日常 【伊賀のとある一場面】
「早く社会人になりたい。」
僕は切実に思う。
勉強が嫌いという訳でもなく、何をして働きたいという訳でもないのだが。
成績に関しては、担任からピシャリと「今のままではどの国公立にも受からない」と言われている程度である。
「先週伝えていた通り、今日は過去問を解きます。3年前のF大の設問2と設問3を今から解いてください。時間は35分。それでは開始。」
予鈴前に「裏を向けて配るように」とプリントを配布して、予鈴後は先ほどの言葉だけを伝えて、教師は教室を立ち去った。
こういうときに、自由な社会人と束縛された学生の対比を思い知る。
そして、予告されてたとはいえ、この静けさが僕にとっては一番の苦行である。
―キュッキュッ―
二時限目の古文の授業中、僕は座りながら、椅子を少し左右前後にずらす。
人によっては、勉強の疲れをほぐすために姿勢を変えるための動きであったり、偶然動いてしまったりと、
一見、特に何の意味もない行動のように思えるが僕にとっては、集団生活においてとても重要な行動である。
それはすぐに分かる。
―ぐぅぅ―
僕の腹部から異音がなる。
お腹が減っている訳ではない。
お腹が痛い訳でもない。
ただガスが溜まっているのだ。
いつからこうなったのかは覚えていない。
物心ついた時には、すでにこの状態だった。
「腹減るよな。俺も朝練の後、食べ忘れてさ。」
と、僕の肩を叩きながら、隣に座っている坊主頭の爽やか男子が笑顔を向ける。
「そ、そう。僕、朝ご飯食べ忘れて。」
おかげ様で言い訳のバラエティーは、事象に関わらず、すらすらと出てくるようになった。
このお腹のせいで、僕自身の人生の歩み方も決められそうだ。
「先生いないしさ、これあげるよ。今食べちゃおうぜ。」
そう言いながら爽やか君は、ポケットからチョコレートを出し、僕に向けて手を伸ばす。
「え、いいの?」
「いいよいいよ。俺も食べるタイミング探しててさ。」
「あ、ありがとう。」
「おうっ。良い点取るためにも集中できないとな!」
「だねっ。」
僕は、正直お腹に何かを入れたくはなかったのだが、好意に断ることができず、爽やか君に合わせて、一粒の物質を口に含んだ。
―ぐぅぅぅ―
只今4限目、これは普通に空腹の知らせだ。
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