12日目(訓練)
「もらった!」
「残念、あげないわ」
「嘘!」
素早く振るわれた二振りの剣をハンマーの柄で受け止めるロベルト。そのまま、片手で器用に柄を回転させてソルの剣を弾くと同時に、ソルの頭上目掛けて頭の部分(叩く場所)を振り落としていく。
「ん…」
「死角からくるってわかってれば回避は簡単なのよ」
その攻撃に転じる一瞬をついてソルが迫るが、結果はご覧の通り。実に呆気なく、受け流されて…
「…化け物?…ぐほ」
「ルナちゃん?お口には注意なさい。お痛がすぎると手が出るわよ?」
ルナ…口災いのもとだぞ。罰として、質量と遠心力がルナお出迎え。面白いほどに吹き飛んだルナはは敗北判定となった。そして、ソルも振り落とされていたハンマーが眼前で止められ、敗北を受け入れるのだった。。
「……いや…盾じゃん…でてきたの」
早朝から響く戦闘音。いや、今日からまた異界探しするんじゃなかったのかって?そうだったんだが、今朝のロベルトの発言で予定は大きく変わっていた。
「さて、改めて正式にこの異界の住人になったからよろしくね♪」
ロベルトは昨夜のことを朝食の際に知らせた。ここまではよかった。
「それでフィリアちゃん?早速で悪いんだけど、私からお願いを聞いてくれるかしら。」
「お願いですか?」
「ええ、今日からしばらく異界へ行くのはやめて私と戦闘訓練をしましょうか。さすがに見てられないわ。」
そして現在に至るわけだ。
「負けたー!」
「ルナ大丈夫ですか?」
「うん…次は負けない。」
フィリアは吹き飛ばされたルナのもとに駆け寄ると【巫女術】を発動して自身HPをルナへと分ける。そんな二人にロベルトが近づいてくる。
「ソルちゃんは攻撃が雑すぎるは。【高速戦闘】を生かそうとしてるのはわかるけど、それで無駄な動きが多くなってはだめ。早さにも色々あること。それを理解しましょうね。」
そうアドバイスして次はルナへと振り向く。
「ルナちゃんは攻撃の直前に思考するのはダメよ。観察能力が高いのはあなたの強みだけど、大胆さも時には重要なの。それと、ルナちゃんは器用だから何か一つを極めるよりできることを増やす方がいいと思わ。わかったかしら?」
「はーい!」
「ん……」
「よろしい!では、今のことを意識して戦闘再開よ~」
そうしてしばらく戦闘訓練は続いていく。
ソルの動きに違いがでてきたのはそれからしばらくしてのことだった。既に、何度も挑んだ結果、ソルの肉体は限界。それでも、強くなりたい一心で無理やり動している。
(そろそろ限界かしら?)
当然相手をしているロベルトもそのこと気が付いている。しかし、それでソルが終わると思っているもまたロベルトだけであった。
次で終了させようと判断するロベリアが盾を構えてソルの一撃を受け止めようとした、まさにその瞬間、ロベルトの視界からソルが消える。
流石にこれにはロベルトも驚きを隠せない。そんなロベルトを盾側の側面から、もはやこれが訓練であることを忘れたソルが容赦なく剣を振るう。
「早いわね」
ロベルトは1歩後退して時間を稼ぎながら、盾の位置を調整してどうにかソルの一撃を受け流した。しかし、その受け流しも完璧ではなくわずかに左の腕にしびれが来る。
「まだ……負けない…もっと…」
負けず嫌いここに極まれり。既に疲労は限界で剣は垂れ下がり、それでも1歩踏み出すソル。しかし、次の瞬間には残像を残す勢いで一気に加速する。そして一瞬の内にトップスピードに至った剣はそれ相応の破壊力を有してロベルトへと振るわれていく。
(この子どうなってるのかしら!)
どうなってるか?そんなことソルはわからない。ただ、どうすればいいかは本能が教えてくれる。それがソルが天才たる証拠であった。
(でもね…私もプライドがあるのよ!)
「ソルちゃんすごいわ!だ・か・ら♪少しだけ少しだけギアを上げるわよ【身体強化】 」
アビリティ【身体強化】。その名の通り肉体を強化するそのアビリティ。このアビリティ発動中はMPを継続的に消費することで身体能力を上昇させる。仕組みは魔力を体内で循環させることによる、ステータスの活性化。そして、これは今ソルが無意識で行っていることと同一。
ロベルトの速度が上がる。先程まで翻弄されていたことが嘘のように素早く動く盾は、それだけで攻防一体。いとも容易くソルを弾き返す。
「そして、これがあなたが開いた扉の先よ。」
アビリティとそれをマニュアルで実施することの違い。それはMP消費量の差である。アビリティは言うなら最適化された状態であり、つまりは安定しているのだ。代わりにその効果量は一律となっている。ちなみにマニュアルの場合はその逆。無駄が多いが限界がないので、消費した分だけ力を得ることができる。
そして、今ロベルトが使用したもの。それは、アビリティーとマニュアルの併用であった。
アビリティーで活性化した肉体、その一部の魔力を加速させて足りていなかった速度と、動体視力を補う。同時にハンマーの柄をソルに向け、槍のように扱うことでより速度を確保する。対するソルもさらに全身の魔力を高速で回して、加速。
そして、それらが交わらんとしたところで、ロベルトは慌ててハンマーと盾を捨てた。
(あれ?足が…それに、視界が霞む…)
同時にソルの足からも力が抜け、視界が霞む。もはや彼女ではコントロールできなくなった体。それををロベルトが優しく受け止める。
「魔力切れたね。こんなになるまでよく頑張ったわ。」
こうして、ソルの本日の訓練は終了した。
一方のルナはと言うと
「そうです。魔法を扱う戦闘では常に発動直前の魔法を準備しておくのです。ですが…」
「うん、仕方ないこととは言え、集中しすぎだね。」
「……」
護と乱取りをしながら、フィリアによる魔法の指導を受けていた。もちろんこれはルナが望んでのこと。そして、その願いに二人が全力で答えた結果である。なお、神が(以下略)
なお、魔法と武器の利用は結構難易度が高い。そのため、大概の戦士は身体強化などにMPを使用することを選択するのだ。え?ソルがエンチャントしながら普通に戦っているって?だからフィリアは初めフィリアは頭を抱えたのだ。つまり彼女をベースにしてはいけない。
そうしてしばらくの訓練を続けた結果。
「どうしてこうなるんですか?」
「ま、まあルナもだいぶ感覚つかめたし結果OKだって!!」
「ん…」
結果だけ言えばルナは目前の使い手を参考にかなり感覚を掴んでいた。うん?目前の人物は誰かって?当然戦闘相手である、護である。
いや、何でだよと突っ込みたい気持ちもわかる。しかし、できちまったもんは仕方ないじゃん!と犯人は供述している。
ちなみに種を明かすと、これは護の考え方が既存の魔法体型と違っていたこと大きかったりする。本来、魔法は属性決定→外部放出→形状決定の4つプロセスを行っている。そして高速で魔法を発動する場合は外部放出のところで意識的魔法キープするので、発動までは並行的な思考が必要となるだ。しかし、護の場合は属性決定→外部放出で一つの魔法として安定化させることでこれを解消していた。
「いや、普通は発動した魔法には干渉できません!」
「そうは言われてもできるんだから仕方ないじゃん!」
「ん…!」
当然これは誰でもできるわけではない。ただ、結局のところMPとは理想を現実化させるためのもの。そして、護は魔法をある種のプログラム処理と認識していたため、ビルド前に保存データを保存する感じでこれを行っていた。
なお、デメリットとしては既に体外に放出されているため、先に準備した魔力はあとから体内に戻せないこと。事前準備が必要なこと。
ただ、結果としてルナはこの方法によって魔法の高速展開を身に付けるのだった。
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今回でてきな魔法運用は決して既存の魔法運用方法より優れている訳ではありません。極端な話をすれば準備無しに戦闘中に高速で魔法を放つのが最強ですからね(笑)
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