4日目午前(レベリングスタート②)

「お疲れさまでした。」


激闘を終えたソルとルナへフィリアが駆けつけ声をかける。


「フィリアねー見ててくれた!!」


「ちゃんと見てましたよ。」


ルナもソルの隣で胸を張り、仕留めた獲物を自慢する。その可愛らしい態度に思わずフィリアは二人を抱きしめ、愛おしさに任せて頭を撫でる。それを二人は気持ち良さそうに受け入れていた。


「二人とも怪我してない?」


あいじょうふだいじょうぶ!」


「良かった。ごめんね、本当は僕がもう少し戦えればいいんだけど…」


実際、この中で一番戦闘に向かないのはアイルである。というのも、【精霊術】は精霊と契約した上で使うのが半ば前提のスキルなのだ。今のアイルのように契約外の精霊を頼ることも可能ではあるのだが、その場合、魔力効率も威力も普通に魔法を発動するより悪くなっている。


「気にしないで…それに、必要な時はいつも助けてくれるの…知ってるから。」


「うんうん!」


「そうですよ。それに、アイルは戦闘以外でいつも助けてくれるじゃないですか。こういう時は頼ってください。」


そうして、4人はしばらく団欒を楽しむのであった。



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リザルト

ゴブリンLv1 × 4

ドロップ

棍棒×3

魔石(ゴブリン)Lv1×4

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リザルト

ゴブリンLv1 × 5

ドロップ

棍棒×4

魔石(ゴブリン)Lv1×5

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リザルト

ゴブリンLv1 × 2

ドロップ

棍棒×2

魔石(ゴブリン)Lv1×2

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最初の戦闘以降はゴブリン以外が現れなかったため、危なげなく戦闘を積み重ねていく。そうして進み続けることしばらくして、ルナとソルが何かに気が付く。


「…ソル、聞こえたよね」


「聞こえたよ!ゴブリンの声、しかもいっぱい!」


獣人特有の高い聴覚が、これまでとは比較にならない数のゴブリンの声を拾う。残りの二人に聞こえないことから、まだ少し距離はある。そう判断して、フィリアたちは一度立ち止まって方針を話し合う。


「アイルどうは思います?」


「…今後もこのエリア場所にはきますし、確認だけはしておいた方がいいと思います。」


「わかりました。ソル、ルナ申し訳ないですけどこれまで以上に警戒をお願いします。」


手短な会話で結論を出した一行が、これまで以上に注意を払って歩みを続ける。


「アイルにー、あの場所見て」


離れていても明らかに人工的に広げられたとわかる空間。一部には幹も残っている広場には、切り取られた木材で作られたであろう住居が並ぶ。


「ゴギャギャー!!」


「「「グギャー」」」


今後はアイルとフィリアにも聞こえる距離でゴブリン達の叫び声が響く。その方向を見れば、ゴブリンリーダをリーダーとした一団が4人に気づかないまま外に向かって進んでいた。


「…やっぱり」


フィリアは自身の仮説が正しかったこと確信して言葉が漏れる。本来ならば気づかないほどの小さなつぶやきではあったが、身を隠すために近づいていた他3人にとっては十分な声量であった。


「ずっと、初めに出てきたゴブリンを不思議に思っていたんですが、先ほどの光景で納得いきました。あのゴブリンはダンジョンから出てきた個体だったんです。」


通常、適正レベル以上の魔物が現れる例は少ない。あっても、エリアの中心付近やダンジョン、もしくは宝箱の側など、それなりに納得のいく理由がある。故にフィリアは初めの何もない場所に現れたゴブリンリーダに違和感を感じていた。


「でも、ダンジョンからは魔物は出てこないはず。」


「はい通常はそうです。でも、すでにここがダンジョンがなら」


「ここがダンジョン…あ!」


「はい。共有型ダンジョン。それがこのエリアのダンジョンだと思います。」


ダンジョンとは各エリアのボスが支配する高レベルの魔物が存在する場所のこと。この場所は他のエリアとは隔絶されており、外に魔物が出てくること基本ない。しかし、何事にも例外は存在する。共有型ダンジョンはそんな例外の一つだ。このダンジョンは生成された段階からダンジョン内のモンスターが増加しない変わりに、ダンジョンとエリアに境界線が存在しない。


つまり、このダンジョンは突然ゴブリンリーダが現れる危険性があることを意味している。そう、意味していたんだが…


「あれ?何も問題ない?」


「そうなんですよね…」


そう、現状では単発で発生するゴブリンリーダとの戦闘に特段問題はない。確かに多少は危険度は上がるが、経験値を稼ぎながらダンジョンの攻略まで進められるのだから利点の方が大きいだろう。


「なので、今やるべきは偵察です。わかる範囲で戦力を調べておきたいです。」


「なら任せて!」


「…頑張る」


気合の入った2人を先頭に、静かにダンジョンへ近づく。しかし、乱雑に建てられた建築物が視界防ぎあまりよく見えない。


「なら…上から…見てくる。」


そういってルナは【登攀】スキルの補佐を受けながら、すらすらと近くの木に登っていく。そこから見えたのは多数のゴブリン達。何かを運んでいるものもいれば、ゴブリンリーダの訓練受けるものなど様々だ。また、作られた建築物は大小さまざまなサイズが存在していることがわかる。


そんな中でも特に目立つのが中央にある一際大きな建築物。周囲から隔離するように周囲を塀で囲われ、唯一の出入り口にゴブリンリーダが立っているその建物は何か大切なものなのだろう。また、中央の建築物を囲うように作られた中ぐらいのしっかりとした建築物が合計6つある。それ以外は多少の差はあれ似たような大きさの小屋ともいえないような壊れかけの建物が並んでいる。


(これ…全員闇討ち…できそう……うん?)


そんな危険を思考をしながらもルナは今見た光景を記憶しいる中で、偶然にもそれに気が付いた。


それはダンジョンから少し離れた場所にポツンと存在するツリーハウス。他とは異なり明らかに隠すことを意識した建築様式は、気づいてしまえば逆に強く印象に残る。


(とりあえず…報告しなくちゃ)


「ルナどうでした?」


「えっと」


そうしてルナは中央の建築物(大)周辺の6つの建築物(中)その他建築物(小)を話してダンジョンの概要を説明する


「そうなのですね。ちなみにゴブリンとゴブリンリーダ以外の魔物はいましたか?」


「いなかったと思う…ゴブリンリーダなら、中央の建物の前に2体…」


「そういうことなら、ゴブリンリーダもそこまで数はいなさそうですね。多くて10体ぐらいでしょうか?」


「わかんないけど…多分それぐらい?あと…少し気になるものがあった…」


「気になるものですか?」


「ん…あっちの方…ダンジョンからは少し離れた場所に、隠すように何か作られてた…」


上から見た光景をもとにそれがあった方向を指さす。当然地上からは何も見えない。


「うーん、ダンジョンは通らないでも行けそうですね?」


「そうですね。それにゴブリン達が高所から監視に使っていたら大変ですし、先に確認した方がいいと思います。」


フィリアの問いに対してアイルが今後のことを理由に進むことを推奨する。結局は、アイルの意見が決め手となり確認しに行くことでまとまる。


ダンジョンの側面を通るように進み続ける。先ほど以上に道はなく、背の高い林をかき分けて進み続ける


(ゴブリンが来ているとしたらこの辺に道がありそうだけど…)


そう思ってアイルは周囲を確認するが、どこにも獣道は存在していない。


さらに進むこと30分程度。


「多分ここ…」


そうしてたどりついた樹木はそうだとわかっても見分けがつかない。ただ、頭上を注意深く見れば幹に同化するようにつるされた縄橋が存在していた。


「私には登るのは厳しそうです。」


「ここまで来ても足跡はなし。となると、ルナ確認お願いできる?」


「任せて…!」


「あ、ソルも!」


ここでも活躍するのはルナの【登攀】スキル。スラスラと登ってはしごを掴む。それを少し遅れながらもソルが追いかける。


木の葉に囲まれた梯子はそこまで長くなく、少し登れば視界が一気に晴れる。


「「うわー!!」」


木材で作られた足場。樹木と一体化するように作られたログハウス。まさしくそれは子供の頃に一度はあこがれた秘密基地そのものであった。


「…ソル少し見て回ろうか…」


「探索の時間だー!」


隠しきれない感情の高まりに2本の尻尾が揺れる。


部屋の中はそこまで広くなく、内装もそこまであるわけでもないため探索はすぐに終わる。やがて2人の足は外につながる扉に向かう。


不安定な木の上ながら安定した足場。そこにこれ見よがしに置かれたそれは二人の腰ほどはありそうな四角い物体と二人にとって謎の物体。


「宝箱だー!」


そう言ってソルとルナは近づくと仲良く二人で箱の淵を持つ。


「「せーの!」」


息の合った動きで開いてみれば、そこには鉄製の剣とナイフが1本ずつ。


「わー!」


「…」キラキラ


まさしく今求めていた宝物を手にして喜ぶ二人。そうしてしばらく喜んだ後、改めて隣の謎の物体に目を向ける。


触れるだけで指を切れそうなほど引き絞られた弦。破壊力を追求した結果、巨大化して汎用性を失った銃身。ダンジョンへ向けられ置かれたそれは、殺意をつがえる者を待っている。


バリスタ。それがそこに存在する武器の名前。しかし、この場にそれをわかるものはいない。


「かっこいい!けどこれなんだろう?」


「まずは…みんなに聞いてみる?…」


他に気になるものはなく、得た情報を共有するため引き返す。そうして、2人のもとに戻ったソルたちは、上でのことを共有するのだった。

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