22:D
「やぁ、久しぶりだね……」
悠に会えたのは良かったものの、まだ気持ちの整理がついていなかった。仲間たちの話からすると、どうやら私を追ってエリアに侵入したようだけど……。
「イス、ここがエリアって所? できればこの拘束、解いて欲しいんだけど」
「悠、今はまだ無理。でも、そのまま落ち着いて私の話を聞いてくれる?」
私は言葉を慎重に選び、悠にゼロ世代の説明をしようと試みた。なぜカプセラーにしか反応しない装置が起動できたのか。ゼロ世代とは何か。彼のアイデンティティを傷つけないギリギリのラインで説明するため、長い長い話になってしまった。悠は時々唸ったり、ため息をついたり、涙を流したりもした。
「落ち着いた?」
「……」
精神的な安定が確認できるまで、拘束衣は絶対に脱がせられない。
地球上の野生生物だけではなく、もちろん人間にもリミッターは存在する。よく火事場の馬鹿力と呼ばれる現象がそれで、普通の人でも条件さえ揃えばとんでもないほどの瞬発力を発揮するのだ。
そして悠もれっきとしたカプセラーであり、遺伝子レベルでのチューニングも施されている。私たちと違うのは本能をコントロールする制御薬を常用していないこと。ゼロ世代は人間社会に馴染むため、意図的に投薬無しでの実験をされているカプセラーなのだ。
もしも、この不安定な精神状況のなかで悠のリミッターが外れてしまえば、非戦闘員はもちろんのこと第一世代の私でも勝ち目はない。昔、夜の学校で彼と対峙したときとは、何もかも状況が違う……。
当直の医務官と相談した私は、少しでも悠が落ち着くことを期待して彼に水と一緒に手持ちの薬を割って半錠だけ飲ませることにした。そして上官の戻りを待つべく、いったん部屋を出て指令室へと戻る。
しかし私の懸念もむなしく、数分後に下のフロアから獣の慟哭のような絶叫が響き渡る。
つづく
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