9日目午前(ゴブリンダンジョン攻略戦③)

現在の敵勢力

ゴブリンLv1 10体

ゴブリン(剣)Lv2 2体

ゴブリン(弓)Lv2 2体

ゴブリン(盾)Lv2 2体

ゴブリンリーダ Lv3 1体

ゴブリンリーダ Lv4 2体 (Aが斧 Bが槍)

ボスゴブリン Lv7 1体


放たれた水流とボスゴブリンが纏う風が衝突し、周囲に水しぶきを散らす。圧倒的至近距離で放たれたフィリアの魔法は、僅かながらボスゴブリンを押し返していた。そんなボスゴブリンのピンチに斧を持ったゴブリンリーダが駆けつけるが、護がためらいなく後ろに下がったことで、衝突することはなかった。


「マモルにー!フィリアねー!」


「ソル無事でしたか!あぁ…頬に傷が!」


「これぐらい大丈夫だよー!」


「っと!そこまでにしてフィリアはアイル達の元に。ネオン、ソルまだ行けるか?」


「もちろん!」


「ワン!」


弓での攻撃が再開される。先ほどまで荒ぶるような風は、追い風となって放たれた矢を加速する。さらにノーマルのゴブリンリーダを先頭に添えて、盾と剣を持ったゴブリンのコンビが迫ってきている。


(まずは指揮官と壁を潰す)


それに合わせて踏み込む護。狙いはゴブリンリーダーだが、そこに盾を持ったゴブリンが割り込んでくる。当然、狙われたゴブリンリーダーも棍棒を振り上げ迎撃準備をしており危険な状態。しかし、護には|【テイマー】スキルで繋がったネオン相棒がいる。


「ワオーン!」


振り下ろそうとした瞬間、棍棒の先に光の壁が作られその動きを止まる。ゴブリンは慌てて、盾による受け流しへと体制を変えるが、それは護は許さない。


ゴン!


(さすがに盾を思いっきり殴る痛いな!でも)


護が受けた衝撃が盾を持つゴブリンにも伝わる。その衝撃はゴブリンをわずかに硬直させると、次の瞬間にはソルによってその首が舞った。しかし、剣を持つのはソルだけではない。カバーに動いていたゴブリンの剣もまた護へと迫ってきている。だが護はそれを華麗に無視。隙だらけのゴブリンリーダへと接敵する。


好機。そう判断した弓を持ったゴブリン2体が護に向かって矢を放つ。護の拳、ゴブリンの振るった剣、そしてネオンの牙が剣を振るったゴブリンに突き立ったのはほぼ同時。吹き飛ぶゴブリンリーダ。服をわずかに切り付けられる護。そして左腕を失った剣の持ち主。


ピュー


「ロア魔力回すよ。狙いは!」


「は~い!行きますよ!」


遅れて護へと届いた矢に対応するのはアイルとロアだ。大地を隆起させてその一撃を受け止めると同時に、弱ったゴブリンを集団から分断する。そこで安全にソルは剣を振い、弱っていたゴブリンに止めを刺していく。


「もう!マモル様!無理しないって約束したじゃないですか!」


そういっている間にも護へ発動していた【巫女術】のバリアがゴブリンの剣を受け止めた。当然、受け流せなかったわけではなく、少しでもゴブリン減らすためにわざとである。


「アイル~これ以上の浸食は無理そうです~」


その横ではロアが自身の領域を広げ周囲の魔力を回収しようとする。しかし、ボスゴブリンの纏った中位精霊の風リュカの力から支配権を奪うのは困難を極めていた。


「ロア!あの風の止め方わかる!?」


「多分ですが~あのゴブリンが付けている鎧。そこに流れこんでくるリュカ姉様の魔力を止めれば今みたいに無制限に使用することはできなくなると思いますよ~」


「なら今は耐久するしかないんだね。」


「そうですね!でも相手は待ってくれないみたいですが…」


劣勢を覆すため、再度戦場に旋風が吹き荒れ、ゴブリンともども全てを吹き飛ばす。さらにボスゴブリンが大剣を振り回せば、その太刀筋は風に乗ってソルたちへと迫ってきた。


「させない!ロア!」


「はいな~!」


返事は緩いが、その顔は本気なロア。そんなロアにアイルも惜しみなく魔力を注ぎこんで、仲間の前に壁を作って守る。


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アイル

LV 3

HP   33/33

MP   27/47 → 20/47 → 13/47

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「くっ!」


泥の壁が削れたびにロアがアイルの魔力を消費して修正していく。そうやって何とか時間を稼いでいくが、代わりにアイルの魔力は消費されていく。


「アイル!これ以上はダメです~!アイルが倒れちゃいます~!」


MPは最低でも1は残すのが常識。もし、0になってしまうと強い頭痛と怠惰感に襲われ、立っていることもつらくなる。しかしそれでも構わずアイルはMPを無理やりロアへと回す。そう仲間を守るために。


「ロア!俺の大切なものを守るために力を貸せ!」


アイルが吠える。そしてその献身は神へ届くのだった。



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アイル

LV 3

HP   33/33 → 50/50

MP   6/47 → 29/71 → 22/71

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【無垢な守り】が発動しアイルのステータスが強化される。さらには一時的に精霊術も強化され、より効率的にMPを操ることが可能となった。さらに、


「ナイスアイル!」


アイルの願いを叶えるために護も単身嵐の中へ。強化されたステータスにものを言わせて、斬撃を躱し、ボスゴブリンの腹部に一撃をお見舞いする。


「まだまだ!ロア!」


乗りに乗ったアイルは止まらない。腹部への一撃で下を向いたボスゴブリンの、その顔面に向かって大地が隆起させた。


「ゴギャッ!」


これが見事クリーンヒット。たまらず、声を上げて後ろに倒れるボスゴブリン。同時に戦場に吹き荒れた嵐も維持できなくなり、再び戦場が静かになるのだった。



一人潜入を果たしたルナは周囲を確認する。雑多に置かれた武具と食料。棚などの内装はなく、唯一の飾りは窓にかかっている古びたカーテンのみ。そんな寂れた部屋を窓と一つの扉だけが外と繋いでいる。


(周囲にゴブリンは…いない…よね?)


さっと周囲を確認してそう判断したルナは【暗殺術】スキルの力を借り、音を立てないように扉に近づくと、扉越しに周囲から物音を確認する。


(ん…音は遠い…)


そっと扉を開き周囲を確認すると、暗い廊下が左右に広がっていた。どちらも端からは光が漏れている。恐る恐る廊下を進めば、わずかに響く鉄のこすれる音とゴブリン達の声が聞こえてくる。念のため逆側も確認するが聞こえてくる音はどちらも同じようなもの。


(多分同じ部屋…)


緊張で高まる心音を押さえつけ、そっとその先を覗く。見えたのは豪華な椅子に座るボスゴブリンとそれを守るように鉄の鎧を着たゴブリンリーダ2体の姿。そこまで確認したルナは一度もといた場所に戻った。


潜伏すること少し。ドタバタと足音が響き、先ほどまでの生活音が離れていく。そして何かを引きずる音がすると、外の戦闘音が感じやすくなる。


(ん…ソルたちが…うまくやってくれた)


時が来たと行動を開始したルナは、先程の要領で周囲を確認する。


(椅子の傍に1体…それと…剣を持って巡回しているのが…1体)


行けると判断したルナはすぐさま行動を開始。2体の隙をついて向かい側へと移動する。


向かい側に渡ったルナが見たのは先ほどと同じような廊下。ただし、こちらはランプの光があるので中央の扉がはっきりと見えている。


ルナはそそくさと扉の前に移動。その取っ手にてを伸ばす。しかし、扉を開こうとした腕に抵抗がある。見れば南京錠がされている。一応、インベントリーに格納しようとするが、失敗。まあ、それができては鍵の意味がない。


(…どうしよう?)


鍵を開けるためにルナが取れる行動は3つ。1つは鍵を探す。まあ、通常ルートだ。2つ目はピーキング。これはスマートな方法だ。ただ、ルナはやり方を知らない。なら3つ目、鍵を壊すか…。しかし、ルナのスキルでは金属を切るのは難しい。とれる選択は…


(よし!…扉を壊そう…!)


選ばれたのは扉の破壊でした。確かに、金属を破壊するよりは木製の扉の方が破壊はしやすい。ただ、直ぐにそれを選択するのはどうなのか。


(何かいいもの…あ!)


今度は何を思いついたのか、扉を無視して廊下の先に出る。その位置はちょうど椅子の前に立っているゴブリンの死角。ルナは巡回するゴブリンに注意しながら椅子を裏側を通って盾を持ったゴブリンの背後に回る。そして抱き着くように手を首に回すと、そのまま握ったナイフ突き立てた。


不意打ちに【暗殺術】が、急所への攻撃で【精密戦闘】がそして【短剣術】がそれぞれルナの攻撃をブースト。結果ゴブリンは音もなく光に消える。そして、足元に残ったドロップ品である、魔石と盾、あとついでに棍棒も回収しておく。


(よし…!)


目的のものは回収完了。扉に向かうついでにサクッと巡回しているゴブリンも仕留めて、から扉の前に戻ると、先ほどの回収した盾を両手で構えて扉へ突撃する。もともと、そこまでの強度は無い扉は音を立てて壊れるが、先ほどの発動したベールが外部に音が漏れるのを防ぐ。


「な、なにごとですかー!?」


内部はルナが入ってきた部屋と良くにた作りである。一つだけ違うのは部屋の中央に置かれた、大きな装置とそこに入っている精霊の存在。まあ、疑うまでもなく彼女が森の中位精霊リュカである。


「…ロアに頼まれて助けにきた…よ。」


ルナは周囲を確認するが開閉する箇所は見つからない。装置を破壊することも考えるが、金属で作られたこれを破壊するのは難しそうだ。そうやって悩んでいることに気が付いたリュカがルナに話しかける。


「えっと…もしかして開け方がわかりませんか?」


「ん…わからない…ごめんなさい…」


(この子何しにきたんだろう?)


そんなことを思ったのが伝わったのか、ルナが凄まじく申し訳なさそうな顔をする。そして、このリュカ、ロアの面倒を自主的に見るぐらいは世話焼きなのだ。


「ああ、そんな顔しないでください。そうです!助けていただけるなら、そこの魔石を外していただけますか。そうすれば、この装置が止まると思います。」


「ん…!」


言葉に従ってルナは魔石を外す。結果、装置に流れていた魔力は停止し、どこかの戦場に大きな変化をもたらすのだった。

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