4日目午前(レベリングスタート①)
流れる風は穏やかで、サラサラと木の葉が擦れる音が静かに響く。そんな、一見すると平和そうな森を4人は固まって進む。
先頭をルナとソルが、殿をアイルが担当し、唯一HPの回復手段を持つフィリアを中央に置く。
「やはり、一番レベルの高い私が殿の方が…?」
「フィリアさんは【巫女術】でHPも消費するんだから大人しく守られててよ。それに今回は僕ら3人の実地訓練も兼ねてるんだから。」
今回の陣形は戦闘能力を得た3人の発案である。当然、事前にフィリアとも相談はしており、その際はしぶしぶながらもフィリアは了承していた。
「そうですが…」
フィリアも既に3人が守られるだけの存在ではなくなったことは理解している。理解しているが… それでも心配なのが姉心。
「まあ、見ててよ。僕は程々だけど、ソルとルナは訓練の頃からすごいから。」
故に、今必要なのは理屈ではなく証明。そして、その証明の機会は着々と近づいていた。
…
「止まって…いる。」
ルナが3人を止める。少しして、林をかき分けるようにそれは現れる。
「ゴギャギャ」
「ギャギャ」
----------------------------------------------------
ゴブリンリーダ Lv3
----------------------------------------------------
----------------------------------------------------
ゴブリン Lv1
----------------------------------------------------
ゴブリンリーダを先頭に合計5体のゴブリン。それが、近くに実った木苺を集める始める。まだソルたちに気が付いた様子はないようだ。
無意識にソルの尻尾がくねくねと揺れる。
「いっていい?」
しかし、ルナは首を振ってそれを止める。
「僕が向こうから…だから…少し待って」
「うー…わかった。」
ルナは周囲を囲む木々の隙間を指さす。その位置はゴブリンたちの背後をとる形となっており、不意打ちを狙うには適した地形であった。
その場所へルナは静かに、されど素早く移動する。少しして、風が周囲を揺らす。
(…今)
こすれる木の葉の音の中に飛び出す瞬間のわずかな音を隠す。故にルナの一撃をゴブリン達は最後まで気づけなかった。
「ギャ?」
間抜けな声が響く。その声に振り向いたゴブリンが見たのは、消え行くゴブリンとその首に棍棒を突き刺すルナの姿。あまりにも突然のことにゴブリンたちの思考が遅れる。しかし、一度動き出した時間は止まらない。
「うりゃーー!」
続けざまにソルが別のゴブリンの頭部を捕える。ゴブリンは悲鳴を上げるがそれも追い打ちにより消し去った。
「ゴギャゴギャ!」
2体目のゴブリンの消失。その事実にゴブリンリーダは慌てて攻勢に出る。標的は最も近くにいたソルだ。
それに対してソルはさらに前に出る。想定以上の速さの接敵に慌ててゴブリンは棍棒を振り上げるが対して、ソルは握った武器の動きは最小限に、ただ速度を乗せて突き出す。そのわずかの対応の差が1人と1体の攻守を完全に逆転させた。
握った棍棒が、ゴブリンの腹部を押し出す。体制を崩されたゴブリンはそのまま後ろへ。ソルは追い打ちを狙うもゴブリンリーダがソルに接近することで妨害する。その距離、歩幅ににして残り2歩。
(だめ、かわせな。ならカウンター!)
そう判断したソルは一撃を受ける覚悟をする。そんなソルへゴブリンリーダは容赦なく残りの距離を詰めようと踏み込む。だが、仲間がいるのは何もゴブリンだけではない。唐突にゴブリンリーダはその体制がその体制を崩す。見れば踏みしめるべき大地が消失。その生まれた隙にソルも一度距離をとる。
「…♪」
その光景を横目にいたずらが成功して喜ぶ精霊。それを撫でるアイルの横へ
はソルへ声かけた。
「大丈夫?」
「ぜんぜんよゆう!アイルにーありがとう!」
アイルとソルが体制を整えながら、改めてゴブリンと対峙する。対するゴブリンたちもゴブリンリーダを中心に守りの体制をとりながら攻勢の機会を伺う。結果戦場に一時の静寂が包む。
そんな戦闘をMP温存のため待機していたフィリアは見守る。
(これは、私も頑張らないといけませんね)
圧倒的センスで有利に戦闘していくソル。スキルを最大限使って最大の一撃を狙うルナ。本来運用が難しい、低レベルの【精霊術】を巧みに操ってゴブリンの行動を潰すアイル。理解していると思い込んで見落としていた彼らの今の姿に改めてフィリアは自身の役割を考えながら、次の動きを注視する。
緊張感がだんだんと高まる。不意にゆらゆらと一枚の木の葉が舞い落ちる。それはゆっくりと、しかし確実にその高度を落とし、やがて音もなく大地へ至り、開戦を知らせる。
初めに飛び出したのは今回もソルであった。対してゴブリン一行はゴブリンリーダを後ろに、ゴブリン2体が前に出る構え、確実にソルをしとめるためのカウンターを狙う。しかし、この時すでにゴブリンは一つ見落としていた。
「ゴギャ?」
いつの間にか木々を渡って頭上へと移動していたルナの不意打ちがゴブリンを貫く。そうして使い物にならなくなった武器はそのままに、握っていた棍棒を奪って隣のゴブリンへと向かう。
「そっちは…任せたよ」
「まっかせて!!」
最後のゴブリンと戦うルナの横を抜けて、ソルはゴブリンリーダへ迫る。対するゴブリンリーダも慌てて、握った大きな棍棒をソルへ振るう。
カッ!
音を立ててお互いの武器が衝突する。
「グッギャァ!」
「かつのは!ソルだよ!!」
鍔迫り合う武器にさらに力が加えるゴブリンリーダ。対して、ソルも感情に呼応して高まる魔力をそのまま武器へ流す。ソルの武器に燈る焔、周囲を照らす。そんな中、武器振り切ったのはゴブリンリーダ。だが、その先はなく残った先端は黒く煤けている。
ソルは【体術】の補助を受けながら空中で体制を変えて着地。限界まで引き絞った両足が大地を蹴る。
「ソル…こいつも」
そういって、自身が相手するゴブリンを蹴りつけるルナ。そのままゴブリンはゴブリンリーダを巻き込んで転倒。そんなゴブリンに朱色の一線が走る。それはソルが出せる最大最速の一撃。そのあまりの速度はゴブリンの悲鳴すら置き去りにするのだった。
----------------------------------------------------
リザルト
ゴブリンLv1 × 4
ゴブリンリーダーLv3× 1
ドロップ
棍棒×2
魔石(ゴブリン)Lv1×4
魔石(ゴブリンリーダー)Lv3×1
----------------------------------------------------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます