第5話:百鬼姉妹②

───英里奈が帰ってきた。


見れば分かる。これは確実に嫌な事があったに違いない。

私は英里奈に皮肉を交えてこう聞いた。



〚英里奈?おかえり、お土産は?〛


『............』


〚まさか面倒事がお土産....とか言わないよね?〛


『正解』


〚........なにか...あったの...?きっとその......良くないこと...がさ?〛



過半数面倒だなと思いながらも聞いてみると、英里奈はぽつりぽつりと話し始めた。



『んー....まぁなんて言うか、今までにない様な敵?に遭遇したんだよね。

しかも、相手は女で2人いた。真尋と瑠衣と名乗っていた。


それで、私のことを知ってるとか言い始めて、何を言い出すかと思えば急に私に興味がある........

コイツ正気かと思って、したら真尋ってやつは急に───』


〚ちょちょもういいよ、つまり英里奈は...女に迫られたと?〛


『半分正解、半分間違い』


〚じゃあ一旦なんなの?〛



そう問いかけると、英里奈は足を組み直してこう話し出した。



『.....今よりもマシな生活だったと思う。

当時で考えたら、もうホントに最悪だった。


食べたい飯も食べれない。行きたいとこに行けない。したい事も何も出来ない....そんな暮らし。

でもその暮らしでも幸せはあった.....父の事が大好きだった.......


。私の為に苦労して苦労して....

一生懸命働いてお金を稼いでくれてた。

何も出来ない私に、いつも優しい言葉をかけてくれて...時には教訓として様々な言葉も教えてもらってた。


学校にも通わせてもらっていて、私が友達と遊ぶ時にはいつも1000円をくれた。

今考えたら少ないのかも知れないけれど、当時の私はそんな優しい父が大好きだった。


でも父には困ったことがあったの。

それは父の仕事が、裏社会の人間が絡む仕事だった事。


中学一年生だった当時の私は、父を亡くす事が一番の恐怖であり悲しみだったから父にその仕事を辞めるように何度も説得してた。

でも父は辞めずに、ずっと"英里奈の為"と言って働き続けた。


不安に包まれた毎日を過ごしてきたある日、私の人生が大いに崩れ変わる出来事が起きた。


学校からいつも通り帰って家に入った時、いつも玄関で迎えてくれる父の姿が無かったの。

珍しいなって思った時、玄関に知らない靴が何個かあるのに気が付いた。


父の知り合いが家にいるのかなって思ったリしながら、靴を脱いで家に上がろうとした時に.....

リビングの方から怒鳴り声が聞こえてきた。


何事!?って思いリビングに走ると、そこには男数人が私の父をリンチしてたの。

殴る蹴る、更にはナイフで身体を切りつける。

私は何が起きてるのか分からず困惑してその場に立ち尽くしていた。


話も長いし端折るけどそんな感じ。

初めてだねこんなに過去を人に話したの.....

こんな話聞かしても仕方ないのにね.......』


〚......え、どゆこと?〛



勇気をだして聞いたはいいものの、結局不味すぎる空気を吸えない程に不味くしてしまっただけだった。

呼吸がもはや苦しいまでに気まずい空気が辺りを埋め尽くす。


そこで英里奈がポロッと言った。



『......どこ行っても安らげない現状に、ショックを受けただけだよ。仕方ないことなのにね。』


〚......その女二人に、何かされたの?〛


『されたよ?真尋の能力の詳細は分かんないけど、私の身体の自由を奪った。

妹は分からないけど、そんな事があった。』


〚.......やっぱ私達って殺したい相手をどこまでも追いかけて殺してるって感じじゃん?

だからもしかしたら....東京に来てるかもしれないね.....居場所なんて敵だらけの東京からの情報提供ですぐバレるし───〛


何を恐れている。儂の組織に敵を恐れる腰抜けは居ないはずだが?」



そう言って話に入ってきたのはボス。

確かに.....今まで数々の敵を迎え撃ってきた....今更怖がったりするのもあほらしい.....ボスの言う通りだ。


ボスの一言のおかげで一気に冷静になった。



〚そうだよ、ボスの言う通りだ。

それに英里奈には私達がついてる。独りじゃない。

人生なんて上手くは行かない。それがまた良いと思うんだ......七転ななころ八起やおきだよ、英里奈。〛


『鳴霾....ボス....ありがとう。』


「.....ところで英里奈が会ったという女2人の事だが.....俺も良く知ってる人物だ。

自身の親を殺して、その快楽から幼くして快楽殺人鬼姉妹へと変貌した危険人物。


俺達組織や他組織からも恐れられている。

あの二人はなんでもありでルールなんて無いからな。」


『.......私に出来ることがあるのなら、やり遂げます。』


「それは1つしかないだろう.........

生きて帰り、女の死体を横にビールを飲む。」



私は気を取り戻し、今度は鳴霾と共に奈良へ向かう為に組織を出て駅へと向かった。



《道中|車内》


羽田空港へ向かう為街中を車で爆走する。

3.40分くらいすれば空港に着くだろう。



『空港に着いたらすぐにチケットを取るよ。

女二人とは別に敵なんてうじゃうじゃいるだろうから、あんまモタモタ出来ないよ。』


〚んー......バックミラーに移る車がさっきから同じような気がするなぁ......〛


『.......っお友達が気になって着いてきちゃったみたい───』



後ろについて走る車が、敵の車だとすぐ気がついた。黒のセダン。

私の組織の車は絶対にマークエックスなので、すぐに見分けがつく。



『鳴霾、シートベルトしてる?』


〚え、してるけど...?〛


『顔ぶつけないようにね、気を付けな───』



そう言った瞬間、私は思いっきりアクセルを踏み速度を上げる。

すると後ろの車も私に合わせて速度を上げた、その瞬間私は即座にブレーキを踏む。

その瞬間───



ガシャァァアアン!!!

と後ろの車が私の車のケツに激突。

激しく車が揺れ、事故を検知するシステムが作動しブーブーと音が鳴る。



『っはぁ...!!』


〚っ!!え、英里奈何考えて───〛


『降りて降りて降りて!!早く降りて!!』



即座に降りて鳴霾も一緒に車を降りる。

そして銃を構えて後ろの車に近付く。


フロントガラスから中をスマホのライトで照らし中を見ると、ドライバーと助手席のヤツらは衝撃のあまり気絶していた。


しかし影で見えなかったが後部座席にも人がおり、そいつが私ら目掛けて銃を発砲。

しかし弾はハズレ私はすぐに後部座席のヤツに銃を撃つ。


そこで銃撃戦が始まり、途中でそいつが後部座席から外へ走り出したのを背後から撃ち殺す。

道で倒れ死んだのを確認した後、運転手と助手席の敵も撃ち殺し、一息つく暇もなく車に急いで戻りその場を走り去る。



〚英里奈、ぶっ飛びすぎじゃない???〛


『そう?敵が死ぬならどんな手も尽くすってだけだよ。この世界の事をまだよく知らないみたいだね鳴霾は笑』



そのまま環七かんななから羽田空港へ直行。

空港のその辺に車を乗り捨て、ターミナル内へ走って入る。


奈良へ行く飛行機のチケットを買って、戦いの日を待ちわびる。

楽しくなるか、そうでないか、賭けの日。

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