14:D

バイオファーム。

それは人口増加に対応するため、工場で野菜や食肉を人工的に造る世界規模の会社の総称。さっき会った悠の父親はバイオファームの研究所員だという。


『D……』


彼の父はそう言ったようにも聞こえた。もっとも悠は別の単語に脳内変換されたみたいだけど。


「ところで、わざわざウチまで来てどうしたんだ?」


この問いに、ようやく悠の家まで尋ねた理由を思い出す。私は柄にもなく悠の手を取り、ひっ迫した状況を訴えた。


「欧州のいくつかの国家で、メディアによってカプセラーの存在が一斉にオープンにされたの。もう都市伝説では済まされない。この動きにアメリカが追従すれば日本もじきにそうなると思う」


「それって、これからどうなるの……?」


「計画は第三段階に入ったわ。肯定か否定か、融和か対立か。私たちの予測では事の発端は一発の銃声から始まると。個人での銃所持が容認されているどこかの国で、まずそれが起こる……」


無知は差別を呼び、差別は争いを生む。それはこれまでの人類史が歩んできた必然。全てを均すために生まれた私たちであっても、両者の衝突は避けられないと考えていた。


「悠が私を“留学生”って紹介してくれたおかげで今までは平気だったけど、これからはそうはいかないかも。学校にはもう顔を出せなくなるのが、ちょっと残念ね」


と、ここでやっと手を離しいつもの私に戻ろうとした。


「計画? 計画って何の話?」


私は答えに窮したが、少し考えた末、悠には伝えておくべきだと決意した。

時の指導者、救済計画(サルベーション)。そして『D』についても。


「今まで黙ってたけど、私のコードネームはD。そしてあなたはたぶん……」





つづく

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