───〉
寝室のドアの隙間から、光が差し込むのが見えるようにブレイカーが上がったようだ。
〈やった!これで通話再開〜♪友子に通話をまたかけてっ───〉
そう言いながら私のいる寝室のドアを開ける。
すると綾子は私の顔を見ると、明るい表情が一気に青ざめる。
『はぁい♪お邪魔してま〜す♡』
〈えっ...?誰...?知らない人.....えっ.......〉
『まぁそんなに怖がらないで、ベッド入りなよ。
疲れてるんでしょ?』
そう言って毛布を開けて中に入るよう促す。
しかしそんなチャラけたテンションに乗っかるはずもなく、綾子はこう言う。
〈誰なの...!?け、警察呼びますよ...!?
どうやってこの部屋に───〉
『動かないで、指一本でも動かしたら......どうなるか分かるでしょ?
ここで死にたくは無いはず、綾子にも....刺激のある人生を送りたいんでしょ...?』
〈ヒッ!!どうして私の名前を......〉
『いいから、アンタはそのスマホをすぐに床へ置くんだ。ほら、早く!!』
〈わわっ、わかりました!!はい....置きました......〉
綾子に銃を向けたまま、綾子がスマホを床に置いたのを眺める。
置いたのを確認して、私は本題に入った。
『偉い。そうやって素直になればいいんだよ。
ところで綾子ちゃん...?貴女.....箱...持ってるでしょ?』
〈ふぇ...?箱...?〉
『分かってるでしょ?能力が宿った不思議な箱の存在を......とぼけて切り抜ける状況じゃないのは、理解出来てる?』
依然として銃を向けたまま綾子に問いただす。
しかし綾子は依然として知らない顔をして言う。
〈っ...き、木箱のことなんて知らない...です......
能力が宿ったってそんなの....よく分からな───〉
『ちょい待って.......今、なんて言った?』
〈え...なんの事ですか───?〉
『だから、なんて言ったのって。
私...木箱なんて、一言も言ってないけど???』
〈っ...!!〉
綾子の顔がさらに青ざめる。
私は確証を得、綾子にこう言う。
『嘘は良くないよねぇ〜......うん、良くない。
綾子教えて?どうして嘘なんかついちゃったの?ん?』
〈っ..........あの箱は...私の退屈な日常を変えてくれたんです.......犯罪が良くないなんて頭が痛くなる程分かってるけど.......退屈な毎日を送る中で、決められたルールから外れた行動をすることで......気持ちがスカッとするんです....だから───いっ!!?〉
『私は....どうして嘘をついたのかって質問をしたのに....どうしてそんな事も分からないの?』
〈ぐぅぅ!!!いったっ....!!!〉
私は綾子の腕に向かって発砲した。
綾子は痛みで震えだし、打たれた部位を手で抑えた。
『箱はどこにある?嘘つくなよ?早く教えてよ。
この部屋にあるの?ねぇ?』
〈......お、教えますぅ....けど、ひとつ....忠告しておきたいことがあるんです.......〉
『忠告?.....なに?』
〈あの箱には意思があって.....箱が所有者とその権利を決めるんです.......だ、だから.....貴女が持ち去っても....すぐに私の元へ箱が戻ってくる.......奪うのは無理かと───〉
『へぇ〜そうやってまた嘘つくわけ?
私が何者なのか分かってないよねやっぱ......』
〈う、嘘なんかじゃないです...!!ホントなんです...!!だから.....命だけは助けてください...!!〉
綾子は私に土下座をして命を乞う。
嘘とは言ったが、箱に意思があり持ち主の方へ自動的に戻るのなら....持ち去って私達で保管するのは不可能だ。
歯がゆい気持ちであるが、これ以上綾子を詰めたって仕方がない。
私は最後に綾子にこう言った。
『嫌だけど、綾子の言った事信じるよ。
今日のとこは帰るけど、警察に電話しても無駄だよ。
私は綾子を監視してるから、あんま下手な動きしない方がいいよ。どこに行っても突き止められて殺される。それを覚えておきな。』
〈ヒッ.....〉
『んじゃ、お邪魔したわ。またね。』
私は綾子を置いて颯爽と部屋を出る。
収穫は得られなかったけど、箱の所有者は確認したし持っている事実を得ることが出来た。
箱の使い方は分からないけど、何か欺く事が出来そうな気がする。
必ず絶対に手に入れる。
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