始まり
僕は、伊賀世綿(いがよわた)。
都立の高校に通う、普通の陰キャな高校2年生の17歳。
ちなみに、昨日誕生日だったが、声を掛けてくれたのは家族だけ。
夏休み目前で覚えやすいはずなのだが。まあそれは良い。
部活にも入らず、家に帰ってネット閲覧をする毎日。
週3でアルバイトはしている。
楽しいこと、好きなことは特にない。
幼馴染のような、そんな間柄の異性も勿論いない。
異性どころか、これといって仲の良い同性の友達すらも、、、。
いや、良いんだ。
僕にはネットがある。
つい最近始めたこのゲーム「トリートメント オン トュデイズ オンライン」に夢中だ。
それぞれの頭文字を取ってTOTO(トット)と呼ばれている。
ゲームの内容は、至ってシンプル。
実際に悩みを抱えた人が、その悩みを投稿する。
その悩みを、AI機能を使って、TOTOがRPG風にストーリーを創り、それを皆で攻略するというものだ。
ゲーム内のRPGを冒険するユーザーを『TRT(トリイタ)』、RPGを投稿するユーザーを『CRT(クレイタ)』と呼んでいる。
基本的にはどちらとも両立して楽しめるゲームではあるが、片方のみを重点的にやりこんでいるTRT専門(トリ専)やCRT専門(クレ専)なるユーザーも存在している。
ちなみに、僕は完全にトリ専である。
製作は、株式会社コウォーク社という当時無名の会社であったにもかかわらず、配信開始直後のダウンロード数10万人、3か月目には500万人を突破していたようで、かなりの規模ではある。
日本海外問わず芸能人の錚々たるメンバーを起用し、配信開始前から数パターンのTVCMが放送されていたことも要因の一つである。
ただ、話題性はあったものの、ゲーム実況者や某インフルエンサーの多くは、ゲームのシンプルさからゲーム自体の寿命が短いだろう、とあまり手を付けたがらないようである。
海外の某有名なゲーム実況者が、『TOTO will be fizzle out』、一過性で尻すぼみなゲームになるだろうと評価したことから、日本でもそのように思っている人は多いようだ。
余談ではあるが、日本では、このfizzleというフレーズが耳に残ったようで、勢いだけの人や勢い任せの計画を『フィズる』と言ったり、そのようなことをしている人を『フィズるくん』と呼んだり、そのようなことを避ける時に『フィズんなよ』と言ったり。
また、とあるテレビ番組にて一発屋と呼ばれて最近全く姿を見せなかったお笑い芸人Ⅹが、トリオとしては露出が高いがその中の一人、ギャグやトーク技術がなく華がないYにいじられていた時に『フィズるがマシ!』と自虐的に一蹴したり、とTOTOの文字やゲーム性とは全く無関係なところで、言葉自体が話題になるという謎な現象が生じている。
そして、実際に、配信開始後ちょうど1年の現時点では、アクティブユーザー数20~30万人ほどに落ち着いたようであり、収束の一途をたどっている。
― さてと ―
「今日はどんなトリートがあるかなっ」
リアルタイムでRPGが作成され、解決されれば、そのRPGには参加できなくなるので、気になる投稿を探すのためには一秒たりとも目が離せないのだ。
―ぎゅるぎゅる―
「うっ。こんなときに、、、。」
そう、僕はお腹が緩い。
これも部活に入りたくない要因の一つ。
便座に座ると落ち着くこともたまにある。
「ふう、あと6Tで昇格だからな。」
TというのはRPGのことで、RPGのことをこのゲームではT(トリート)と呼ぶ。
僕はこのゲームを登録して、まだ6日目の初心者。
トリート1つにつき、おおよそ1時間かかるため、平日は基本1トリートしかできない。
レベルは全8レベルに分かれていて、それぞれトリートのクリア数に応じて昇格していくシステムだ。
僕は今レベル2で、レベル3には10個のトリートをクリアすることで昇格できる。
― ジャー ―
「ふう。今日も絶好調な軟便でした。」
物心ついた時から、快便というものを実感したことが無い。
「さて、始めるか!」
僕は、気を取り直してノートPCの電源を入れて、TOTOのアプリを開く。
僕は、トリート参加用のログインページに入り、下へ下へとスクロールする。
トリート参加は、メニュー画面の『TRT』のボタンを押し、参加したいトリートを選択することで参加することができる。TRTのページには、すでに開始している『現在遂行中のトリート』、これから開始する予定の『待機中トリート』と、まだ開始予定ではない『TRT待ちのトリート』の3つに分かれている。
トリートの構成は、基本3ステージに分かれている。それぞれのステージの最後には、小ボスや中ボス、ラスボスなるものが存在する。トリートの様子は、投稿者であるCRTが選ぶ項目によって多種多様である。時には、謎解きのようなものが主になったり、戦いが主になったりと、進み方も様々である。CRTが選んだ項目は各トリートの画面上に表記されているが、選んだ項目を一部隠す方法もあるようだ。TRTは投稿されているトリートを何となく眺めて興味あるものを選んだり、検索ワードを入れてある程度取捨選択してから選んだりしている。ちなみに、トリートの表記には投稿者の名前は表記されない。『誰が作った』ではなく、純粋に『興味のある投稿』で選ぶことができる。
― まあ、僕に贔屓に選びたくなるような興味のある人物などいないのだが ―
先の、TRTのページ内が3つに分かれているのは、『進行中のトリートでも、1ステージ目進行中であれば途中参加が可能である』ということと、トリート参加表明後が始まるまでに30分間の待機時間があり、その間に他の参加者を待つための『待機中のトリート』、まだ誰も参加をしようとしていない『TRT待ちのトリート』で分けられている。
僕はまだ、誰かが参加しているトリートに参加することができず、いつも『TRT待ちのトリート』から選んでいる。そして、その中でも一人でも完結出来そうな『簡単』モードを選んでいる。一昨日たまたま、僕が参加表明した時に、他のTRTが参加してくれて、2人でクリアしたことがあったが、誰かと参加したのはそれっきりだ。勿論、ここぞとばかりにフレンド申請はした。
― まだ申請承認はしてもらえていないが ―
「今日も一人でやるか。」
僕は、CRTの検索機能で『悲しい・簡単・TRT待ち』で検索し、適当なトリートに参加表明をした。
待機中の画面にてしずくがダンスをしている。
このキャラクターがなんとも可愛らしくて、女性人気もあるようだ。
しずくは、猫のアメリカンショートヘアーのような風貌をしている。身体は薄い灰色ほぼ一色であるが、前足後ろ足は真っ白で、所謂"靴下"を履いているようである。服装もかなりおしゃれで、トリート毎で服装が異なっているようだ。おそらく、CRTの選択肢によって、服装が変化するのだろう。
そうこうしているうちに、
「トリート開始だクスン!みんな準備は良いクスン?」、
「3・2・1・0!それでは、トリートの世界にワープだクスン!」と、
しずくが立ち上がり、前足を3本、2本、1本と折り畳み、アナウンスをしてくれている。
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