1日目午後~夜(畑と温かい料理と安息と)

「ソルそこ掘って」


「わかったー!」


「ルナ~。今度はその辺です。」


「ん…了解…」


道具がないため、素手で掘り返していくソルとルナ。なお、一見すると酷使しているように見えるが、本人たちの希望でこうなっている。曰く、


「わからないけど、土を見てると遊びたくなる!」


とのことだ。そういった理由もあり、このような分担となった。


「しかし、HPが0になるまで戦っていたなんてね。」


当たり前だが、この世界でHP がなくなるまで戦う人間は少ない。だからこそ、アイルたちは護は魔法もしくはアイテムによって先に帰還したものと考えていた。それが、まさかの強制退去リスポーンしていたと言うのだから驚くのも無理はない。


「本当に規格外というか破天荒というか…。困った方です。」


そんな会話をしながらも、わいわいと作業を進は進んでいく。お陰で開始時刻は遅くはあったが、日が傾き始め頃には全ての作業が無事完了した。


「皆さん戻りますよー」


4人は灯りが燈った教会へ歩いていく。みんな、特にソルとルナは泥まみれ。忙しい1日で疲労がたまっているだろう。しかし、その表情は朗らかであった。


「フィリアねー!」


「どうしました?」


「んーなんでもなーい!呼んだだけ!」


「なんですかそれ。」


クスクスと笑いあう二人。そんなどこかのどかな雰囲気を纏って、教会の入り口を開く。


「ただいまー!」


教会にソルの元気な声が響く。


「おかえりー。簡単だけど夕食作ったからこっちおいでー。」


あけ放たれた扉の先、テーブルと椅子が置かれた簡素な食堂件キッチンから護の声が返される。


「わーい!」


駆け出すソルとルナ。そんな2人を追いかけてる形でアイルとフィリアも部屋へと向かう。近づくほどに食欲を誘う薫りが強くなり、忙しさで忘れていた食欲が刺激されてくい。


「すごく助かります。手伝いますね。」


「あ、ソルとルナは先に体を洗いましょう。護様お風呂借ります。」


静かであった教会が一気に騒がしくなる。土まみれのルナとソルをつれて、フィリアはお風呂場に向かい、アイルは手を洗いながら護の横に並ぶ。


なお、この教会地味にハイテクとなっており、光や水、火、なんなら、お湯も全て魔力があればスイッチひとつで操作可能になっていた。お陰で、キャンプなどほとんどしない護でも問題なく調理ができていた。


「そしたら、そこの食器から人数分のお皿出してくれる?」


「わかりました。」


アイルが食器を取りに行ってる間に護は完成していたスープを温め直しながら、厚切りのハムを焼いていく。


「何を作ったんですか?」


「トマトスープのリゾット。」


「あれ、お米なんていつの間に?」


「いや、食糧庫に入ってたやつを少しね。」


できたばかりの異界でも住む人がいる。そんな人の生活を支えるため、初回に作成される教会には少人数が生活するのに必要な消耗品や設備あれこれが準備されていた。今回リゾットに使った食材はそこから持ってきたものだ。


「ちなみに、その中に育てられそうなのあったり?」


「残念ながら。さすがにルール違反はさせてくれないみたい。」


「やっぱりだめですか。」


そんな、会話を続けることしばし。隣接された風呂場の扉が開かれる。


「ごはーん!」


風呂に向かっていた3人が戻ってきた。それを確認した、護は盛り付け、アイルがテーブルへ運ぶ。


「今持ってくから座って待っててね。」


「はーい!」


テーブルの上に質素ながら夕食と言えるレベルの料理が並んでいく。その光景を待ちきれないと言った様子でスプーン片手に眺めるソルとルナ。最後の料理を運びアイルが席に着いたことを確認して、護が口を開く。


「みんな今日は想定外のことばかりで大変だったと思う。なので、できるだけ旨そうなものを作ってみた。口に合うかわからないが食べてみてほしい。」


その言葉を合図にソルは待ってましたと、目の前のリゾットを食べる。


「おいしい~」


「……モグモグ」


感想を言いながら食べるソルと満足そうに食べるルナ。


そんな2人を見ながらフィリアも自身の分を食べ始める。疲れたからだに染みわかる優しい酸味。噛むほどにお米の甘さが溢れ、飲み込む頃には次を食べたくなる。


続けざまに2口目を口にする。今度は具材として入れられたじゃがいもと一緒だ。


「おいしい…」


先程とは違い、酸味と共に広がるじゃがいもの素朴な味わい。はじめの一口目とは違い、ホクホクとした食感が広がる。


「おいしいですよね。護様も食べましょうよ。」


アイルはフィリアの呟きに反応しながら、護へ声をかける。


「まあ、神にとって食事は娯楽みたいだから。食料に余裕ができたら食べるよ。」


そういいながら、米の磨ぎ汁を使用して洗った鍋をすすぐ。


「まもるちゃま!」


背後からの声に振り替えると、空っぽの食感を持ったソルがニコニコと立っていた。


「おかわり!」


「いいぞ。あと、俺のことは呼びやすいように呼んでいいからな。」


米粒1つも残っていない器を受け取り、余分に作っていたリゾットを注ぐ。


「じゃあ、マモルにー!」


「おう、じゃあ今日から俺はソルの兄貴だな。」


「わーい!」


そう言って、おかわりを受けとったソルは嬉しそうに席に戻っていく。


「みんなも別にそこまで敬う必要ないからな。俺のことは呼びやすいように呼んでくれ。」


なお、これに対して約一名「私の常識が…」と呟いていたとだけ付け足しておく。


食後、1人で片付けをしようとする護をアイルとフィリアが止める一幕を挟み、みんなで協力して作業を進める。


「魔法って便利なんだな~」


浮かべた水で簡単に汚れを取る光景を見ながら護が呟く。こういった生活を支える魔法はあるらしく結構な人が使えるとのこと。


「護様は魔法使わないのですか?」


「使い方がよくわからないんだよね。俺が住んでた世界だと魔法って無かったし。」


「…そういえば、別の世界から来たんでしたね。でしたら、アイルたちに魔法について説明しますのでご一緒に聞かれますか?」


「すごく助かる。」


補足だが、この世界ステータスを持っていなくても、MP魔力は所有している。しかし、ステータスによる補正なしで魔法を使うことは困難のため、説明や技術の習得はステータスを習得したときに行うのが基本のだ。


気がつけば片付けは完了し、アイルはお風呂へ向かい、フィリアたちは空き部屋となっている2階で就寝の準備をしていた。フィリアは布団の代わりに普段から使っている年季の入った布を敷き、教会にあった毛布をソルとルナと共に被る。


「二人とも寒くないですか?」


「だいじょ…ふ…」


「ん…ここは…安全…あん…しん……」


舟をこぐ二人。普段なら眠るときは直ぐに眠る二人だが、安全を保証された空間と言うこともあって心地よい微睡みに身を任せていた。


「ふふ、二人ともおやすみなさい。」


「うん…」zZZ


「…」zZZ


二人が寝たことを確認してフィリアも目を瞑る。


こうして長く忙しい1日は終わるのだった。

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