32:D

私は悠の心拍数と脳波を確認しながら、慎重に話を続けた。


『ユートピア』と『ディストピア』の対立、その代表者であるUとDの使命。悠に打ち込んだ薬とその作用、私たちの身体について。そしてこれからの組織の在り方など。


悠は落ち着いて話を聞いてくれた。うん、うんと何度も頷きながら。

ひと通り話をしたタイミングで彼の母が2枚の写真を悠に見せた。


1枚目は彼の父、Uの若い頃の写真。

2枚目は……。私もその人を画像で見るのは初めてだった。


肩を組んで楽しそうに笑うUと、二代目D。


「父さんの横にいるのは、イス? でも、年齢が……?」


「この女性はJoanna Dys Once(ジョアンナ・イス・ワンス)。

私のオリジナルで、あなたのお父さんの先輩にあたる人よ。

彼女の、二代目Dの意思を継ぐため、クローン技術で作られたのがこの私……」



悠の母親は組織の研究所で働く記録者であった。実験の様子や研究対象の記録撮影と解析が主な仕事。趣味が高じて始めたカメラ仕事だったが、いつしか日常生活にも取り入れられていた。


研究所でUに賛同し、二代目D……つまりUにとっての先輩との約束を一緒に果たすため、ゼロ世代の悠を引き取り育ててきたのだ。Uの意思を継ぐように、その小さな子に「悠」という名前をつけて。



カプセラーでも投薬がされなければ本能が働く。

思春期に誰かを好きになったり、デートをすることもあるだろう。

反抗期だって10年後は笑って話せる思い出に変わる。


母は悠の成長を喜び、事細かに記録してきたのだ。

親に内緒でデートをする息子の行動に、感動すら覚えて夢中でシャッターを切った。

寡黙な父と世話焼きの母の想い。内に秘められた真実を知った悠は、声を殺してまた泣き出した。


私はとても気まずくなり、部屋を飛び出した。

自分にも母がいるとしたら、こんなとき抱きしめてくれるのだろうか。





つづく

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