28:D

持久走は得意だが、ここまで全力で走り続けることになるとは。

南西地区まで体力が持つのだろうか。私は考えることやめ、ひたすら走った。



どれくらい走り続けたのだろう。

ふと怒号にも似た悲鳴と破裂音を耳にし、足を止める。


音を頼りに進むと、火柱が上がる建物を発見した。あそこが現場に違いない、そう判断した私はいつものように気配を消して移動する。遠くからはよく見えなかったが、建物に近づくにつれ何人もの仲間の死体をまたぐ必要があった。


途中、道路脇で倒れていた特殊部隊員の装備を調べて制御薬を探した。カプセラーなら誰しも常備しているものだが、エリアから着の身着のままで飛び出した私は手持ちの薬がひとつもなかった。仲間の遺品を漁るのは忍びないものの、なによりこの制御薬は悠を止める可能性があったのだ。


理想を言えば薬は錠剤タイプではなく、ペン型注射のほうだ。これは口から飲み込む必要がなく、しかも一瞬で済む。戦場に出撃している隊員なら、即効性のある後者の方が支給されているはず。


先ほどは悠を暴走させるきっかけとなってしまったようだが、あの薬はもともとあらゆる本能や欲望を抑制するもの。興奮状態が続く身体に立て続けに投与すれば、本来の効果を発揮し彼を正気に戻せる……。


「あった!」


私の予感は見事的中。隊員たちはペン型注射を所持していた。

サイドバッグに入っていた3本をポケットに入れると、悠がいるであろう轟音の中心部へと向かった。


そして遠目で悠を確認したそのときだった。

私は遠くから近づくヘリの音に気がついた。


エリアからの増援部隊だろうか? しかし、ヘリまで持ち出すとは本腰を入れて悠を処分するつもりなのかもしれない。私は手ごろな民家の屋根に上ると、闇夜に目を凝らし音のする方向を見つめる。


「武装ヘリを出撃させたのなら、状況は最悪……」


幸いにもヘリは普通の民間運用型であった。

しかし、座席から身を乗り出す男を見て驚いた。なんとそこにはU、彼の父親が乗っていたのだ。


私は覚悟を決め、悠のもとへと走り出す。





つづく

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