10:D

悠と話すようになってから、世界がさらに広がったように感じる。もちろん、自由に外へ出られるようになったこともあるけど、それ以上に人間社会のことを深く学べたような気分になってきたのだ。


特に興味を引いたのは彼らの恋愛事情だった。時々、悠はクラスメイトのゴシップを得意げに語る。誰と誰が付き合っているとか、放課後のクラスで2人が親しげに喋っていただの。


カプセラーは不必要な繁殖を抑えるために、“制御薬(オピオデイン)”という本能をコントロールする薬を毎日欠かさず飲んでいる。この作用もあって私たちには恋愛という感情がなく、誰かを好きになることもない。


エリアでの教育として、様々な映画や本、アニメにゲームなどのエンタメをひと通り体験したものの、どうしても恋愛要素が出てくるシーンには感情移入ができなかったのだ。もちろん、知識としては持ち合わせているが、イメージが追い付かないというのが大きな理由。


その反面、親が子に与える愛情というものは不思議と受け入れることができた。恋愛とは異なり、見返りを求めない愛のもうひとつのカタチ。仲間たちを想い、気遣う心もそう。


「フィリア」と「アガペー」は私たちにも存在するが、「エロス」は悠たちだけの特権なのだろう。


ここでふと気がついてしまった。毎週のように公園で親密そうに話す私たちが、通行人からどのように見られているのだろうか? 示し合わせたように現れ、何時間も熱心に語り合う、17歳の男女……?


「……まさか!? アハハハハハ!」


思わず爆笑してしまう。

悠には申し訳ないと思ってしまうが、私の彼に対する感情は専ら好奇心。道端で変な野良猫と遭遇したときと同じ気持ち……あれと一緒。


そんなことを考えていると、いつもの時間になった。

私は身支度を整えて公園へと向かう。


「さぁ、今日はどんな話をしてくれるのかしら」





つづく

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