第4話 星の力
「怪我が治ったら、おいおい剣もやるとして。キミの力について話をしよう」
「この鍵の力のこと?」
「そう。なにせワタシも、初めて見るからね。気になることがたくさんある」
あらゆる世界を見渡せるマーリンからみても、俺の力は特殊らしい。
「まず不思議なのが、動力。キミに魔法の才はなさそう、と言っただろう?あれは、キミの身体にある魔力が少ないからだ。これは、そう珍しいことではない」
数多ある世界の中で、魔法が使える人々というのは、大体全体の半分程なのだという。魔法の全くない世界も、当然存在する。
「ものは試しだ、ここに適当な箱を用意した。ちょっと鍵をかけてみてくれ」
マーリンは小さな箱を手渡した。両手にすっぽり収まる程度の、蓋付きの紙箱だ。俺はいつものように力を使う。しばらくすると、ガチャン!と南京錠を閉じる音がした。成功だ。
「ほう、ふむふむ。なるほど。箱をもらっていいかい?」
「ああ、どうぞ」
マーリンは箱を受け取ると、いろんな角度から観察し、蓋がとれないことを確認する。
「これは驚いた。キミ、星の力を使えるのか」
「星の力?」
「星の力というのは、文字通りこの星そのものが持つエネルギーのことだよ。通常、魔法というのは使用者が持つ魔力によって発動する。こんな感じでね」
マーリンは机の上にあるコップを指差す。すると、コップの中に水が溜まっていく。これはマーリンの魔力を使って、魔法で空気を水に変換した状態なのだという。
「だが、魔力には限界がある。ずっと走り続けられないようなものさ。魔力は体力と比例するものではないから、身体を鍛えたからといってそう簡単に増やせるものでもない」
人の魔力量がどう決まるかは、世界の理によるという。天使と血を分けた人間だけが魔力を持つという
「けれど、星の力は別だ。この星が持つエネルギーは、人が持つ魔力とは比べものにならないくらい大きいからね。これが使えるのであれば、実質無限のエネルギーを得たも同然だ」
魔力というのは、体力のように使うと減り、休むと戻るものだ。魔法を使い続けると当然いつか燃料切れを起こすし、何よりとても疲れる。一方で星の力は、この星の持つエネルギーなので、使う当人はいっさい減るものがない。
「言われてみれば、この力を使っててしんどくなったことってないかも」
「そうだろうとも。星の力は、魔法のような様々な形に変容するものとは、相性が悪い。融通が効かないからね、加工しづらいんだ。一方で、キミの力のように方向性が決まりきったものには強い。キミの力を考えると、相当のエネルギーを使っていると思っていたが。星の力であれば納得だ。これなら世界を飛び越えても、影響はないだろう」
「どこにいっても使えるってこと?」
「そういうことだね。世界の理が変わると、魔法が使えなくなるというのは、よくあることだ。キミは今後、様々な世界を旅することになる。その時に、キミの力はちゃんと使えるよ」
俺の力って、そんなに特殊なものだったんだ。何気なく使ってたけど、全然知らなかった。
「ああ、でも。キミはまだ、力の使い方に無駄が多い。星の力の大きさに頼った発動の仕方をしている。大きな石を、持ち前の怪力で投げているようなものだ。これだと発動にラグが出やすいし、何より遅い。キミには、投石器となるものが必要だ」
「たとえば?」
「そうだね、ここは一つ呪文を作ってしまう、というのはどうだろう。魔法の原理を応用するんだ。魔法というのは、工程を呪文で圧縮して発動している。その方が効率的だからね」
「でも、さっきマーリンは呪文なしで水を出したじゃないか」
「長年やってるからね。呪文の圧縮に頼らなくても、ある程度は融通が効くんだ。でも、それはいきなり初心者がやるものではない」
呪文は数学の公式のように、魔法の工程をある程度圧縮し、使いやすくしたものなのだという。初心者でも呪文を覚えさえすれば、使いたい効果を得られるように開発されている。
「キミの力にも、唱えればすぐに発動できる呪文があると便利だろう。今より早く発動できるようになると思うよ」
カミサマから逃げた時のことを思い出す。あの時は鍵の開錠が間に合ったが、今後間に合わない場面もあるかもしれない。呪文、あると良いのかも
「呪文は、ワタシも一緒に考えよう。工程をどう圧縮するか、素人のキミだけだと難しいだろうからね」
「分かった。ありがとう、マーリン」
「なに、久々の難問に心が躍っているのでね。協力するとも。そのためには、キミにいくつか試してほしいこともある。怪我が治る頃までに、用意しておくよ。そろそろ、身体が限界じゃないかい?」
久々に起きた身体は、まだ休息を欲している。傷もまだ痛い。
「うん、ちょっと眠い」
「キミには休息が必要だ。続きはまた明日にしよう。食器は下げておくよ、おやすみ」
「おやすみなさい。また明日」
マーリンが出ていき、部屋の明かりが徐々に暗くなっていく。ベッドに沈んだ身体は、すぐに眠りに落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます