9日目午前(ゴブリンダンジョン攻略戦②)

現在のゴブリンの戦力

ゴブリン 10体

ゴブリンリーダ 1体


視界を包んでいた煙が晴れる。30体以上もいたゴブリンはその数を半分まで減らし、残ったゴブリンも多かれ少なかれ被害を被ってこうむっている。


「ネオンありがとう!」


「ワン!」


ネオンは流れ弾から逃れるために発動していた魔法を解除。自由になったソルは剣を抜いて構える。


「いっくよー!!」


無邪気な掛け声とともに飛び出したソルとそれに続いたネオンが、近くにいるゴブリンを順に仕留めていく。対するゴブリンも残っていたゴブリンリーダを中心に対抗しているが、時間と共に不利になっていくのだった。



時は少し戻り、バリスタが爆発した頃。


「ルナくれぐれも気を付けて。」


「うん…頑張る!…」


そう一言残してルナは泥を固めた階段を上り、壁の内側へと消える。それを確認したロアとアイルも次の行動へと移る。二人の現在地はソルたちが暴れる正面入り口の裏手側。作戦遂行にはこの場所から今度はゴブリン達に違和感を感じさせずに、正面玄関に向かう必要があった。


周囲にゴブリン達がいないことを確認し、移動。これを繰り返すこと数回。唐突に破裂音が周囲に響いた。一瞬、アイルは第三者の介入を疑うが、続いて響いた轟音と悲鳴から作戦の2段階目で発生したものだと察する。


「お~♪派手にやりますね~」


(あはは、何をしたらバリスタの矢が爆発するんだろう?)


奇天烈な角度で差し込まれた想定外にどこか冷静に?状況整理ツッコミを行う。いや間違いなく冷静ではないな…


「とりあえず、ここまでは予定通り?…うん予定通りだから僕たちも早く準備しようか。」


「は~い」


今回の作戦は大きく3段階に分かれる。1段階目がソルたちによる陽動。これはHPを持つものを攻撃してしまう魔物の特性とゴブリンの知能の低さを利用すれば割と簡単にできる。例えば今のソルのようにわざと視認されるかつ、ゴブリンより早く走れば後方で団子状態の出来上がりだ。


「いや、簡単ではないよね?」


「突然どうしたんですか~?」


そして、第2段階が先ほどのバリスタによる雑魚の一掃と第3段階への布石。この結果については今更語るまでもないだろう。


最後の第3段階がロアによる有利地形の作成と、残ったゴブリン達の動きを奪うこと。そしてこれを実行できるのはロアと契約するアイルにしかできない。まあ、同時並行でルナの単独任務があるのだが、これは後ほど。


焦る気持ちと、ばれないように訴える理性に挟まれながらアイルは先を急ぐ。結果、二人が到着したのと、正面の扉が開くは同時であった。そこから現れるはゴブリンリーダよりさらに大きい鎧を着たゴブリン。それが2体のゴブリンリーダと7体のゴブリンを従えて現れる。



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ボスゴブリン Lv7

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ゴブリン Lv2

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ゴブリンリーダ Lv4

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「ゴグギャ、ゴ!」


握った大剣を大地突き刺しながら、ボスゴブリンが周囲のゴブリンリーダとゴブリンに指示を出す。それに従い、各々が持ったごとに隊列を作り始める。


「ネオン!これは…ちょっとピンチ!?」


「グウルル」


現れたゴブリンはできの悪い棍棒ではなく、しっかりとした武器を持っている。配分は、盾持ちが2体、剣持ちが3体、弓持ちが2体。それが隊列を作って迫ってきている。そしてゴブリンリーダはそんなゴブリンを中段から指示する。当然武器も持っており、1体は盾と槍を構え、もう一体のゴブリンリーダは大きな斧を担ぐ。そして、その中央には輝く鎧と大剣を持ったボスゴブリンが陣取り万全の態勢である。とてもではないが、ゴブリンの残党を相手しながらこの集団を相手するにはソルとネオンだけでは足りない。


ピュー


口笛のような音を響かせる一本の矢。それは刺さった矢をインベントリーで回収できてしまう人間に対して、効率的にHPを削るために作成された矢。矢じりを貫通して作られた穴は強制的に出血を促す。そんな対人間用の矢がソルに向かって飛ぶ。しかし、その矢はソルに届く前に泥の壁が作られ受け止めた。


「ソル!大丈夫だった!?」


「ありがとうアイルにー!ロアもありがとうね!」


「ふふん♪ではアイル始めますね~」


「お願いね。」


砕けたバリスタの矢を核として周囲が沼地に変わっていく。それは一気に広がり、迫りくるゴブリンの足を捕える。


「お~思った以上に速いですね~」


「さすがみんなで考えた作戦だね!!」


なお、何度も言うがこの結果は怪我の功名である。そのことをなんとなく察しているアイルだけは「あはは…」と頬を掻くだけでノーコメントを貫いた。


戦場が有利になったと判断してソルとネオンが飛び出し、アイルとロアがゴブリンに向かって様々は硬度の泥が放つ。


誰もが優勢と思った。しかし、戦場の支配権は唐突にリュカによって奪われる。その風はゴブリンを包み、その他の全てを拒絶した。当然、周囲に張られた弾幕も、飛び出していたソルも関係なくだ。


「え!」


体制を崩したソルに先ほどまで足を取られて足掻いていたはずのゴブリンが襲い掛かる。よく見ればすべてのゴブリンは沼地に沈みことなくその場に立っているではないか。


体制を崩したソルへゴブリンの持つ剣が迫る。ソルも慌てて握っていた剣を合わせるが、勢いを殺しきるには遅く、小さな体が中へと浮く。そんなソルに目掛けてゴブリンリーダの槍が差し込まれる。


「ガウ!」


振るわれた槍の柄部分を狙って横から体当たりするネオン。いつも魔法じゃないのは、それでは間に合わないと元ガーディアンドックの直観が訴えたから。実際それは最適解で、直撃と思われた槍はソルの腕を小さく切りつけるに留まる。しかし、まだ後方に構えていたボスゴブリンの大剣が二人に迫っている。


「私のお友達を~これ以上奪わせません~!」


ロアの咄嗟の判断でソルとゴブリン達を分断するように大地が隆起する。しかし、そんなことは関係ないとボスゴブリンは大剣は壁を切り裂きながら進み続ける。


「ゴギャ?」


その大剣に迫る影が一つ。その影は回し蹴りで大剣の軌道を逸らすと、今度は抱えられていた女性から水魔法が放たれる。


「ひどい目に会いました!」


「まあ、間に合ったから許して」


「それはこれ!これはこれです!」


全身を水浸しになりながらもボスゴブリンと対峙する護とフィリアの姿がそこにはあった。


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