1日目午後(今日を生きるために②)

シードフィッシュの突撃を水の壁を作って受け止めるフィリア。幸い、シードフィッシュの耐久はさほど高くないのか、水の中に閉じ込められて少し時間が立つと溶けるように消えていた。


しかし、それでもシードフィッシュは突撃することをやめいない。幸いなのは、フィリアが魔法を使い始めてからは不思議と攻撃が集中しており、囮として役目を完遂できていることだろう。


「っ!?」


突然背中に痛みが走る。即座に後ろにも水球を作りながら、フィリアは現在のステータスを確認する。


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フィリア

LV 3

HP  11/35

MP  16/44

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(MPの消費が激しい…こうなるなら少しは魔術以外も鍛えておくのでした。)


攻撃範囲が広がったことでMPの消費が加速する。しかし、現状を解決するような大規模な魔法が行使できない以上、フィリアには現状を維持する以外の選択肢はない。着々と終わりの時が近づく。それでも運命に抗うため、魔法範囲を絞って時間を稼ぐのだった。


そんな小細工を嘲るように、戦況が変わっていく。


フィリアたちは気が付いてないかったが、周辺に生えた草には二種類の種子が実っていた。一つはただ少量の魔力を含んだ種子。そしてもう一つが、地面についた際に急激に成長する植物型魔物の卵であった。そう、シードフィッシュは成長する魔物である。


(甘い香り?でもこの辺にそんなもの…!)


周囲を見回したフィリアはこれまでにはなかった赤い花が咲いていることに気が付く。シードフィッシュに対応している間に咲いたそれは、魔物特有のステータス表示がされていた。


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フラワーフィッシュ Lv4

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甘い香りが周囲に広がる。その香りに直接的な害はない。動きを止めたそれはシードフィッシュに比べて危険度も低い。そんなフラワーフィッシュができることは至って単純。環境によっては極悪となるこの香りを広げることのみ。


「グギャャーーー!!」


甘い香りに釣られて、それは現れた。大きく開かれたく口は周辺のシードフィッシュとフラワーフィッシュをまとめて喰らいながら飛び上がる。大地に着水したそれは波紋を残しながら、潜航する。そうして背中に生えた多肉植物を地表に出しながら、また次の獲物を求めるるのだった。


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サキュレント・シャーク レベル20

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それはこのエリアの主。背中には長く鋭い葉が育ち、口には鋭利な牙が並ぶ。サキュレント・シャークにとってこのエリア全てが縄張りであり、シードフィッシュもフラワーフィッシュも侵入した餌を効率的に見つけるために残されているに過ぎない。


フィリアを見つけたサキュレント・シャークは鋭利な牙の並んだ口を開き、飛び掛かる。


対するフィリアは、残った魔力を全て使い水壁を作り出す。作られた水壁は吹き飛ばされてしまったが、代わりにサキュレント・シャークをわずかに減速させる。そのわずかな時間がフィリアの回避を成功させた。


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フィリア

LV 3

HP  11/35

MP  0/44

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MPが尽きた今、同じ方法は使えない。その事実がわずかに残っていた淡い期待を、また、ソルと、ルナと、アイルと会えるかもしれないとそんなん甘い希望を砕く。


(勝てない…)


周囲の草木を簡単に破壊する牙が再びフィリアへ向けられる。フィリアは躱そうと足に力を入るが、満身創痍の体が拒む。


(…最後までいられなくてごめんね。)


終わりが近づく。それを受け入れるようにフィリア目を閉じる。



「グッギャー!?」



暗闇の中、サキュレント・シャークの情けない声が響く。それに追随して今、一番聞きたくて、しかし聞きたくない声が響いた。


「フィリアねぇー!!」「フィリア姉さん!!」


 

時は少し遡る。


護は聞こえた祈りの地点に向かって走っていた。


神は自身の権能に関する時、その真価を発揮する。護の場合、それは親愛に関することだ。自身を犠牲にしてでも誰かの願いを叶えたい。すべてを捧げてでも何かを守りたい。そんな見返りのを求めない純粋な願いこそを護は祝福し、その力を貸す。


護に届いた祈りは、全てを賭しても守るという覚悟にも似た祈り。その願いが発せられた場所を目指して護は駆ける。


そんな護の前に、草木を分けて必死に走る子供たちが現われた。白と黒の髪を揺らすよく似た獣人の兄妹とそれより少し年上に見える茶髪の少年。着ている服はボロボロで、草の中を走ったせいか植物の種がポツポツとついている。何より、頬に残った後悔の跡が何かあったことを物語っていた。


(おそらくこの子たちが)


「おにいちゃんはだれ?ですか!」


灰と金の瞳の少女が覗き込むように問う。護は少女に視線を合わせてから、その問いに答えることにする。


「俺は護。君たちを救ってほしいという願いを聞いて来た。」


「願い…?」


「うん?…ああ、こんな見た目だけど神だからね。」


という言葉に警戒態勢を獣人の兄妹。しかし、それを茶髪の少年が止めた。


「ソル、ルナこの人は大丈夫だよ。多分嘘は言ってないから。護様、僕の名前はアイルです。」


「ルナ…です」


「ソル!」


アイルに続くように白髪のソルと黒髪のルナも簡潔に名前を答えていく。そうして自己紹介を終えたところで、護はアイルに宿った小さな願いに気が付く。


「さて、俺は君たちを救ってほしいという願いを叶えるために来たわけだが、君たちはどうしたい?」


アイルの方を見ながら護は優しく問う。アイルは向けられた視線に一瞬ためらうも、しかし一度生まれた願いは止まらなかった。


「…お願いします。どうしても助けたい人がいるんです。だから、僕に祝福をください。」


助けてではなく、助けたい。それはきっと、自身の行動の後悔からきた言葉なのだろう。


「アイルにぃー!1人だけずるい!ソルもフィリアねぇー助けに行く!」


「僕も…もし何かあっても…やっぱり、4人でいたい。」


護に届けられる3つの後悔願い。それは、償いのための自己犠牲で、そして大切な人を救うための献身。今も強くなっているのは、これまで積み上げた後悔ゆえなのだろう。


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ソルに祝福を与えますか?

Yes / No

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(Yes)


「よく頑張ったね。」


親愛の神はそっと頭を撫でながら、積み上げた後悔を肯定する。だってその後悔は、本当に大切なものがあったから生まれたものだから。


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ルナに祝福を与えますか?

Yes / No

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(Yes)


「だから、ここからは俺もできる限りを尽くすよ。」


しかし、親愛の神は後悔を後悔のまま終わることを良しとしない。悲しみで終わることを良しとしない。


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アイルに祝福を与えますか?

Yes / No

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(Yes)


だって、ハッピーエンドのさきで初めて後悔は親愛へと変わるのだから。


「それじゃ、助けにいこうか。大丈夫。今の俺は君たちのおかげで強いみたいだから。」


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加護が取得されました。

加護名:無垢な守り

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だから、親愛神は運命に反逆する。後悔を超えて、また笑顔で笑える明日を向かえるために。

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