3日目午前~お昼(訓練と森と)

ルナはソルの長い棒を躱し、素早く短い棒短刀を返す。上半身を狙って放たれた一撃はしかし、ソルが即座に後ろに飛んだことで空振りに終わる


「あたらないよ!」


「ソル…それは油断…」


しかし、放たれた一撃は振り向く途中で勢いをなくす。右腕から離れて空中で置き去りとなった短剣。その短剣をルナは前に進みながら、今度は左手で逆手に握る。


ルナが間合いが詰める。これで剣と短刀の優位性が逆転する…はずだった。


即座に剣を捨てたソルは肉弾戦に移行する。技術も何もない直観任せの拳がルナの左手に向けて放たれ…


「そこまで!」


ピタリと戦闘を止める二人。少しの斬新を置いてから降ろされる双方の武器と拳。


「アイルにーもう少しだったのに!」


声で文句を言うソルと無言だが、目で訴えているルナ。


「二人とも暴走しすぎ。そもそもこれ剣と短剣の訓練なんだから剣を捨てたらダメだって…」


目的に合わせて先ほどの試合を見れば、剣を捨てた時点でソルは負けだ。


「ソル…今回は、僕の勝ち…」


「いや、ルナも途中で風魔法使ってたよね…」


途中の短剣の不自然な停止は風魔法によるもの。つまり、この二人は途中から完全に訓練目的を忘れている。


「練習に…結果を追及するのは…間違い」


即座に掌を反すルナ。ソルに限ってはすでに教会に向かって走っている。


そうして、2日目の午前は過ぎていった。



お昼をとって少ししたころ。やっと教会から解放された護は森を作るためフィリアたちとともに教会の外に出てきていた。


「畑に近すぎないですか?」


現在みんながいるのは畑の右隣。アクセスはいいが今後畑を拡張するときに邪魔になりそうな場所でもある。故に事情を知らないアイルにとってこの疑問は当選のものだ。


「実は施設は後から移動できるんだよ。まあ、いろいろ面倒な手順があるけどね。だから、今はアクセスのしやすさ優先でここを選んだんだ。」


そういいながら、表示された画面を操作する護。


----------------------------------------------------

この場所に森を設置しますか?

Yes / No

----------------------------------------------------


「それじゃ森を作るから少し離れてー」


好奇心で瞳を輝かせるソルとルナが下がったことを確認してYesを選択する。


「「うにゃーー!」」


選択した範囲が輝き、それを直視してしまった双子のかわいらしい悲鳴が響く。


少しして、光がおさまる。これまで芝生が生えていた場所はふかふかの黒い土に変わっていた。


(確か、昨日リジアと調べた情報だと…)


護は開いてた画面を操作していく。しばらくすると何もなかった黒い土の間が変化し、十字状に踏み固めたような道できていく。


「こんな感じなんですね。」


「私も実際に見るのは始めてです…」


目前で次々と起きる環境変化にアイルとフィリアが言葉を漏らす。なお、眼を殺られたルナとソルは今も若干警戒態勢をとり、下を向いた尻尾を激しく降っている。


「資材ポイントがあればいろいろアレンジできるみたいなんだけど。今はこの道を作ること以外はできないみたい。」


護が操作していた画面には他にも【道(石畳)】や、【長椅子(木製)】などの項目が出ている。しかし、どれも資材ポイントが設定されており、いまの段階では作成できない。逆に言えば資材ポイントさえあれば、より理想の空間を作れるのだから神とは便利なものだ。


「将来の楽しみですね。」


まだ何も生えていないが、例のごとく勝手に樹木は育ってくれる。きっと3日後には大きく変わった光景を見せてくれるだろう。


「収穫ができる2週間後が楽しみだ。」



森の設置が完了した護たちはそのまま隣の畑に足を運んでいた。


「知識としては知ってたけど、直接見ると不思議に感じるもんだなー」


6つ並んだ畝にはそれぞれ別々の植物が眼を出している。よく見れば既に蕾ができているものもあり、とても2日前に種を蒔いたとは思えない光景となっていた。


「トマトとジャガイモ、あとカブとキャベツかな?他はわからないな。」


「あっちはトランブロッコリーで、こっちのが密ホウズキだと思います。まあ、ぼくも食べたことはないので知識だけなんですけどね。」


「あれが密ホウズキですか!さらっとした甘さが特徴の!あの!密ホウズキですか!」


【密ホウズキ】のワードに反応して、掴みか刈る勢いで迫るフィリア。普段の落ち着いた雰囲気は消え去り、鬼気迫る勢いは見るものを圧倒させている。


「た、確かそんな感じの記載だったと思いますよ。」


その言葉にピタリと行動を止めたフィリア。よく見るとその肩は(歓喜で)震えている。


((これ、下手に刺激すると巻き込まれるやつだ…))


君子危うきに近寄らず。彼女からそっと離れたアイルへ護は小声で話しかける。


「フィリアはあれが素だったりする?」


「いや、ぼくもあんなフィリアさんは始めて見ました。そういえば、果物が食べれるときは喜んでたとは思いますが…そうかー、甘いものあんなに好きだったんだ…」


「甘味は時に人を狂わす。例え高カロリーとわかっていても、行き着く先がダイエット地獄だとしても、一時の余韻を求めずにはいられないのだ。それはある意味人間の性なのかもしれない。」


「えっと…」


「美味しいものは食べたくなる。それだけだよ。あ、ルナが捕まった…」


「いいですかルナ、明日から…」


「…あれは、中毒と言うべきでは?」


「いってやるな。あと、あれは禁断症状なんだ。きっと一度甘味を接種すれば落ち着く。」


「マモルさんも大概ですよ。」


若干暴走気味のフィリアからそっと眼をそらしなが、言葉が紡がれていく。


「ちなみにトランブロッコリーどんな感じなの?」


「茎が大きいブロッコリーですね。茎部分が茹でてもシャキシャキしていて、美味しいらしいです。」


「茹でても食間が残るならスープとかも良さそうだね。」


「いいですねー」


そうして、未来の料理については二人話し合っていくのだった。


なお、数分後


「お願いです…先程のは忘れてください…」


「まあ、好きなものはしょうがない。俺はいいと思うよ!」


「うぅ…」


二人の想像よりも早くは正気に戻ったフィリアなのだった。





どうしてこうなった??

ちなみに正しいタイトルは「3日目午前~午後(訓練と森と甘味)」です。


余談ですが、生えてくる野菜は50種類以上の野菜の一覧からサイコロ降ってランダムに決めてます。なので、ここで甘味が出てきたのはダイスの女神の気まぐれであり、作者も想定外です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る