16:D

アメリカから世界へと飛び火した武力衝突は拡大の一途をたどり、毎日報告される戦死者も相当数に上る。とはいえ、これも織り込み済みのシナリオ。残酷な話だけど、遺伝子レベルで再設計されている私たちは、数で勝る旧人類を駆逐できる生物的な強さを持っている。


とはいえさすがに銃を持った彼らに勝つことは容易ではないが、総合力ではカプセラーが圧倒的に有利なのは変わりない。そもそも私たちの人口は容易に調整が効くという、旧人類にはありえないアドバンテージがある。それに、この衝突を経て22世紀を迎える頃には、カプセラーと旧人類の人口比が5:5くらいにまで調整される算段となっているのだ。


衝突からしばらくは一般向けのニュースを見たりもしたが、私はここ数日間エリア内にあるライブラリーで調べものをしている。


ここから先は悠に伝えていない話。


私たちを作った『時の指導者』たちは結成当初、一枚岩ではなかった。救済計画立案の後も最終段階を決めあぐねていたのだ。


あくまでオリジナルの人類主体による世界存続を目指す『ユートピア』と、人工生命体であるカプセラーによる徹底管理を主張する『ディストピア』。組織が成熟するにつれ、表だった対立こそなくなったものの、この2つの派閥は今なお残っている。


私は後者に属している。

もっと言うと、自分の名前も英語読みをすれば「Joanna Dys More(ジョアンナ・ディス・モア)」で、イスではなくディスとなる。Dは黙字で、コードD。いずれ組織の一翼を担う宿命……。



悠の父親の反応から推測できることはひとつ。


アクセスできた範囲にある名簿の中から、珍しい『鬼月』の姓を見つけるのはそう難しくはなかった。15年ほど前のデータベースだったが、確かにその名前はあった。今よりずっと若い頃の証明写真も。さらにデータをさかのぼった私は、偶然にも悠に関する記録も発見してしまう。


疑惑は確信に変わると同時に、体験したことのないほど動揺を私にもたらした。悠に、彼に何て伝えるべきだろうか?


思えば、悠と話し込んでいたあの公園。私たちのエリアに繋がる「ゲート」を隠した倉庫は、ある企業ビルに隣接しているのだ。


その企業というのがバイオファーム。そう、悠の父が勤める研究所……。





つづく

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