1日目午後(第一回方針会議)

フィリアが正式に暮らすことになったことで、自然と今後の方針について話が移動する。


「では、恥ずかしながら私が進行をさせていただきます。」


司会進行はこの中で一番異界の運営に詳しいフィリアが務めている。なお、現在護が作成できる施設は以下通りだ。


畑の建造 必要神格値:50

畑のLV上昇 必要神格値:10

鉱山建造 必要神格値:50

鉱山のLV上昇 必要神格値:10

森の建造 必要神格値:50

森のLV上昇 必要神格値:10

教会建造 必要神格値:1000

住宅街設定 必要神格値:50

 ・デフォルトの家1 マンション型 

  消費資材:鉱石値10 木材値 20 or 木材値 30

 ・デフォルトの家2 一軒家型(平屋)

  消費資材:木材値 10


「まず最優先で作成しなくてはいけないのが、【森】と【鉱山】になります。この二つは他施設を作る際に使う資材値を生産するので、できるだけ早く作成する必要があります。」


「フィリアさん質問です。資材値とは何ですか?」


「資材値は畑で収穫を行うことで手に入る、食料値、森で木材などを収穫することで手に入る木材値、鉱山で採掘することで入る鉱石値、そして魔力プラントで生産できる魔力値をまとめた呼び方です。この値は異界を運用するうえで絶対に必要になってくるものです。」


「先生ー。でも今の神格値だとどちらかしか作れないです。」


「護様はアイルに合わせなくていい良いですから。というか少しは威厳を持ってください。」


「軽口の多い環境の方が積極的な意見が出るのでその意見は却下します。めざせアットホームな世界。」


(あ、これ私が慣れるしかないやつですね…)


どこか諦めた顔でフィリアは護を見る。しかし、護としても最初に作る風土は大切と社会人生活で知っているのでここは譲らない。なので妥協案を提案する。


「必要なところでは俺なりにしっかりするから、普段は見逃して欲しいな。」


「…わかりました。確かに今の方がしゃべりやすくあります。少し常識に捕らわれすぎたようです。」


「うん、ゆっくりでもいいから慣れてね。俺としては敬語もやめてほしいぐらいだし。」


「さすがに敬語から変えさせるのは許してください!えっと、話を戻しますが、現在は神格値が足りないので木材値を優先します。これは木材値だけで建築できるものがあるのもですが、鉱石より木材の方が加工がしやすいのもあります。」


「なるほどね。俺は概ねその意見に賛成かな。アイルは?」


「僕もそれでいいと思うけど…。畑の拡張はまだしなくていいの?」


アイルたちはこれまでの生活で食料の必要性を理解している。それゆえに出た意見だった。


「食料については現在は4人しかいませんので、強化は後回しでいいかと。しかし、今後発展させていくためには、我々も経験値を集めていく必要は出てきますね。」


神格値は信仰によって捧げられた経験値により増える。そのため、護はみんなを救うと宣言したが、実際は多くの点で護が助けられることになる。


(だからこそ、俺は彼らの福利厚生をしっかり考えないとな)


「護様聞いていますか?」


「ごめんごめん。少し気を抜いてた。なんだっけ?」


「まずは森の設置を最優先で進めます。その後、私たちは経験値を集めるため、手前の森を探索する予定です。」


「なら、探索は俺も手伝う方がいいかな?」


「いえ、護さんに手伝ってもらうと戦闘の効率は上がるんですが、代わりに取得経験値は減ってしまいますので、私たちだけで行きたいと思います。」


この世界の経験値は戦闘終了時に周辺にいた者へ平等に分配される。この時、経験値を取得できない神がいる場合、経験値は貰えないが分配人数にはカウントされるため総取得量が減っていまう現象が発生する。まあ、一部例外は存在するがこれはいま語るべきことではない。


「目標は3人のレベルを3に上げることです。そうすれば最低でも神格値が90は溜まります。そこに私の持っている経験値20を合わせれば神格の上昇分に足ります。私としてはちょうど良い目標と思うのですが、どうでしょうか?」


「うん。分かりやすいし無理のない目標設定だと思うよ。でもあんまり急いでやろうとはしなくていいからね。」


「わかりました。」


そうして、会話が一段落すると、そのタイミングを待っていたアイルが口を開く。


「そういえばフィリアさん。畑に何を植えるかは決めなくていいんですか?。」


アイルの言葉に護はうなずき、フィリアが小首を傾げる。


「畑ならもうあるんですよね?」


「え?まあ、うん…作ってはあるよ?」


「なら、収穫するだけですよね?」


「「え??」」


「え?」


結論から言うとこの会話はフィリアだけが正しく認識できている。そう、異界の効果で作られた畑は何も植わっていない状況の場合、ランダムに植物が生えてくる。当然種を植えておけばその植物が生えてくるが無理に植える必要はないのだ。


「知らなかった…」


「でも、一部固定できるならこいつだけ植えておく?」


護はそう言って収穫していた【トマトの種】と【発芽したじゃがいも】を取り出す。これはゴブリンエリアを探索中に見つけていたものであり、本来は畑に植えようと思っていたものであった。


「トマトは料理に結構使えるし、じゃがいもは主食にもできるからいいと思うんだけど。」


「さすがです!護さん!」


「・・?」


護はそこそこ自炊をしていた人間であり、アイルは4人の調理担当である。そのため、主食となる食材と汎用性の高い食材の必要性を良くす知っていた。なお、フィリアについては語らぬが花だろう。


最終的に畑に手を入れることを決めた3人は、最後にこれからの行動内容をまとめる。なお内容は以下の通りである。


1.畑にジャガイモとトマトを植える(今日中)

2.森を作る

3.経験値を集める


「一見やることが多く見えるけど、結構単純だね。」


「そうですね。資源不足ですからやれることにも限界があります。ではまずは畑から行きましょうか」


「アイルにー戻ったよー!」


「おかえりー。ソル楽しかった?」


「アイルにー!楽しかった!」


「それはよかった。なら、あとで案内をお願いしようかな?」


「うん!任せてアイルにー!」


タイミング良く戻ってきたソルが自身の探索の結果を元気に報告する。純粋無垢に語るその姿にしばし癒されたあと、フィリアが代表してソルへと話しかける。


「私たちはこれから、畑での作業をするのですがソルとルナは手伝ってくれますか?」


「楽しそう!やるやる!!」


「ん…手伝う」


ということで、みんなで畑に向う。しかしこの時護は一つ重要なことを忘れていた。


ゴン!


「いたい!」


護が教会を出ようとしたところで、鈍い音が響く。手を伸ばして確認すれば見えない何かが立ち塞いでいた。


「どうしました?」


「いや、なんかここに壁が…あ」


そこで護は思い出した。そう、神のHPがゼロになった場合、しばらく教会の外に出れないということを。


「…ということでして、畑の方お願いできますでしょうか…」


こうして第一回方針会議は頭から躓く形で終わるのだった。

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