協力プレー
キーンコーンカーンコーン
「明日から夏休みになるが、みんな羽を伸ばし過ぎないように、以上。」
「あきらー、今度の土曜日、海行こうぜ。海。」
「いいねー。」
「他、誰誘う?」
「たつきとかしんじとかは?」
「私、8月に旅行行くんだよねー。」
「えー、ゆめちゃん、めっちゃ良いじゃん。」
「お土産買って来るねー。」
「なおは、陸上の大会があるんだよね、確か。」
「うん。」
「そうなんです!我がエースのなおは、全国大会目前なのです!」
「そっかぁ。また今年も遊べなさそうだけど、頑張ってね。」
「うん。ありがと!」
クラスのみんなの楽し気な声も気にせず、僕はそそくさと教室を後にする。
そう、なんといっても、今日ようやくレベル3になる日なのだ。
自転車をいつも以上に飛ばして、あっという間に家のドアを開ける。
PCの電源だけ先に入れて、着替え手洗いを済ませる。
「さて、始めるか。」
今日は気分が良い。
明日から夏休みでゲームし放題だからだ。
バイトはあるが、学校があるときは1日1回しかできなかったのが、トリート上限までする時間があるのだ。
今のトリートの上限の3回は余裕でできるし、昇格すると、上限が回復するため最高6回できる。まあ時間的に今日は3回が限度っぽいけど。
僕は、『楽しい・簡単・TRT待ち』を検索し、待機する。
待機中に、ささっと晩御飯を済ませる。
何かを口にすると、すぐにお腹が痛くなる。
― ぎゅるる ―
ほらきた。
待機中の時間までに何とかトイレを済ませる。
長い時は20分程、トイレに籠ることもあるから、冷や汗ものだ。
今日は何とか数分で済んだ。
準備万端な状態でPC前に戻ると、珍しく2人も参加してくれていた。
待機時間は、残り10分。
待機中の画面には、zombiという人が「よろしくっす」と、sunaoという人が「よろしくです。kyouさん、お久しぶりです、今日も頑張りましょう。」とオープンチャットを送ってきていた。
zombiは初めましてだが、sunaoは唯一一緒にトリートをこなした人だ。フレンド承認してくれてないのに、『どの顔で』と思ったが、よく見るとフレンド承認してくれていた。承認時にメッセージも送ってくれていて、「ごめんなさい!色々忙しくて、あの時からログインしていなくて。遅くなったけど、よろしくです。」と。
― 良かったぁ ―
せっかく仲良くなれそうな人が見付かったから、申請スルーは正直めっちゃ悲しい日々だったのだ。
「こちらこそよろしくです!僕、始めて1週間なので、色々教えてください!」とオープンチャットに送る。
と共に、個別チャットで「大丈夫ですよー。お仕事(?)ですかね、頑張ってくださいね。僕は学生なので毎日ログインしているので、機会があればまた一緒にしましょ!」とsunaoに送る。1分も経たないうちに、sunaoから「私も学生なんです!部活が忙しいのと、基本CRT専で。平日は勿論ログイン難しいんですが、夏休みも合宿とか色々あって、あまりログインできないかもですが、よろしくです。」と。
返信のメッセージを送ろうとしたところ、
「トリート開始だクスン!みんな準備は良いクスン?」と、しずくがアナウンスをする。
「3・2・1・0!それでは、トリートの世界にワープだクスン!」
画面の映像が、グルグルグルグルと渦を巻いている。
「到着だスクン。全3ステージに分かれているんだクスン。今回は、謎解きがメインとなるトリートだスクン。みんなで協力してクリアするんだクスン。」
「なんかメルヘンですね。」sunaoが口を開く。
到着した先は、全面花畑が広がっている。
「そっすね。。。」と、zombiが答える。
「なんか、穏やかな雰囲気で良かったですね、安心しました。」と僕が続く。
「あ、そういえば、誰かアイテム持ってます?一応、僕2つなら持ってます!」と全体に共有する。
「私は、1つなら。。。」とsunao。
「自分は、3つ持ってるっす」
「ありがとうございます!できるだけ最終ステージまで温存しておきたいんで、何とか2ステージクリアまでは自力で頑張りましょう!」
「ですねっ!」
「うすっ!」
◇◇◇◇◇◇◇
「この物置に掃除機を戻して」
重いので僕が持ちますね、とゲームの世界にも関わらず何故か率先して僕が動いていた。
「この鍵で物置を施錠して、と。」
「完了っすね。」
第1のステージが『先ほどの花畑から家に辿り着くまでの過程』で、
第2のステージが『辿り着いた家で家事をする』という単純なものであった。
僕たちは、いくつかの謎解きを経て、家の中にいる。
家は、普通の一軒家であるが、周りには何もないようだった。
というよりも、分からないという方が正しい。
玄関先を掃除する謎解きもあったが、その先の外の様子は見えなかった。
第1のステージでも、花畑を歩きながらその道中でいくつかの謎解きのようなミッションがあり、数人の登場人物が現れたものの、基本的には花畑の背景から変化がなかった。
「ふぅ。何とか、アイテム使わずに最終ステージまで来ましたね。」
「なんか拍子抜けな感じもするっすね。」
「そうですね、メルヘンな感じも変わらずになんだかさくさく進めましたね!」
「これなら、自分一人でもいけたかもっす!(笑)」
「確かに。僕がやってきた中でも結構簡単な気がします。」
「そうなんですね。それでも私は皆さんと一緒で心強いです!」
僕たちは、次の指示を待ちながら談笑をしている。
「ちょ、ちょっと待つっす。」
「zombiさん、どうしました?」
「なんか窓の方が、、、。」
僕とsunaoは、部屋に一つしかない唯一の窓に背を向けており、気付くのが遅れたが、振り返ると、先ほどまで明るかった景色が暗がりを見せていた。
いや、暗がりというよりも
「黒い。。。」
そう、異様にドス暗いのだ。
―ドンッ!―
「えっ。」
「な、なんすか。これ。」
家の壁を叩くような音がする。
と共に、部屋の照明が消え、真っ暗になる。
「ちょっ」
「こ、こわい。」
「自分ホラーは苦手っす、、、」
―ドンッ―
天井の方から
―ドンッ―
ドアの方から
―ドドドドドドドドドッ―
家の全体、四方から音が鳴り、
音の間隔が短く、
そして、音が段々と大きくなる。
―ドンッ―
今までで一番大きな音が部屋中に響く。
もはやどこで鳴ったのか分からない。
「ひうぃぃww」
―チカチカチカッー
音が止み、静けさと共に、部屋の照明が点き、外も明るくなった。
「よ、良かったですね。」
「何だったんすか、今のは。」
「もう安心、なんですかね。」
「でも、次のアナウンスがまだ出てないですよね。」
「確かに。」
「バグっすかね。なら、逆にレア!」
―スンッー
再び、部屋の照明が消え、明かりは窓の方だけになる。
「ひぇ」
「なんなんすか、もう。」
「あ、、、。」僕は見てしまった。
というよりも、どうしてもそちらの方に注意がいってしまったのだ。
「きゃぁぁ」
「ぎゃぁqqqq」
2人とも気付いたようだ。
窓から覗く、異様な影に。
「最終ステージ開始だスクン。クリア条件、『覗く女から逃げ切れ』だスクン!」
しずくがそれっぽい声色でアナウンスをする。
「それでも、しずくたんは可愛いっす。」
「ぎゃぁqqqq」
「おわっっ」
「わぁぁ」
・・・・・・・・。
「最終ステージクリアだスクン!みんなおめでとう!」
しずくがいつも通りの笑顔で出迎えてくれる。
「元の世界に戻るんだスクンッ。戻ってからも10分間は、グループでオープンチャットできるから、是非交流を深めるんだスクン。IDの交換をするのもおススメだスクン。それでは、しずくはここでバイバイだスクンッ。」
しずくが、立ち上がり前足で手を振っている。
最終ステージは、ホラー要素はあったが、内容自体は謎解きの鬼ごっこのようなもので、非常に簡単ではあった。
、、、簡単ではあった。
「とりあえず終わりましたねー。」僕は一息つく。
「そうですね。結構簡単で良かったです!」
「アイテムも使わなかったっすからね。にしても、しずくたん天使っす。」
「zombiさん、しずくがお好きなんですね。私も好きなんです!」
「そうなんす、しずくたんが可愛くてやってるようなもんっす!」
「僕もしずくに、今日は特に癒されました。。。」
「そうですね、まさかホラー要素が入っているなんて。」
「僕も全く思いもしなかったです。『楽しい』で検索したのに。」
「私は、kyouさんがいたのを偶然見つけて何も見ずに参加していて。」
「自分は、今日アプリ入れたばっかりで初めてだったから、お2人が先にいて心強いと思って選んだっす。」
「、、、、ごめんなさい。僕がもうちょっとちゃんと確認していたら。。。」
「いやいや。kyouさんのせいではないですよ!ね、zombiさん?」
「そっすよ。自分で選んだことっす。」
「お二人ともありがとうございます!」
「まあ、でも初回がこれは、割とトラウマっすけどね。」
「確かに!私も2回目だから次のトリートが怖いかも。」
「ええー。お二人ともまた一緒にやりましょうよ。」
「そうですね!私ログイン少ないですが是非ID交換しましょ!」
「っす!」
IDを交換した後、3人は解散した。
「さてと。後1Tクリアでレベル3昇格だからあと1つだけやってから今日はもう寝よう。」
今度は穏やかにクリア。参加は僕一人だったが。
何とかレベル2にて10Tをクリアした。
クリアを称して明るい音楽と共にメッセージが流れ、しずくが現れる。
「おめでとう!レベル3に昇格だスクン!『見習い冒険者』のTRT称号をゲットだスクン。引き続きゲームを楽しむんだスクンッ!あっ、それと昇格ボーナスでTを回復しといたんだスクン!続けて遊べるんだスクンッ。」
僕は両手を組んで、ふぃー、と深呼吸をする。
「本当は昇格のタイミングを時間があるときに合わせたかったんだけどな。まあでもとりあえずミッションコンプリートだっ。さて寝るか。」
PCの電源を落とし、静かに布団に入る。
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