第4話:百鬼姉妹①

《2029年7月2日|東京都新宿区》


裏社会で生きてきた中で、あまりにも東京から出た事がない私は、今猛烈に他県へ行きたい欲求が高まっていた。


仕事や日々の喧騒から離れ、1秒でもゆっくり出来る瞬間を味わいたい。

そう思った私は、事務所で鳴霾に問いかけた。




『───そう旅行行きたいんだ。

鳴霾何処かいい所ない?』


〚え〜.....大丈夫なの?一人で旅行とか。

襲われたりしたらどーすんの?〛


『その心配は要らない。私の身は守れるから。

それよりいいとこないかなー......』


〚っ........奈良とかは?なんだかんだ旅行にもってこいの場所だし....あとは京都とか沖縄.......〛


『どれも学生の修学旅行かよ!......でも奈良、ありっちゃありだよね〜......行こっかなぁ〜.....』


〚行くなら気をつけてね。こっちは任しといて。

あ、お土産は絶対だよ?〛


『英里奈様に任せなさい!飛びっきりのお土産を買ってきてあげよう!』



そう意気込んで準備を済ませ、すぐに東京駅から奈良へ向かった。


──────────


《奈良県海原市うなはらし妙宮寺町みょうぐうじちょう


2時間半程の新幹線の旅の末、無事奈良県海原市の駅に着いた。


駅を出て直ぐに向かったのはホテル。

やっぱ荷物を置いて身軽な状態での旅行が一番でしょ!

ホテルにチェックインしてすぐに早速観光を始めた。



『これが奈良かぁ〜いつもと違う風景見るとやっぱスッキリするなぁ〜...うわ、鹿だ!』



ってな感じで奈良の旅を満喫してるんだけど、完全に油断し切った私の身には...これから良くない事が起きる。

それはその日の夜の事.......


一日を満喫しきって疲れた私は、ホテルのベッドでウトウトしていた。



『はぁ〜.....つーかれたぁ〜.....眠くなってきたし〜...風呂は明日の朝でいっかぁ〜───』



その時、部屋のドアがノックされる。

コンコンと二回ノックされて、ベッドから立ち上がりドアの方に行く。

そしてドアを開ける───



『フロントもう来たの?早いね........誰?』



ドアの前に立っていたのは、1人の....女性...?

その女性は私を見て目をうるうるさせて言った。



〖あ、あのっ...!ち、ちょっとだけ...部屋、入れて頂けませんか...?1人がそのっ...怖くて......〗


『.......は...?そんなこと言われたって......

私今から寝るんだから無理だよ......早く部屋戻んな───』


〖"いいでしょ?ねぇ、いいよね?"〗


『───うん.....いいよ、入って。』



あれ、良いわけないのに.....意識と違って言葉が逆の事を.......あれ...?

これおかしい...絶対おかしい.......


─────────


《同時刻:東京都新宿区》



〚.......っあれ、あの銃誰のだろ......英里奈の...?......どーしよ〛


─────────


意識はハッキリしてる.....でも身体が........!

それに部屋に入れてしまったこの女2人.......能力者か...?



『ちょっと...!私に何をしたの...!?』


真尋〘初めまして私は真尋まひろ。普段自由気ままに過ごして、たま〜に人を殺して遊んでます!〙


瑠衣[その妹の瑠衣るいって言いまーす!以下どー文でーす!]



そう言って自身の名を名乗る女2人。

可愛らしい見た目とは裏腹に、結構えげつない紹介の仕方。


私はその2人に聞いた。



『......私の身体を動かせなくして....一体どうする訳?殺すの?』


〘あーうん、殺すよ?でもねぇ、お姉さんになんだか興味が湧いてきたんだぁ。

だって普通ならこの状況に焦って、恐れて、命乞いをするはずなのに.....随分と肝の据わった人なんだね。どうしてなのかな?〙


『.......さぁね。アンタら2人がガキっぽくて怖くないからかもね。』


[えーこの人私達のことガキって言った〜?

ちょー失礼じゃな〜い?笑]


〘フフフッ笑 まぁそれはそうとさ、お姉さんの事もっと知りたいなぁ。口調も言い回しも全部に興味がますます湧いてくる。

お姉さん彼氏とか居ないの?〙



この女なんなんだ?

私を殺すつもりで今居るのに、私について色々聞きまくってるのは.....何か大事な情報でも聞き出そうとでも...?


私に興味が湧いてきたつったって、それがなんになる...?

コイツら.....何者なんだ?



〘ねー、ねーったらぁ〜彼氏は居ないのって〜きいてんじゃ〜ん!

教えてよ───〙


『居たら私の傍に男がいるでしょうが。そんな事も聞かなきゃ分からないの?

殺す事ばっか考えて知能が低いのバレバレだよ?

殺すならさっさと殺してみなよ』



そう言い放つと、女の表情が変わった。



〘っ....つまんなっ.....んまぁいいや。

お姉さんの事は聞いてる。日本一の組織に属してる能力者だって。


裏じゃ皆お姉さんの事知ってるんだよ?

お姉さんは知らないかもだけど、結構有名だよ?


私男よりも女の人が好きでさ〜、尚且つ性格的にも強い女の人に惹かれるもんでさ〜?

かっこよくない?強い女の人って、貴女の事でもあるんだけどね。


殺すつもりでも気になる人をスパッと殺すのはねぇ.....心が苦しいよ.......

だからぁ....私と、人生最初で最後のさぁ......


女同士で.....ヤらない?〙



おっとこれは衝撃のカミングアウト。

んでもってそう言った相手が初対面の女。

東京の飲み屋で捕まえた女と同じくらい軽々しい誘い。


レズビアン........変なやつに絡まれたなぁ.......



『レズなのは構わないけど、貴女とヤれるほど軽い女じゃないよ。

悪いけど私とヤりたいなら、少し私に時間をちょうだい?まだその時じゃないから........』


〘.....どういう意味...?〙


『ん?それは今に分かる───』



その時、部屋の外から声が聞こえてくる。

それは私が呼んでいたフロント。

女二人が来るほんの数分前に呼んでたんだ。


それにそのフロントには、私がもし寝てて出なかったら鍵を開けて私を起こしてと伝えてた。

だから時期にドアの鍵が開けられる。


この状況を見たら、きっとフロントは警察に通報するはず。たまには警察を利用するのもありだね。



フロント〈英里奈様、ご注文の品をお持ち致しました。.......英里奈様、いらっしゃいますか?〉


〘っ...!?声を出したら殺すから.....黙っててよね。いいね?〙


『フロントにワインを頼んだ。夜にワインを飲むのが好きでね......タイミング悪かったかな?

さぁ....私が黙ってやり過ごせるかな...?』



その瞬間、ドアの鍵が開けられドアが開く。

そしてさらに、その事に驚いた女2人が慌てて窓から逃げ出す。



〘え"っ!なんで鍵を開けるの!?〙


[お姉ちゃん逃げなきゃ!!窓から外に!!

急いで!!]



幸か不幸か私の部屋は1階の部屋で、窓を出れば普通に外に出れる。

窓を開けて外へ飛び逃げる2人。


すると身体が動かせるようになり、身体の自由が戻った。



〈英里奈様....お申し付け通り、部屋に入らせて頂きましす───って英里奈様...?起きていらしたんですか?何故お出にならなかったんです?〉


『........出ないと』


〈英里奈様...?〉



私はフロントの声を無視して、荷物を黙々とまとめてホテルを飛び出した。

あの時冷静を装うってはいたが、実際のところかなり動揺していた。


何故か......それは縁もゆかりも無いここ奈良県にも、私の周りを取り巻く問題が邪魔してしまうことだった。


旅行は中止して私はすぐに東京へ戻る。

しかし深夜で新幹線はおろか飛行機すら飛んでいないので、夜の間場所を転々としながら朝の8時に東京へ戻る新幹線に乗って帰った。

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