30:D
私は賭けに勝った。
暴走した悠にどれほどの効き目があるかわからない制御薬だったが、彼が倒れたあと立て続けに3本分注射をしたのだ。本能レベルで作用する強い薬が功を奏したようだった。
後続の仲間たちが武器を構えて注視するなか、悠は静かに上体を起こす。
もう危険はなさそうだが、悠には一時的な記憶障害のような症状が出ていた。
しかし、悠よりもずっと彼の父、Uのほうが重篤な状態である。
リミッターを外し、何十発と殴られ続けた身体が無事であるはずがない。
私は彼が意識を取り戻したことを伝えると、Uは周囲の制止を振り切り、傍で拾った棒切れを支えにして悠のもとへと近づく。
「……父さん?」
「悠、黙って話を聞け。お前は俺の跡を継ぎ、組織をまとめろ。
三代目のUとなり、仲間たちと……。人類を……。
先輩……。結局、俺は世界を均せず……。約束も……」
話終わるよりも先にUはしゃがみ込むように前のめりで倒れ、そして静かに息を引き取った。
悠は父の肩を何度も揺さぶり、泣いていた。
彼がどこまで状況を飲み込めているのかわからない。
しばらくの間、遠巻きに見ていた仲間たちだったが、ひとり、またひとりと悠に手を貸すものが現れ、彼とUを車に乗せてエリアへと戻っていった。
しばらくして、仲間の遺体を収容し終えた私たちも撤収。
ふと空を見上げた私は、東の方角が白んできていることに気がついた。
「長い、本当に長い夜だったわ」
つづく
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