5日目午後(家族団欒)
「さて、まずは今回とってきた食材の味見をしてみようか。ちなみにアイルはプルボアの肉って食べたことある?」
「プルボアの肉はないですね。ただ、調理方法なら本で読んだことがあります!」
話しながらもアイルは鍋を取り出し、油を少量注ぐ。そしてコンロに火をつけると、鍋を傾け均等になるように鍋全体に広げていく。少しすると、油特有のなんとも表現しにくい香りが広がり始める。
「油も少なくなってきてるね。持ってあと4日かな。」
「山エリアなら素材になりそうなものはありそうなんですが…護さんどうでした?」
「残念ながら。でも、トウモロコシとか欲しいよね。」
日本で油と言えばなたね油やごま油などが有名だが、他にも米、トウモロコシ、あぶらな、ひまわりなど結構種類が存在している。ただし、一回の調理分の油を抽出するのにも、結構な量が必要となるので今できるかというのは考えてはいけない案件だ。
「よし、いい感じ。アイルお肉は準備いい?」
「大丈夫ですよ。」
隣で薄く切り分けた2切れのお肉。それを加熱した、フライパンに並べる。
ジュゥゥー…
鍋におかれた瞬間食欲を誘う音が響く。周囲に広がる芳ばしくそして豚特有の匂いワイルドな香り。
「ゴクリ…」
嗅覚と聴覚に訴えかける
「いい感じ。」
いい感じについた焦げ目に満足そうな護。薄切りゆえ、反面は軽く火を通す程度で十分。最後に軽く塩を振り小皿に移せば完成だ。
「良い感じかな。はいアイルの分」
「ありがとうございます。」
薄切りでもわかる噛みごたえ。筋肉質故なのか、味は淡白だが、噛むほどにしっかりと旨味が溢れてくる。ただ、豚特有の香りは少し強く、そこは好き嫌いが出そうだ。
「鑑定結果にワイルドな味とあったけど、確かに肉を食ってるって感じだね。」
「匂いをとってしまえば、味自体には癖がないのでどんな料理でも使えそうです。」
「それ以外なら、葉野菜なんかと塩コショウで炒めるのがよさそうかな。後はニンニクとかでガツンと行くのもいいと思う。あとは、やっぱり鍋とか。」
「やめてくださいよ。食べられないとわかっているの食べたくなるじゃないですか。」
そんなことを話しながら、アイルは薬草を取り出し、護はプルボアの肉を薄めに切り分けていく。
「薬草はどうするの?」
「薬草は臭みをとるのに使えるんです。護さんは?」
「こっちはキノコと炒めてみようかと。主食はどうする?」
「うーん…白米でいいと思います。」
「ならこっちで炊いておくよ。」
アイルとマモルは位置を交代。アイルはコンロの上に水で満たした鍋を置きその中に薬草と肉を入れて火にかけていく。その横では護が慣れた手付きで洗い→吸水と炊飯の準備を進め、一度横に移動。そのまま、肉を切り分けたまな板をひっくり返し、未使用の面でシャキシャキキノコを切り分けていく。
「まだ調理を始めるには早くないですか」
「まあ、インベントリに入れておけばいいからね。こういった面は神は便利だよ。」
一般のインベントリと比べて、神のインベントリは特別仕様だ。例えば、通常は容量に上限がるが、神のインベントリーにはこれがない。また、収納した物の時間が停止するため、暖かいものはそのままとなる。
「確かに便利ですね。ただ、それを料理に使う神は珍しいと思いますが。」
「意外といるんじゃない?まあ、使えるものは使っておけってね。」
切り終えたキノコをまとめておき、先ほど切り分けたプルボアの肉を並べ焼いていく。軽く火が通ったところでシャキシャキキノコを加え再度炒める。最後に塩と胡椒で味を整え、大皿に移すとインベントリー格納。
「よし、こっちは終わり。」
「こっちも灰汁取りは完了です。味付けは…まあ、いつも通りトマトかなー」
「バターも牛乳も、味噌も醤油もなんもないからね。他も作りたいけど…どうしても塩かトマトになるよな。」
「そうなんですよね…。でも、調理したものがゆっくり食べれるだけでも僕たちにとって、すごいことなんですよ?」
いわく、ここに来る前は調理なんてほとんどする時間がなかったそうだ。できても、その辺で収穫した食材を炒めたり、ゆでたりする程度。しかも、調理の匂いに魔物が反応するので、出来上がったものは急いで食べなければいけない。それでも、アイルはみんなに美味しく食べて貰おうと調理出きる際は頑張っていたらしい。
「だから、こうして毎日みんなでゆっくりご飯を食べられる環境をくれたマモル様には本当に感謝してるんですよ。」
「お、おう。」
あまりにもダイレクトな感謝の言葉に護は狼狽してしまう。アイルも言ってから恥ずかしくなったのか黙ってしまい、なんとも会話がしにくい空気がキッチンを支配する。その間も黙々と己の作業を進め、大方の調理が完了したタイミングでアイルがマモルへと思い出したように声をかけた。
「そうでした。会議のときに言ってたスキルについてなんですけど…」
「うん?あぁ、相談したいことがあるんだっけ?」
「そうなんです。【精霊術】を上げるのは確定してるんですが、それだけを上げるのもどうかと思いまして。何かおすすめあったりしませんか?」
「なるほど、ちなみにどういったことがしたいとかあるの?」
「接近戦は正直無理だと思います。なので中距離か遠距離攻撃の方法がいいなと。」
やりたいことではなく、やれないことを答えるのは方向性が決まっていない為だろう。護は後輩にもこういう子がいたなと思い出しながら、直接的な回答は控えることを決める。
「なるほどね…まずは確認なんだけど、アイルは戦闘がしたいの?」
「え…?そういえばどうなんでしょう?」
「じゃあ、質問を変えるね。どうしてアイルは戦闘系を取ろうと思ったのかな?」
「それは…多分ソルたちが戦っているとき力になれないことが多かったから?だと思います。」
「うんうん。それはアイルがソルみたい魔物を大量に倒してみたいってことかな?」
「それは…何か違うと思います…」
「うんうん。じゃあ、アイルが考える理想の自分ってのはどんなかな?」
「僕の理想…笑わないですか?」
「保証はしない。でも、どんな内容でも他言はしないし、しっかり相談には乗るから安心して。」
「保証はないんですね…」
「そらそうよ。相談を受けてるんだ少しは楽しませてもらわないと。」
「なんてひどい神様だ。」
「なにを今さら。俺に神らしさは求める方がおかしい。それで、アイルはどんな自分を想像したんだ?すごい魔法でみんなを守ってたりした?」
「残念ながらそんな英雄思考はなかったです。創造の中での僕はソルとルナの動きをサポートしながら敵全体の動きを把握して妨害する、そんな裏方でしたよ。」
「いいじゃん裏方。それに人が増えたら参謀は必須だしね。期待してるぞ!」
そういして、戦闘スキルやサポートスキルをいくつか提案していく。なお、護はTRPGやMMORPGと言ったキャラクターメイクができる遊びを好んでいたため、育成方針を考えるのは得意分野。全くなにが、生きてくるかはわからないものだ。
「…って感じかな。参考になった?」
「はい、大分方向性は纏まった思います。」
「それならよかった。まあ、時間もあるし他の人にも相談して最終決定したらいい。自分の知らない強さってのも周りは知っているもんさ。」
「そう…ですね。改めてみんなの意見も聞いてみようと思います。あ、そろそろ火を消さないと。」
炊きあがった白米は蒸らすためにそのまま放置。その間に出来上がっていたスープを温めなおし、護のインベントリーに入れていた料理をテーブルに並べていく。
「ワン!」
お腹を空かし子供たちがネオンを先頭に入ってくる。子供たちの目はいつもより豪華な料理に夢中。そんな兄妹と1匹をフィリアが窘めると思い出したようにこちらに向かってくる。
「お手伝いする!」
「ん…!」
「ワン!」
訂正。約一匹は追いかけてきただけらしい。そんなこんなで、全員分の配膳が完了する。
「それじゃ、俺はこれで。」
「何言ってるんですか?マモル様の分も準備完了してますよ。」
「え?」
いつものように神域に戻ろうとする護をアイルが止める。テーブルを見ればフィリアの上にソルが座っており、席が一か所開いていた。それに護の知らないところで準備したのか、すでに配膳も完了している。そのことに気が付いた護の思考が止まる。
「ふふふ、ほらマモル様早く食べましょう。」
ニコニコしながらフィリアが声をかける。なお、これを提案したのはフィリアだ。最近は護にビックリさせられることが多いのでサプライズ返しである。
「いやなんで?」
「なんでって、マモル様が言ったんですよ?「俺を神とは思わなくていい」って。だから人間としてご飯を食べてくださいね。」
「今回は結構頑張ったのぜひマモルさんにも食べて欲しいです。」
アイルにひかれて護は席に着く。そうして料理を前に固まる護。それを4人と1匹が見つめる。どう見ても護が食べないと食事は始まらないだろう。護はスープと共に大きめに切られたプルボアの肉が口に運ぶ。
「あ、おいしい」
さっぱりとしたトマトの酸味が広がる。臭みを抜いたプルボアの肉は味見の時とは全く別物のよう。それでいて噛むほど肉の旨味があふれてくる。
「おいしー!」
「ん…肉は…久しぶり…!」
護が食べ始めたことを確認して、待ってましたとソルとルナがテーブルの上の料理が消していく。その横では器用にフィリアが自身のスープを飲む。
「プルボアのお肉ってさっぱりしてるんですね。」
「こっちは逆に肉って感じですね。一緒に炒めたキノコがいい味してます。」
「ワン!」
「あ、ネオンの分はこれな。」
その後も護の異世界にきて初めての食事はわいわいと続いていくのだった。
余談
「それはそうと、どこかで椅子は欲しいです!」
「ワン!(ぼくのお皿も食べやすくして!)」
「それは神格が上がった時に改善されることを祈ってくれ…」
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