初めてのfail


バイトも終わり「ただいまー」と、家に帰り一目散にTOTOに向かう。


今日は、zombiとsunaoと一緒に参加する約束をしていた。

「20時にログインして」と。

僕が先にトリートに参加表明して、それを見て後から2人が参加する予定となっている。


「簡単であれば、なんでも良いよ。」

とは言われているが、もう僕よりも遊んでいるであろうzombiは良いとしても、ほぼログインすらしていないsunaoのことを思うと前回のようなドッキリに遭遇させたくないため、時間をかけて慎重に選んでいる。


「よし、これだ。」

参加した後に、個別チャットにて二人に連絡をする。

ちなみに、トリートはすべてナンバーが付与されているため、一緒に参加をしたい人にとっては合流はしやすいのだ。

僕が今回選んだのは、『No.20240802030104』である。

ナンバー自体は特に何の変哲もない。

日付とその日の投稿番号である。


「よろしくっす」

「お久しぶりです!今日もよろしくですっ。」

二人が参加できたようだ。

「こちらこそよろしくです。」

「この前みたいなどっきりは仕込んでないっすよね?」

ほら来た

「それはわからないですけど、前も僕が仕込んだわけではないですよ!」

「kyouさんが選んだから、きっと大丈夫ですよねっ」

「いやいやいや。前のもkyouさんが選んだやつっすからね。」

「あ、そうでしたね。じゃあ、今回も、、、。」

「sunaoさんまで!」


と、会話が盛り上がる中。

「よろしくお願いします。」と新たに参加者が。

名前はshioと表記されている。


「shioさんよろしくっす。」

「よろしくお願いしますね。」

「よろしくお願いします。」


「すみません、皆さんお知り合いでしたか?お邪魔でなければご一緒したいのですが。」


「大丈夫っすよ。」

「僕たちも初めの時は、そんな感じだったので。」

「一緒に楽しみましょう!」

「ありがとうございます。実は私、今まで一人でやってたのですが、なんか寂しくなって。。。」

「確かにそうですよね。私も一人ではできないかなぁ。」

「僕は一人でもやりますけど、みんなとやる方が楽しいですよ。」

「自分も大体複数人とやるっすよ。一人だとつまんないっす。」


「そう言ってもらえると、ありがたいです。今日はよろしくお願いしますね。」


少し話をしていると、shioは地方で主婦をしているらしい。

保育園に通うお子さんもいるらしい。

普段はこのような時間にログインすることはないが、

今日はお泊り保育でお子さんがおらず、また旦那さんも友人と遊びに出かけていて暇をしていたようだ。



「トリート開始だクスン!みんな準備は良いクスン?」、

「3・2・1・0!それでは、トリートの世界にワープだクスン!」


「さあ今日はどんなトリートっすかね。」

「楽しみですね」

「頑張りましょう。」

「はいっ。」


「到着だクスン。」

着いた先は、海辺の浜のど真ん中。

「なんか良い景色。」

「季節にぴったりっすね。」

「ビーチバレー、、、ですかね?」


目線を少しに先にやると、浜辺にポツンとボールとネットがある。

「ほんとですね。」


「おいっ。お前達なにをそこで突っ立ってるんだ。さっさと準備しろ!やる気あんのかぁ。」

低くて太い声が後ろから聞こえる。


振り返ると、サングラスをかけた色黒の『ザ・監督』が腕を組んでいた。


「ここで一つ忠告だクスン。このトリートには、時間設定が設けられているんだクスン。」

「タイムリミットは、、、、、、30分だクスン。みんな頑張るんだクスン。」


「えっ。」

「時間制限?」

「しかも30分っすか?」

「これは初めてのパターンですね。。。」

「kyouさんも初めてなんですか。」

「自分も初体験っす。しかも初級とはいえ、クリアまで大体45分くらいかかるっすよ。」

「私、、、、最初で不安です。」

「僕も不安ですが、みんなで何とか頑張りましょう!」

「私は運動には自信がありますので、全力で頑張りますねっ。」

「第1ステージ準備運動だクスン。みんな準備は良いかなっ」


運動が苦手な僕は冷や汗が止まらない。

一方で、運動系は初めてで、どんなのだろうという好奇心もある。


「まずは、準備運動からだ。ここからネットまでダッシュ5本!ネットからここまで戻るときはジョグだ。」


― ピィー ―

ザ・監督が笛を鳴らす。


「ルール説明だクスン。このステージは、息を合わせてタイピングをするステージになるんだクスン。

「表示に合わせて、ダッシュの時には、『DASHU』の文字のタイピングだクスン。ジョギングの時には、『JOGGING』の文字をタイピング。あ、たまに違う文字も出てくるから注意するんだクスン。」


「タイピングなら、まあ何とかなりそうですね。」

「安心っすね。」

「私あまり自信ないです。。。」

「私もずっと運動しかしてこなかったのですが、何とか頑張ります!」


「それでは、開始!」

― ピィー ―


1・2・3 DASHU

1・2・3 DASHU

1・2 DASHU

1・2・3 DASHU

1・2・3 DASHU


― ピッ ―

1・2・3 JOGGING

1・2 JOGGING

1・2・3 JOGGING

1・2 JOGGING

1・2・3 JOGGING


「はい、休むな休むなー。続けていくぞ。」


「これくらいなら行けそうっすね!」

「私やっぱり、やばいかも。」

確かに、クリア判定内ではあったようだが、画面で確認する限りshioのタイピングは遅く、また打ち直しも何度かあったようだ。

「まあでも、基本同じ文字のタイピングだから、きっと慣れますよ!」

「頑張りましょ!」


「2本目開始!」

― ピィー ―

1・2・3 DASHU

1・2・3 DASHU

1・2 DASHU

1・2 DASHU

1 RUN


「うおっ」

「やばっ」

「あっ、っちょと」


― ブゥーー ―


「ダッシュやり直し!1本追加!」


「ごめんなさい。。。」

shioがタイピングできなかったようだ。

「大丈夫っすよ!」

「次がありますよ!」


ここでしずくの声が聞こえる。

「やり直しになったクスンね。言い忘れてたけど、ここは『5往復連続して成功すること』がクリアの条件だクスン。まだまだ第1ステージの序盤だクスン、みんな頑張るんだクスン!」


「っつ⁉」

「出たっす、鬼畜ステージならぬ鬼畜しずくたん!」

「これは。」



「1本目!」

― ピィー ―

1・2・3 DASHU

1・2・3 DASHU

1・2・3・4 DASHU


― ブゥーー ―


「わっ、ごめんなさい!」

今度はsunaoがミスをしたようだ。


「いや、これは僕もやばかったです。」

「わ、私も遅いから何とかなっただけで」

「こういうパターンもあるんすねっ。」

zombiは一人余裕がありそうだ。

「次行きましょう!次!」


「1本目」

― ピィー ―

1・2・3 DASHU

1・2 DASHU

1・2・3 DASHU

1・2・3 DASHU

1 DASHU


「おっ、なんとか!」

「いけましたね。」

「ですね。」


― ピッ ―

1・2・3 JOGGING

1・2 JOGGING

1・2・3 JOGGING

1 JOGGING

1・2・3 JOGGING


「よっしゃ。」

「できましたー」

「良かったー。」


まだ1往復終わっただけなのだが、何故か達成感がある。

第1ステージの序盤であることを忘れていたのだ。

ましてや、この場面ですでに5分過ぎていることすら忘れていた。

そして、このトリートの全容を知るどころか、第1ステージの中盤の内容すら知ることもなく、制限時間を迎えてしまうことを、この時の僕たちは想いすらしなかった。


「2本目」

― ピィー ―

1・2・3 DASHU

1・2・3 DASHU

1・2・3 DASHU

1・2・3 DASHU

1・2・3 DASHU


「このパターンもあるんすね。」

「全部これだと良いんですけどね。」

「ほんとに。。。」


― ピッ ―

1 JOGGING


― ブゥーー ―


「あー、ごめんなさい!僕です。」

「油断したっすねー。」

「今のは危なかったですね。」

shioは集中しているようだ。


「1本目!」

― ピィー ―

1・2・3・4 DASHU

1 DASHU

1 RUN

1 RUN

1 RUN

「いけたけど。」

「もうほぼRUNっすね。」

「しかも、リズムも。」

「ですねー。」


― ピッ ―

1 JOGGING

1・2・3 JOGGING

1・2 RUN

1・2 JOGGING

1・2・3 DASHU


― ブゥーー ―

「いや、これはあかんっす。」



それから、、、。


・・・・・・

「3本目ぇ」

― ピィー ―

1・2・3 DASHU

1 DASHU

DASHU


― ブゥーー ―


・・・・・・

「1本目ぇ」

― ピッ ―

1・2・3 DASHU

1・2 TOTO


― ブゥーー ―

「なんでやっ」


・・・・・・・・。


急に画面が暗転した。

「制限時間30分経過だクスン。トリート失敗だクスン。残念だクスン。」


「えっ、もうそんな時間?」

「わー、まじっすか。」


暗転した画面には、大きく『FAIL』の赤文字が表示されている。


「トリートは失敗だけど、元の世界に戻るんだスクンッ。戻ってからも10分間は、グループでオープンチャットできるから、是非交流を深めるんだスクン。IDの交換をするのもおススメだスクン。それでは、しずくはここでバイバイだスクンッ。」

しずくは、ムスっとした表情で、両腕を組んでいる。



「いつの間にかそんな経っていたんですね。。。」

「あー、皆さんごめんなさい!」

「いやいや、shioさんのせいじゃないっすよ!」

「そうですそうです。」

「結局、みんな1回はミスってたし。」

「このトリートは鬼畜感半端なかったっすね。」

「ですねー。僕FAILしたの初めてですよ。」

「途中から、監督『何本目』の『目』が『目ぇ』になってて、ちょっと部活思い出して、クスッとしちゃいました。」

「確かに!監督も疲れたんですかねっ。」

「自分的には、最後の怒りしずくたんが見れて幸せっす!」

「怒り顔のしずくも可愛かったですねー。」

「あっ、すみません。主人から電話かかってきたみたいで。私、ここで失礼しますね。今日はありがとうございました!」

「お、残念っすね。でも、こちらこそありがとうっす!」

「ありがとうございました。また機会があれば!」

「ありがとうございましたー!」

「じゃあ、僕らも解散しましょうか。」

「ですねっ。」

「そうっすね。自分もこの後飲み会があるっす。」


それじゃあと言い、それぞれオープンチャットから退室をした。

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