1日目午前(今日を生きるために①)

デミレアが作ったテオスとは多くの人にとって生きやすい世界だ。


生活するのに危険がない場所がある。食べ物は保管がきく。周辺環境が定期的にリセットされるため、資源枯渇もない。モンスターに襲われてもHPが0になるだけで死にはしない。動けなくても、自身の信仰した教会に帰れる。


しかし、これはあくまでも異界で暮らす人間の話だ。そうでない人間にとってこの世界はあまりにも厳しいものとなる。


生活は常に魔物に襲われる可能性がある。食べ物を育てる場所がない。周辺環境が定期的にリセットされるため、安息の地を作ることもできない。モンスターに襲われてHPが0になるとランダムに教会に送られ、元の場所に戻るのはほぼ不可能。


大きな異界であればこういった人間は発生しない。しかし、発展途上の異界においては人間が住める場所が限られる。結果、不要と判断された子供を外の世界に捨ることがある。


フィリアはそんな子供たちと生活をしている女性だ。


「ソル~、ルナ~今回の場所は周り環境が悪いのであんまり離れないでくださいね。」


「はーい!」


「ソル…あんまり声上げると危ない。ばれる…」


「ルナにー、でもこの辺は変な感じしないから平気だよ?」


「ソルはそういうのほんと敏感だよね。」


リセットが発生すると、創造神デミレアの世界にいた人間はリセット後の世界へランダムに転送される。この時、同じエリアにいた人は転送先も同じと場所となる。


今回のリセットで荒野に飛ばされた彼女たちは、最低限食べるものが集めれらる場所を探していた。


「今回の環境はつらいね。」


「はい、この場所はまだマシですが、周りは砂漠エリアと雪山エリア。食べれるものどころか、暮らせる環境ではないです。」


「一応、森はあるけど、レベルが15なんだよね…」


異界に所属しない彼女たちにとって、食料があって安全なエリアへの移動は必須であった。


「ごめん…僕たちが戦えればいいんだけど…」


「ソルは戦えるもん!!」


猫の獣人のソルとルナ、そして人族のアイルの3人は一度も信仰をすることなく捨てられた子供である。そのため、レベルは0であり、スキルもステータスも所有していなかった。唯一レベルを持つフィリアもレベルは3と低く、習得しているスキルの多くは戦闘には向いていない。しかし、彼女たちには一つ切り札があった。


「危険かもですが、森を抜けましょう。緊急時は私が【巫女術】でどうにかします。」


【巫女術】は自身のHPを操作、付与するスキルである。多くの魔物は知覚した中でHPを有するものを優先的に攻撃する特徴を有している。【巫女術】はこれを利用してHPの塊を遠隔で操作し、魔物を誘導することが可能であった。


「食料をどこかで補充しないとこれからが辛くなります。それに、この広野は隠れる場所が少なすぎます。他の人間が来る可能性がある以上、長居するのは危険です。」


創造神デミレアの世界で生きるものにとって他の異界で生きる人間も危険な存在である。これは手段を問わない人間にさらわれ酷使されることがあるためだ。ゆえにモンスターが弱いだけでは安全とは限らかった。


「…わかりました。でも、絶対に無理はしないでください。」


「わかってます。それでも、皆さんは私が守りますから。」


ゆえに、フィリアは覚悟する。彼らより強い私が皆を守るのだと。それが私のあるべき姿だと。


現在の踏破率 0%

?? ?m




うっそうと生い茂る草木をかき分けながら4人は進む。道と言える場所は通ってきた場所だけ。それも少しすると何もなかったようにもとに戻っていく。


「ルナにぃ、こっちは大丈夫そう。」


「了解…こっちも問題なし。」


かわいい獣耳をピンと立てて周辺を確認していた2人が、その結果を報告する。


「ここまで魔物が出てこないのは、なんか不気味だね。」


アイルは魔物と全く出会うことなく進めてていることに疑問を感じていた。何か見落としているのではないか?そんな疑問が頭から離れない。


風すら吹かない森の中。まるで彼ら以外の時間が止まったような空間を進んでいく。しかし、確かに状況は変化してきていた。


現在の踏破率 30%

??との接触まで ?m




変化が表面化したのは突然だった


……ン…


「??」


「どうかしました、ルナ?」


始めに気がついたのは、ルナだった。


「なんか今…音がしたような…?」


……ポチャン…


音はだんだんと大きくなって。


「ソルも聞こえた!後ろ!」


……ピチャピチャピチャピチャ!!!


そうして、それは正体を表す。地面にできる波紋。跳び跳ねるそれは、種のかたちをした魚群。これまでの道のりをなぞるように現れたそれは、我先にと進む。


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シードフィッシュ Lv2

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「!?走って!『権現・空人形』」


フィリアはとっさにアイルたちに指示を出しながら、HPを消費してデコイを作成する。HP を込められた白く輝く球体が彼女たちとは別の方に飛んでいく。


「うそ!?」


しかし、シードフィッシュたちは生み出された輝く球体デコイを無視して、フィリアたちの方に向かってくる。その数は今も増え続けており、現在は数えられないほどになっていた。


(最悪です。せめて私以外を逃がせないでしょうか。何か方法は…)


フィリアは最後尾を走りながら、彼らを生かすことだけを考える。準備していた秘策は機能しない。なら…


現在の踏破率 60%

シードフィッシュとの接触まで あと15m 


まだ、疲れは出ていない。しかし、直実にその距離を詰めてきている。


現在の踏破率 70%

シードフィッシュとの接触まで あと10m 


フィリアとアイルに若干の疲れが見え始める。シードフィッシュが迫る音が大きくなり、選択の時が近いことを告げる。


現在の到達率 80%

シードフィッシュとの接触まで あと5m 


フィリアは風を操作してアイルにだけ聞こえるように声を届ける。


「アイル!このまま進んでください。私は

ここで足止めします。あとで会いましょう。」


その言葉を聞いたアイルは何かを言いたそうな顔するが、前を進む2人を見ると無言で進むことを選択する。


(任せましたよ、アイル。)


あの異界に帰ればもう二度と逃げ出せないことも、自身の理想を叶える機会がなくなることも理解している。それでも、この時のフィリアは彼らを優先した。


(神よ、どうか彼女たちをお救いください。)


一度は信仰を捨てた身でこうして祈る滑稽さ。それを理解しながらも、別れた3人の幸福を祈る。


振り返った、フィリアは周辺に水を浮かばせ迎撃の準備をするのであった。


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フィリア

LV 3

HP  17/35

MP  40/44

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現在の到達率 80%

シードフィッシュとの接触まで あと… わずか

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