9日目朝(ゴブリンダンジョン攻略戦①)

いよいよ、今日はダンジョン攻略の日。この日のために準備をしてきたのだ、何が何でも成功させたいところ。そう意気込んで外に出ようとする護にリジアが声をかけてくる。


「あ、護!例の卵なんだけど…」


「あぁ、あれね…」


視線の先にはネオンを助けたときの神獣の卵が置かれている。この卵、孵化には親となる神の魔力を一定以上込める必要がある。この時込める魔力は生まれてくる神獣により変わるそうなのだが…日々余った魔力を込めているが、いまだ孵化する様子はなかった。


「その寝坊助ちゃんがね!昨日の夜、少し動いてたのよ。」


「ああー、やっとか。ならあと少しで生まれてくれるかな?」


「それは私にもわからないわよ。まあ、観察するのは楽しいからしっかり見守ってあげる。だから護は心置きなく頑張ってくるのよ。」


「ああ、俺も、俺の信者子供達も頑張るよ。」


そうして、護はゴブリンダンジョンに向かうのだった。




「ロア、今日はよろしくね。」


「はい~。今日の私は本気モードです~」


エリアに入って少ししたところで、どこか真面目雰囲気をまとったロアが合流する。彼女にとって大切な精霊がかかった一戦。その姿が、いつかの自分と重なる。


「ねえ、ロア?」


「何ですか~?」


「不安があったら言ってね?仮の契約でも今は相棒なんだから。」


その言葉を聞いてロアは少しキョトンと。そこから少し時間がたって何かに納得した様に、いつものゆるい顔を浮かべる。


「そうですか~これが不安なんですね~。はい~確かに私は今、不安を感じてます~」


「なら、僕が君を支えるよ。だからロアはロアがやりたいようにやって。」


「はい~。ね~アイル?」


「どうしたの?」


振り向いたアイルの額に小さな唇が触れる。


「だ~い好きです~アイル。」


フェアリーキス、それは精霊のおまじない。その意味はあなたに幸福を。


ダンジョン前。そこには小さな人影と四足の獣が並ぶ。


「ワン!ワン!」


「ネオン!準備完了なんだね!」


「ワン!」


「それじゃ、ルナにー!先に行ってくるね!」


「ん…ソルも…しっかりね。」


「任せて!だからルナにーもケガはダメだよ!」


そう言ってソルとネオンは正面からダンジョンへと入っていく。まず、目に入ってくるのが閉ざされた門。その門の周囲には無数のゴブリン。その視線が無遠慮にテリトリーへと入ってきた彼女たちへと向けられる。


「ゴギャー!?ゴギャー!ゴギャー!!」


余りにも堂々と侵入してきたソルたちに驚くのも一瞬。次の瞬間にはソルとネオンへとゴブリンの集団が迫る。対して軽く跳ねてストレッチをするソルの姿は余りにも場違いで、祖しいて楽しそうであった。


「あ、来た来た!ネオン!鬼ごっこ開始!走る先は…あっち!行くよ!」


「ワン!」


ゴブリンが追いかけてきたこと確認してソルは右手側に駆け出す。しかし、ここはゴブリンの巣窟。そんなことをしてもすぐに前からもゴブリンが現れ、挟み撃ちにされる。しかし、ここまでは想定通り。


「ネオン!いつもの行くよ」


「ワン!」


もう少しで接触するタイミングでソルとネオンが空中へと逃れる。しかし、前方の集団を超えるには飛距離が足りていない。


「ワオーン!」


ネオンの雄たけびが響くとソルの足元に光の壁が生成される。魔力消費を抑えるために発動したのは1秒。しかし、身軽な1人と1匹2人にとってはそれで充分。


「よし、成功!ネオンどんどん行くよ!」


無事に集団を超えたソルとネオンが再度走り出す。その後も幾度となくゴブリンの集団が現れるが2人は縦横無尽に飛び跳ね、躱し突き進む。そうして、円形のダンジョンを一周して戻ってくる頃にはゴブリンリーダを中心としたダンジョン内のすべてのゴブリンの集団が完成していた。


「ゴール!ネオン!」


「ワオォォォーン!!」


遠吠えと共にソルとネオンを守るように光のドームが包む。その5秒後、二人の視界は土煙が塞いだ。。




「おお、めっちゃ引き連れてる。」


ソルたちの頑張りを護はバリスタの前で見守ってた。ちなみに護の視力は【銃術】スキルの影響で上がっており、ここからでもはっきりと視認できている。


「それじゃこちらもそろそろ構えますか。」


「護様?本当にやるんですか?」


「やるに決まってるじゃん。今更引けないって…」


「いや、今からでも普通に打ち込んだ方が…」


「大丈夫だって。それに言ってなかったけど、これ普通にやったら途中で壊れるからね。初めから選択肢なんてないよ??」


「はあ!聞いてないんですが!」


「言ってないからねって今言ったでしょ?」


「言いましたけど!でも言わなかったじゃないですか!今聞きましたけど!?」


まあ、冷静に考えて分裂させるために極限まで強度を犠牲にしているのだ。普通にやってうまくいくはずがないだろう。そんなことは発案者の護が一番理解している。


(まあ、このままダイスを振るのも個人的には好きなんだけど…さすがにね…)


訂正。理解した上でやりたくなる変態だが、やらないだけの常識はある。なので、成功率を上げるためにフィリアの協力を(昨日の夜になって)取り付けていた。


「ほらほら♪神の命令だぞー♪」


「すっごい今更ですよね!頼んでもそんな態度やってくれなかったくせに!」


そういいながらも、フィリアは準備してきた魔法陣を取りだし、護からバリスタの矢を受け取る。


突然だが、魔法には属性ごとに概念が割り当てられている。例えば火ならエネルギー生成、土なら物質生成といった具合だ。そして水属性が持っている概念はである。そして現在のフィリアは【魔術強化:水】のレベルが6になったことでこの状態変換の概念が強化されるようになっていた。まあ、使い慣れていないので今は魔法陣によるサポートが必要ではあるが、それでも今のフィリアはこの泥でできたバリスタをすることができる。


フィリアの魔法が泥に含まれた水分を凍結させて、その強度を補っていく。


「後はこれを張り付けと…『権現・色紙宿ししきがみやどし』。はいできましたよ」


フィリアが取り出していた魔法陣に【巫女術】を発動すると、そのままバリスタに凍結貼り付けて護に手渡す。それを受け取った護は急いで矢をつがえた。


(ここまではまあ上々。でもこの一撃をミスすれば皆が作戦は一気に破綻する。何より…横の人物から何をされるか分かった物じゃない!)


護はバリスタの角度の調整し、目標を絞る。後はタイミングを合わせてトリガーを引くだけ。


(落ち着け。余計なことを考えるな。失敗したらは、失敗してから考えろ。今はとにかく集中……)


大きく吸って、脳内のくだらない情報と共に息を吐く。そうして、ただ一瞬のタイミングへと意識を集中させる。


(あと、少し……4…3……)


2…1…


「ワオォォォー…(いいよー!!!)」


後半のカウントは護は認識していない。ただ、その瞬間が来たとトリガーを引く。しかし、護の仕事はまだ終わってない。


矢がゴブリン達に迫る。着弾まであと5秒…4秒…3秒


「フィリア!」


「わかってます!【色紙解放しきがみかいほう】」


巫女術を利用して遠隔魔法陣を開放。その効果により空中で滑空するバリスタの矢から目視できるほどの水蒸気があふれ出し…


ボン!


「「あっ!」」


そして、内部の液体が勢いよく気化したことでバリスタは内部から破裂した。


「え、待って?フィリアなにしたの?」


「何って、マモル様に言われた通り凍らせただけですよ!間違いなく中までしっかり氷で埋めましたもん!」


「フィリア…もしかして内部まで凍らせたの?」


「その通りです!中がスカスカになっているって聞いていたのでしっかり氷で埋めました!」


「…中の氷含めて一気に気化したら体積膨張で爆発するんじゃない?」


「…え?」


まさかのフィリアの天然発動で想定外発生。ただ、そもそも凍結を途中で解除しても慣性の関係で自壊しない可能性が高いので、実はファインプレイだったりする。まあ、ガバにガバを重ねた怪我の功名いや、ガバの功名であることには変わりないが。


ドドドゴギャ!ドドドドドドギャー!ド


そうこうしている間にバリスタは進み、初めに想定していた以上の被害がゴブリン達に降り注ぐ。


「と、とりあえず想定通り…ということで」


「そ、そうですね。結果的にはうまくいきましたしね!でも、なんだかみんなを助けに行きたいので急いで向かいましょう!」


「そうだな。俺も同意見だから急ごうか!」


そう言って二入はその場から逃げるように移動を開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る